『商売十訓』第八訓は、
八 公正で公平な社会的活動を行え
である。
第七訓で、
「店の発展を社会の幸福と信ぜよ」
といった途端、間髪を与えずに言い放つ。
社会貢献せよ。
私には、そう聞こえる。
それがいい。
それも公正で公平な社会的活動。
“ミッション”である。
だから、七訓と八訓はセットということになる。
社会的活動の意味を、私は二つに分けて考えている。
第1は、自分の本業の仕事における社会貢献。
第2は、ボランティア活動。
どちらも必須である。
本業は、もともと社会的なものである。
商売にしろ、仕事にしろ。
オーナー経営者であれ、
サラリーマンであれ、
その仕事とは、本来、何らかの形で、社会貢献につながっている。
だから、本業で公正さ、公平さを貫きなさい、
と『商売十訓』はいう。
公正・公平でない商売や仕事は、
いかにそれが巨大な事業でも、
偉大そうに見える仕事でも、
本当に社会貢献したことにはならない。
広域暴力団が本業で、
ボランティアが暴走族の教育・指導というのは、
大きくジャンルが外れて、よろしくない。
本業を全うしながら、
ボランティアの活動をする。
報酬の伴わない仕事をする。
第二の、社会的活動を一言で言えば、
[自分のためではないこと]。
労働組合や商店街、業界の「組合」と名のつくところの役員は、
結局、自分のためであるから、本業の一部と考えたほうがいい。
人それぞれが、
自分なりのボランティアを見つけ出し、
それに力を傾ける。
時間を費やす。
これが、人間の生き方である。
ユリウス・カエサルやアウグストスといったローマ人たちは、
この面での達人であった。
“ノブレス・オブリージュ”
といった。
この二つの社会貢献で、
ローマ社会が形成され、維持されていた。
イオン岡田卓也名誉会長は、会社が小さなときから、
風樹会という奨学金制度を設けていた。
いま、「木を植えています」という活動を、
イオン環境財団を通じて、大きく展開している。
イエローハット相談役の鍵山秀三郎さんは、掃除をする。
それが「日本を美しくする会」となって、
ボランティアの輪が広がっている。
会社が大きくなったら、
利益がたくさん出るようになったら、
ボランティアしよう。
これでは、会社も大きくならないし、
利益も十分には出てこない。
不思議なことだ。
私自身、翻って考えてみても、
仕事が多忙を極めて、
ボランティアをおろそかにすると、
途端に、仕事はうまくいかなくなる。
私は、地域の子供たちのためになることを、
私の社会貢献として、やってきた。
今も、続けている。
ここで大事な法則がある。
第1の社会貢献では、
「小さな経費で大きな収益」
が上がることを目指す。
すなわち生産性を高めることを目標とする。
第2の社会貢献は、
「大きな努力で小さな成果」
に満足する。
大きな努力で、成果がないことをすら、する。
もちろん、無駄なことをせよ、というのではないが。
鍵山さんあたりになると、
本業もボランティアも変わらなくなるらしい。
この境地には、なかなか達することが出来ない。
最後に、念のためにお断り。
自分のための宗教活動はこれには、含まれない。
しかし、宗教活動を通じた社会貢献は、これに含まれるであろう。
倉本長治主幹は無宗教であった。
私も、無宗教である。
しかし、宗教の大切さは知っているし、
それを認めている。
この立脚点は、共通している。
ここから先は、「マックスウェーバーの研究」とともに、
いずれ深く考察し、展開しなければならないと思っている。
<結城義晴>