商業界の社長をしているころ、
イオンビジネススクールで講師を務めました。
「商業界精神を、若い社員に教えてほしい」
こういう要望でした。
喜んで引き受けました。
岡田卓也イオン名誉会長は、
商業界同友会の「エルダー」と呼ばれる長老指導者のおひとりですし、
個人的にも、ずいぶんお世話になっていたからでした。
午前中に、岡田さんがイオンのイデオロギーを語り、
午後に私が商業の精神を説く。
そんな構成でした。
もちろん私は、誰に対しても、同じように、熱く語ります。
超のつく大企業にも、
商店街の小さな店にも。
このとき私は、若いイオンマンたちに聞きました。
「あなたたちのライバルは誰ですか」
きっと、ほとんどの人は頭の中に浮かべたはずです。
「セブン&アイ・ホールディングス」
ちょっと古い頭の人は、
「イトーヨーカ堂」
しかし私は言いました。
「みなさんのライバルは、トヨタです」
私は、「商業の現代化」を標榜しています。
日本の商業は、近代化によって、
ある程度の規模を持つに至った。
その方法論のひとつが、チェーンストア産業の構築であり、
「流通革命」の実現でした。
しかし、近代化とは、そのプロセスにおいて、
忘れ物をしてきてしまうものです。
忘れ物を、取り戻しつつ、現代化を進めねばならない。
だから私は、顧客満足と従業員満足を唱えます。
「言葉にすぎない」と批判されるかもしれない。
しかし、本気で、顧客満足と従業員満足の両立を考え、
実現させる努力をしなければ、
近代化の忘れ物は、取り戻せない。
「欧米列強商業集団」と対等に、あるいはそれ以上に闘う。
それも重要でしょう。
銀座に、ヨーロッパ・ファッションのH&Mがオープンしました。
ユニクロは、立派な闘いをするはずです。
グローバル化の中で、同種のビジネスと、
対等以上に闘う。
これも大切。
同時に、20世紀の日本を支えてきた製造業のトップ企業を、
自らのライバルと設定し、
企業力の内容を高めてゆく。
これも重要です。
だからイオンの若い人たちに、言ったのです。
「あなたたちのライバルはトヨタです」
ただし、日本の商業全体でみると、
「ニッチ」の存在は不可欠です。
ニッチ[Niche]とは、
「最適の地位、最適の仕事」という意味。
「正当に位置づけられたもの」という考え方もできる。
商業の現代化のためには、
国際的な巨大企業とNicheな店との、
どちらもが必要だと、私は思います。
よくあるたとえですが、
野球でも、ホームランを打つ大型打者と、
バントや盗塁が得意なニッチな打者が必要。
両者によって、上手に組まれた打線が強い。
日本のお客様も、同じように、
巨大企業のご利益とニッチ店舗のご利益を、
いつでも、どちらも、
選べることを「豊かさ」と考えています。
それは、自分の生活を振り返ればすぐにわかる。
だから、国際的な巨大企業も必要、
地域局所的なニッチ企業も必要。
それが、「日本商業の現代化」です。
だから、イオンやセブン&アイ・ホールディングスには、
トヨタやパナソニックを凌ぐ企業になってもらいたい。
もちろん、スーパーマーケットでも、
サミットの「レイバー・スケジューリング」は、
トヨタの「カンバン方式」に引けを取らないシステムです。
私は、胸を張って欲しい、と言い続けています。
トヨタが、自動車生産工場として、
世界最高水準の仕組みを作り上げたとしたら、
サミットの生鮮食品のバックヤードは、
世界最高レベルのシステムを持っている。
私は、欲張りです。
日本の商業に対して。
だからウォルマートやテスコに、
十二分に対抗する日本企業となってほしいし、
トヨタや松下、ソニーに匹敵する小売業の評価が欲しい。
同時に、地方の小さな店には、
しっかりした経営の、個性ある企業になってほしい。
これらの企業に共通するのが、「知識商人」だと思います。
ナレッジ・マーチャントです。
私の思い、わかってもらえるでしょうか。
<結城義晴>