結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2002年12月23日(月曜日)

日本エブリデーロープライス(EDLP)考

ウォルマートは、直前まで西友への資本追加をしぶっていた。昨2002年の12月12日、34%の株式取得で西友の筆頭株主となる決断は、日本金融界からの強力なネゴシエーションによって、下された。

資本の投入をしても、それがグループ企業が抱える有利子負債の穴埋めにだけ横流しされてはたまったものではない。西友の営業を押し上げるために520億円は使われるべきであるし、そのことの確認が最後の最後まで行われたわけだ。しかし、西友を通してのウォルマートの日本上陸が確定したことで、わが国の小売業におけるエブリデーロープライス(ここではEDLPと略す)という概念は、さらに重くなった。

なぜなら、ウォルマートは、全世界で「EDLP布教活動」を実施している史上最大の株式会社だからである。

今のところ、西友各店舗では「ロールバック」というナショナルブランドの長期的割引き販売が行われているが、これが本格的なEDLPへの助走となるものであることは間違いない。そしてこれが今後、日本スーパーマーケット企業のほとんどに大きな影響を与えるだろうことも間違いない。

ウォルマートの食品部門のEDLPが、アメリカ中のスーパーマーケットチェーンに大きなインパクトを与え、それが1999年からクローガー、アルバートソン、セーフウエーといったトップランナーたちの大掛かりなM&Aを促進したことを思い起こすだけで、このことは理解できる。

1980年のウォルマートにこそ学べ

2001年9月『販売革新』誌の「全編まるまるウォルマート問題特集号」を編集・執筆していて、私は、多くの意外な事実に遭遇した。その最大の事柄は、EDLPが1980年、オクラホマ州のムーア店において、初めて強力なキャンペーン策としてウォルマートの店内に登場した点である。

サム・ウォルトンは、内外装を一新させたアップスケールタイプの「80年代対策店舗」をオープンさせるにあたって「エブリデーロープライス」と大書された垂れ幕を店内に下ろした。そして、「モーターオイル」を1品目に絞り込んで、大量陳列し、「ロープライスの毎日」を強調して、安売りを続けた。

売上高16億4300万ドル(日本円1ドル130円で換算して約2000億円)。店舗数276店、11の州に店舗展開をしていた段階だ。フォーマットは、ディスカウントストアたったひとつ。

つまり、「一業専心」で集中店舗展開をし、限定エリア内での占拠率を高めていくプロセスにおいて、1アイテムからEDLPは出発したことになる。

サム・ウォルトンはEDLP政策を打ち出す3年前の1977年、ミシガン州とイリノイ州のディスカウントストア「モアバリュ」16店を買収、81年にはクーンズ・ビッグK92店を買収。さらに78年にはアーカンソー州サーシーに初の本格的ディストリビューションセンターを開設し、ロジスティクスの整備にも手をつけている。

2年後の82年度末には一挙に500店を突破し、551店に成長。

500店を成し遂げたあとの83年、「値下げ特売を減らして、月1回の効果的イベント特売に集約」している。

EDLPを始めると確実に既存店売上げは下がる

私は日本のEDLPを考察するとき、ウォルマートの、この1980年時点が極めて重要な意味をもっていると思う。

一般にEDLP政策というと、日本のダイソーが全品100円で販売しているイメージを持つかもしれない。しかし80年のウォルマートは、人々の生活にとって必需のモーターオイルから、「毎日の値引き販売」を始めた。1シーズン、1年を通して、その商品を買っていただければ、圧倒的にお得ですよ、と打ち出したのだ。3年ほどでこの必需のEDLPアイテムは3000品目まで広がった。

いわゆる生活必需品のコモディティグッズをEDLPで提供したわけである。

従って、当然ながら、一方で非コモディティや売れ残り品の値引き販売もしていたし、EDLP以外では、月1回の特売もやっていた。現在も、ウォルマートでは「ブラックマンデー」と呼ばれる月曜日がある。月1回の特売の日曜日の翌日が、帳簿がまっ黒になる日なのである。

80年時点が重要な意味をもつもうひとつの背景には、このときウォルマートが絵に描いたような急速成長を成し遂げていた事実である。

いきなりEDLPを採用すれば、既存店売上高は確実に下がる。最大の売れ筋で必需のA商品をディスカウントし続けるからだ。しかし、3年続けると、顧客からは絶大なる信頼を寄せられる。それがEDLPなのだ。

従って、EDLPを続ける間、店数が増えない限り、売上げは下がるのである。

もちろんEDLPによって、一時的に客数が増えることもあるだろう。しかしEDLPは集客のための販促策ではない。間違ってもEDLPで売上が上がると思ってはいけない。

日本のスーパーマーケット業界でいえば、首都圏で展開するサミットが、20年も前からやっていた「マンデーショッピング」のイメージであろうか。現在は、塩しゃけ、卵、ひき肉、牛乳、食パン、豆腐などの冷蔵庫の必需品を特売する「月金サービス」18品目と、米、味噌、塩、しょう油、トイレットペーパー、ティッシュペーパーといった必需品および刺身盛り合わせ、牛肉薄切りなどの一家そろって買物するときの売れ筋を特売する「ウイークエンドサービス」20品目と拡大されている。

ウォルマートのEDLPは、いわばこれを毎日展開するのである。

私はここで、かつてヨークベニマルの大高善二郎社長(当時)が語った言葉を思い出す。

「1カ月に1万円分お客様のバスケットの中身を安くできれば、この地域全体に1万円分のベースアップをしたことと同じになる」。

EDLPは販促策でも、集客手段でもない。顧客にとって必要不可欠のアイテムを毎日、地域で一番安く提供し続ける。そのために企業として倹約に倹約を重ね、店として節約に節約を繰り返す。ストイックなまでにエブリデーローコストを追い求める。

EDLPとは商売そのもの、ビジネスの本質に直接、触れる行為なのだ。日本ではまだまだ助走の段階に過ぎない。

〈結城義晴〉

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