「景気が悪くなっているのに、物価が上がる」
これをスタグフレーションというが、
私は「高速道路渋滞のような現象」と表現している。
その高速道路の渋滞、
貨幣経済と実体経済のねじれによって生まれていた。
貨幣経済の驚くべき膨張と実体経済の縮小。
しかし貨幣経済が、株価の暴落で急落。
だから、世界の原油高、穀物相場高は、是正されはじめた。
これも驚くべき早さ。
先進国の共同歩調が奏功したこともある。
原油は、ニューヨーク先物市場で1バレル70ドル。
3カ月で半値となった。
小麦や大豆も小康状態から、下落状態へ。
しかし、高速道路の渋滞は、蛇腹のように歪だ。
先の方は、空いているのに、ここは渋滞。
つまりタイムラグがある。
それが現状。
世界相場は下がっているのに、
国内では値上げの商談が行われたりしている。
そしてたとえ下がっても、高止まり。
私の、最初からの指摘。
それでも、世界的危機に対しては、予想より早い処置。
人間は、学習する。
アメリカの消費社会を見ていても、
大衆の辛抱強さ・根強さを感じずにはいられない。
もうひとつの話題。
日本経済新聞が「優良企業ランキング」を発表。
30回目になる。
総合1位は任天堂。
2年連続。
総合2位は、3年連続でファナック。
商業分野では、55位のローソンが最高位。
58位の島忠が2位。
77位のイオンが第3位。
このランキング、来年は、順位が大きく動く。
安定性の高い会社が評価される。
それは、株式時価総額などの要素ではなく、
「信用」という長期評価に、
少しだけでもシフトした結果になってもらいたいものだ。
さて、アメリカ小売業レポートの連載。
マンハッタンの対岸ニュージャージー。
その「ニコラス・マーケット」から車で15分ほどの高級住宅地。
「マーケット・バスケット」。
1960年に始まったオーナーシップ経営のスーパーマーケット。
1店舗のインディペンデント。
これも「ニッチ」を形成している。
私自身の経験では、30年前に、
同じ「マーケット・バスケット」の名前で、
カリフォルニアに100店規模のスーパーマーケットが展開されていた。
クローガーの傘下にあって、
クローガーは、この時代から「マルチ・バナー戦略」を採っていた。
西海岸では見られないクローガーのグループ企業の店。
当時、私は敬意の念をもって、訪れたことを記憶している。
ニュージャージーの「マーケット・バスケット」は、
クローガーとは全く関係ない。
しかし「マーケット・バスケット」というネーミングは、
「ケット」というところが韻を踏んでいて、響きが良い。
「手軽な買い物ができる食品市場」
そんなニュアンスが、ある。
その通りの店で、入口をはいると、
顧客と店員とが、声を掛け合っている。
そして試食、試食、試食。
私たちも「サンプル・ライフ」に次ぐ「サンプル・ライフ」。
店舗入り口が、サービス・デリの売り場。
中央の平台で、パンとディップが派手に関連販売されている。
周りをぐるりと対面ケースのデリ売り場が囲んでいるl。
デリから、対面の精肉コーナーへ、。
さらにシーフード売り場へ続く。
水槽があって、カニなど遊んでいる。
インディペンデントのおかず屋。
もちろんニュージャージーのメニューや味をしっかり出した洋風惣菜。
ずっと対面ケースが続く。
チーズの売り場は、アイテム豊富。
これはインディペンデント・スーパーマーケットにとって、
欠かせない商品構成のひとつ。
そして、チーズのあとは、デザート・ケーキ。
こちらも対面売り場。
「ニコラス・マーケット」は比較的オーソドックスなレイアウト。
それに対して、マーケット・バスケットは、
市場のごときにぎわいで特徴を出す。
サービスデリ、パン、肉、魚、チーズ、乳製品。
最後に、青果部門がやってくる。
最後に位置づけられているが、
鮮度もよく、品揃えも豊か。
このリンゴのバスケット陳列。
ボリューム感もあって、楽しい売り場。
イモ玉類も、バスケット陳列。
「マーケット・バスケット」の店名の通り、
バスケットを多用して、強烈な親近感を与える。
だから、この店が好きだという日本人は多い。
青果のあとに、グロサリーやキャンデー売り場が現れる。
そして大事なこと。
レジチェッカーは、若くて美しいお嬢さんばかり。
これも心地よい。
そういえば試食コーナーのお嬢さんも、
若くて美しかった。
これも、マーケット・バスケットの武器である。
マーケット・バスケットを、その収益性などの尺度で、
俎上に上げる必要はない。
「ニッチ」とはこういう店をも包含する価値観だ。
私は「幸せ基準」と呼ぶ。
「この店では社会貢献度が小さい」
そういう人がいるかもしれない。
産業づくりにはならない、と。
しかし、鳥の目で見ると、
このマーケット・バスケットも、
アメリカのスーパーマーケット産業の一翼を担っている。
ただし、ニコラスとマーケット・バスケットは違う。
片方は、店を回るとフルコース・ディナーを思わせる。
一方は、楽しいおかず屋が存在している。
そのどちらをも選べるし、
私は「ニコラス派」、私は「マーケット・バスケット派」と、
顧客が二分されている。
両者の違いが鮮明であることに、
「ニッチ」スーパーマーケットとしての存在の意味がある。
<結城義晴>