産業界では、異なる分野で、
似たような現象が起こる。
異なる分野の似たような現象には、
必ず類似した条件があるはず。
15日、お盆真っただ中というのに、
全国銀行協会は、
東京三菱UFJ銀行頭取の永易克典氏を、
次期会長に内定した。
この協会の会長職は、
3大メガバンクのトップによるたらい回しが、
恒例となっている状態だから、
別に特別なことではない。
現会長は、みずほ銀行頭取の杉山清次氏。
だから永易氏の後任は、その時点の三井住友銀行頭取。
「クリティカル・マス」の概念を、私は、
小売業、商業に適用して考えている。
しかし、銀行業界、金融業界では、
すでに1990年代中ごろから、
盛んに「クリティカル・マス」を論じていた。
論議が進み、提携から合併に企業統合が実行され、
3大メガバンク体制となった。
そして欧米の巨大金融資本の日本上陸に備えた。
一方、地方銀行や信用金庫には、
破綻や淘汰・整理の波が訪れたものの、
残った地銀、信金には、
特徴のある優れた企業が多い。
横浜銀行や巣鴨信用金庫などなど。
その地方銀行同士の連携が進みつつある。
まず、ATMの普及に対応するための、
相互乗り入れ。
セブン銀行の成功がある。
その上で、郵政民営化でゆうちょ銀行が登場した。
セブン銀行は全国に1万2000店の拠点を持ち、
ゆうちょ銀行は2万6000台のATMを設置する。
メガバンクは、それぞれ合併によって、
全国的な規模の拠点を有する。
セブン銀行、ゆうちょ銀行は、
新興のナショナルチェーン。
3大メガバンクは、
老舗のナショナルチェーン。
ローカルチェーンの地方銀行はいかに対応するか。
それぞれ地元産業との密なる関係を持っている。
だからまずATMの相互開放から始める。
首都圏の地方銀行、6行が、連携する。
神奈川県の横浜銀行、
千葉県の千葉銀行、
東京都の東京都民銀行行、
それに茨城県の関東つくば銀行、常陽銀行、
埼玉県の武蔵野銀行。
横浜銀行は、北海道銀行、北陸銀行とも連携。
東京都民銀行は、
東日本銀行、八千代銀行、福井銀行、福邦銀行とATM相互開放。
福井銀行と福邦銀行は、2007年から、
福井県内の5つの信用金庫ともATMで連携している。
もうひとつ、システムの共同開発。
コンピュータ情報システム開発には、金がかかる。
だから直接競合しない銀行同士が、
管理システムや顧客システムの開発を共同化して、
合理化を進める。
こうして、小売業でいえば、
ローカルチェーンの銀行の提携が進行する。
地方銀行は、地元の企業の金融基盤を担い、
地元企業を育成することで、社会貢献を果たす。
だから地方の産業においては、
欠かすことのできない機能を持つ。
地銀が、それぞれの県に、
3行、4行、5行と存在する必要がなくなった。
それでも、重要な役割を持つ。
スーパーマーケットをはじめとして、
ドラッグストア、ホームセンターといったチェーンストアには、
ローカルチェーンが多い。
地方銀行や信用金庫にも、
ローカルチェーンのような存在が多い。
第二地銀といった分類があるほどだ。
金融には、従来から国の関与があった。
それが非常に大きかった。
しかし小売業は、自然にまかされた。
不思議なことだ。
しかし現在、地方企業同士の連携という同様の傾向が表れた。
小売業の「クリティカル・マス」に関して、
私は、その効果が出るのは、
コモディティ・グッズの分野においてである、
と仮説を立てている。
コモディティは量と価格が重要な意味を持つからだ。
量、すなわちマスが力を発揮するから、
クリティカル・マス効果が出る。
ノンコモディティにおいては、
むしろ量は、ノンコモディティの性格を阻害する。
生産量が増え、普及率が高まると、
ノンコモディティは、そのとたん、
コモディティに変化してしまう。
類似の商品やサービスも登場する。
コモディティは量。
だから小売業のナショナルチェーンを目指そうとすると、
コモディティの全国チェーンにならざるをえない。
それが速くてやりやすいからだ。
一方、ローカルチェーンは、ノンコモディティの比率が、
高まらざるをえない。
私は銀行業界が扱う貨幣は、
コモディティの典型であると指摘している。
日本中、どこに行っても、
1万円札の価値は変わらない。
1000円も100円も、まったく同じ価値を持つ。
コモディティ・グッズも価値は変わらない。
だから量が問題になる。
銀行業界と小売業界に似た現象が起こるとしたら、
それは小売業のコモディティと、
銀行業界の商品やサービスが類似しているからだ。
地方銀行や信用金庫の緩やかな提携という現象は、
セブン銀行やゆうちょ銀行のATMの手数料問題に端を発している。
ATMサービスは、まさしくコモディティのサービスである。
だからどんどん提携しなさい。
お客様は、私も含めて、大いに喜ぶ。
そして企業力を蓄えつつ、
時代の変化と顧客のニーズに対応して、
新しい金融商品を開発しなさい。
高齢社会の、安全安心金融商品を誕生させなさい。
不況社会に伸びる企業の支援をしなさい。
自分だけのカスタマーのお役立ちに専念しなさい。
翻って考えると、
小売業も、コモディティの商品やサービスでは、
どんどん提携すべきである。
もっともっと共同化・共有化すべきである。
そしてノンコモディティ提供とカスタマー獲得面では、
独自のものを持つべきである。
ここでいうカスタマーは、
自分の企業、自分の店を信奉してくださるお客様。
ノンコモディティの提供によるカスタマーの確保が、
地銀にも信金にも、
ローカルチェーンにも、
インディペンデントにも、
サバイバルをかけた仕事なのである。
夏の日の土曜日、
オリンピック絶好調、
甲子園真っ盛り。
盆の明けの16日。
私は、コモディティのことを考え続けている
<結城義晴>