杉山昭次郎先生と会う。
いつものように、
飯能パークカントリークラブでゴルフして、
焼鳥屋・多貫喜(たぬき)で語り合う。
一所懸命に仕事している人には申し訳ないけれど、
杉山先生は80歳の隠遁者。
私は今、55歳の自由人。
お許しいただくとして、
いつも必ず、いい話になる。
皆さん、こんな、自分の先生を、
つくりなさい。
もちなさい。
杉山先生は、流通システム研究所所長。
コンサルタントとしては、あの坂本藤良の愛弟子で、
血筋は申し分なし。
坂本藤良は日本のコンサルタントの草分け。
「倒産学」「再建学」などの著書でも知られる。
私は、(株)商業界入社1週間で、
高橋栄松という先輩に連れられて、
杉山先生に会いに行った。
いきなり「ソシオ・テクニカル・システム論」を、
黒板に書きながら教えられた。
この理論は今でも、私の考え方のひとつになっていて、
立教大学大学院で教えるときの教材の中に入るテーマである。
流通産業研究所所長・理事長を務められた故上野光平先生は、
杉山先生の盟友で、私もその門前の小僧をやっていた。
上野先生は、(株)西友ストアー副社長として同社を創業し、
日本の商業やチェーンストアの歴史に輝きをつくった。
その上野先生の、思い出話も当然、いつものように出てくる。
杉山先生は、現在、水曜日にゴルフ、
後の6日間は、雨が降らなければ、
フナ釣り。
「フナに始まりフナに終わる」といわれる、あのフナ釣り。
まさに隠遁の生活。
うらやましい限り。
さて、その杉山先生との話は、
「企業文化」へと流れていった。
企業には、負の文化もあるが、
正の文化もある。
正の文化の継承が、ない。
これが最大の問題である。
あたかも、ウォルマートは、
そのキャッチフレーズを変えたばかりである。
1980年から10年ほどは、「エブリデー・ロープライス」。
それから19年間、ほぼ同じコンセプトのまま、
言葉は“Always Low Prices”
そして今、
“Save Money.Live Better.”
1962年に、サム・ウォルトンが、
ウォルマート第1号店をオープンさせたとき、
店頭には二つの言葉が掲げられていた。
“Satisfaction Guarantees”と”We sell for less”
現在も彼らはこの理念を守り続けて、最新店の店頭にも掲げている。
ウォルマートの正の文化である。
それが「Save Money. Live Better」によって、
どのように変わろうとしているのか。
はたまた崩れようとしているのか。
きわめて面白い局面に入ってきた。
『食品商業』で連載をしている「誰がウォルマートを殺すのか?」
その大テーマがまた表出してきた。
『商売十訓』の第九訓は、
九 文化のために経営を合理化せよ
である。
ここで言う「文化」には二つの意味があることに、
杉山先生と話していて、私は気づかされた。
「社会の文化」と「企業の文化」である。
杉山昭次郎というマネジメントの鬼(優しい白髪鬼?)は、
覚醒している限り、マネジメントを考えている。
だから「文化」といえば「企業文化」となる。
ドラッカー先生もそうだったに違いない。
ウォルマートはまさに、
文化のために経営を合理化し続けてきた。
日本の西友の450人の早期退職奨励を発表したばかりである。
同社は、3年前、売上げも利益も絶好調のときに、
アーカンソーの本部要員の1割、約790名の削減を断行したほどだ。
「文化」と「合理化」
倉本長治は、なんとも結びつきにくい概念を、
二つ、池に投げ込むようにして、
第九訓をつくった。
長治独特の言い回しである。
しかし、この言葉に、正鵠を射た解答を、
私は、ついぞ聴いたことがなかった。
杉山昭次郎とのマネジメント談義。
ウォルマートのキャッチフレーズ変更の発表。
そして上野光平がつくった会社・西友の人員合理化。
私は、なんだか、第九訓の真髄に近づいたような気がした。
<つづく、結城義晴>