「メトロキャッシュ&キャリー・ジャパンの競争相手は誰ですか」
ちょうど5年前、
私はCEOのドクター・ハンス・ヨアヒム・クァーバーに尋ねた。
代わって日本社長のアントン・クナイフが答えた。
「競争相手はありません」
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キャッシュ&キャリーというフォーマットは日本には存在しない。
業者向け会員制現金卸しのワンストップショッピング業態の完成型は,
日本にない。
だから直接のコンペティターは今のところ日本には見当たらない。
これが彼らの回答であった。
しかし、顧みるとこれは、
既存の食品現金問屋の群れを、
侵略対象としていることを意味する。
視野を広げると,
「食品問屋すべてを競争相手にする」との宣言でもある。
年間100兆円を扱う日本食品卸売業界の
「業態化」の未整備状況を突いているとも判断できる。
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それにしても「コンペティターはいない」とはよく言ったものだ。
正直に言おう。
私は常に、自分の競争相手を見つけ出し、
密かにライバル心を燃やしつづけてきた。
生まれてからずっと。
そして今も。
それが私の生きるエネルギーだったように思う。
最初は仕事の同僚、先輩。
次は隣の部署の人間。
その次は他社の同業者。
その次は一流の先達たち。
同じ道を走っている者を、
次々にコンペティターにして、
追いつき追い越せと、自らを叱咤する。
それが自分を成長させる。
良い仕事に結びつく。
巨人なら阪神。
早稲田なら慶応。
矢吹丈なら力石徹。
小さな時から、
始めから、
強い好敵手が存在するほど、
両者の競争の舞台となるマーケットは爆発する。
拡大する。
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「競争相手は誰ですか?」⇒「お客様」
「競争相手は誰ですか?」⇒「自分自身」
私には、これらの答えに、
ある種の意図が感じられてならない。
それ自体美しく聞こえるが、
結果として市場の縮小を誘導する発想のようにも思える。
かといって「競争相手は目前の同業者」という現実が、
私たちの前に大きく横たわっていて、
「競争相手は存在しない」というメトロの発言との落差を,
私たちに自覚させる。
だから、私の結論はいつもこの言葉にたどりつく。
「戦略上はすべての敵を蔑視せよ。
戦術上はすべての敵を重視せよ」
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改めて、あなたに問おう。
「競争相手は誰ですか?」
「あなたは競争相手のことをどれだけ観察していますか?」
「どれだけ知っていますか?」
「あなたは競争相手を通して、
自分の本質をどれだけ理解していますか?」
「あなたには真の競争相手がいますか?」
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あなたも、
わたしも。
競争相手を、
どこの、
誰に、
設定しているか。
それによって、
自分の志が、
判明する。
自分自身のこれからの生き方が、
見えてくる。
<結城義晴>