「廣田の前に廣田なく、廣田の後に廣田なし」
【第2回】 結城義晴の述懐
私は心からこう思っている。廣田正さんご自身はもちろんこんなことは死んでも言わないし、菱食という会社も絶対にそんな言葉を使う会社ではないけれど、結城義晴が勝手にそう思っていて、自分が編集人を務めている雑誌で勝手にそう言うのだから、お許しいただこう。
それほどに日本の食品産業、食品卸売業に対して、廣田正の与えたものは、大きくて深い。
廣田さんが入社したときの会社の規模が、52年後の今、1400倍。菱食が合併したときから28年経過した今、純資産勘定は53倍。それこそスーパーマーケットよりもはるかに地味なビジネスの社会的地位をここまで高めた功績は、計り知れない。
「食品卸売業の仕事を通じて社会に貢献していく」という志に感銘を受けた。それがライフワークとなった。そして常に透徹した眼で、仕事と市場を見続けてきた。
だから小売業に対しても、製造業に対しても、総合商社に対しても、見解や発言がぶれることはない。
世界的視野といったらよいのか、そんなものが廣田さんにはある。私たちが心して、廣田さんから学ばねばならないところだ。
私が印象に残っているのは、日本中が中国に注目し始めたとき、廣田さんは『ベルリンの壁が崩れた問題』と喝破していたことだ。すなわち共産主義の崩壊こそ、より大きな現象で、それが世界経済、日本産業に与える影響が続くという見解である。これは、正しかった。
「50人の会社がかかる病気、100人の会社がかかる病気。幼年期・少年期・青年期に(人間が)かかる病気がそれぞれありますが、あれと全く一緒」――名経営者は経験をつんだ名医であることが、この言葉に表れている。
現在、あらゆる業種・業態で進んでいる合併に関しても、「一番大事なのは共通言語」。なるほど、なるほど。
大手小売業に対して、私はあえて苦言を求めた。これも私の責任と権限において。
「本当は消費者の代わりに小売業さんが決めているから小売業さんに(価格)決定権があってしかるべきということであって、その向こうに消費者がいるということを、ややお忘れになった企業があったのではないか」
廣田さんに拍手。スタンディングオベーション。拍手鳴り止まず。
大きかろうが小さかろうが、中くらいだろうが、「奢れる小売業、久しからず」。
廣田正のこの言葉、終世、忘るべからず。
やはり、小売業に対する指摘でも、「廣田の前に廣田なく、廣田の後に廣田なし」だった。
これは、私の責任において、何度でも言いたい気分だ。
会社概要
社名:株式会社菱食
事業内容 加工食品卸売業を主業務として、缶詰類、調味料類、麺・乾物類、嗜好品・飲料類、菓子類、冷凍・チルド類、酒類、その他の販売。
売上高 年商1兆2875億円(平成17年12月期連結)
資本金 106億3029万円(平成18年10月1日 現在)
従業員数 2505人 (平成18年10月1日 現在)