天皇誕生日の祭日。
現実は、クリスマス休暇の感強し。
不思議だが、それが日本人。
それが人間。
その天皇誕生日の今日の朝刊一面トップは、
朝日・日経・読売ともに、
「トヨタの通期連結赤字見込み」の記事。
1兆円の経常利益を出していた世界最高の自動車会社。
それが赤字の現状。
しかし朝日新聞だけが、「社長交代」を告げた。
来年4月に、創業家の豊田章男さんの昇格。
天皇誕生日の発表であるから、
これは朝日新聞流の、
「血」に対する皮肉か。
しかし1500億円の赤字を背負って社長に就任する章男さん。
トヨタの実質的な創業者となる故豊田喜一郎氏の孫に当たる。
朝日新聞は「大政奉還」と書くが、
明治維新のそれのように、
「大変な時代」であることを象徴している。
そして、トヨタのDNAの重さ、貴重さを、
章男さんを中心に問い直してゆくのだろうが、
それが時代錯誤に陥らないのか。
トヨタにとって、日本にとって、
試練の時であるとともに、
その行く末を見守りつつ、
「血」と「DNA」の社会的効用の是非を、
考え直していかねばならない。
さて、先週の土曜日、東京池袋の立教大学キャンパス。
大学院ビジネスデザイン科の私の講義にゲスト講師を迎えた。
巣鴨信用金庫常務理事の田中実さん。
「巣鴨信用金庫のCS・ESとホスピタリティへの取り組み」
このタイトルで、講義していただいた。
約1時間30分。
その後、質疑応答で3時間。
素晴らしい内容。
巣鴨信用金庫は、
東京都北部と埼玉県南部を営業地域にする信用金庫。
店舗数は、43店。
総資産1兆5200億円、
預金残高1兆4212億円。
自己資本比率10.71%。
金融業界では、預金残高と自己資本比率で、
経営状態を図る。
小売業でいえば、巣鴨信用金庫は、
優良なローカルチェーンということになる。
しかも、合併の経験なしに、
全国の信用金庫279行のうちの15位。
M&Aなしに1兆円を超える預金残高となった。
店舗数43は、1兆4212億円の預金残高金融機関としては、
「狭域高密度」。
これ、田中常務の言葉だが、
「ドミナント・エリア主義」であり、
「範囲の経済」の中で、
「クリティカル・マスを達成」した金融機関と、
私流の言い方になる。
その巣鴨信用金庫が、
「金融機関」から「金融サービス業」へ、
体質の変換を遂げて、
さらに「金融ホスピタリティ業」へ踏み出している。
モットーは「喜ばれることに喜びを」。
お客様を起点とした「非効率なサービス」の拡充。
ローカルチェーン、インディペンデントの生き方そのものだ。
会社や金庫や店からすると「非効率のサービス」。
「非効率の徹底」とそれを財務的に支える「効率の徹底」
オクシモロンのテーマへの挑戦。
「金融機関にとって面倒なことは、
裏を返せば、お客様にとっては、
楽なこと、便利なことに通じる」
「非効率を切り捨てるのではなく、
あえて手間のかかる非効率に着目し、
そこにヒントを求めて活動すれば、
お客様の期待に応えられる」
これが巣鴨信用金庫の基本的な考え方。
1997年、田村和久さんが40歳にして理事長に就任し、
田中常務をはじめとする信用金庫のプロたちと、
「非効率サービス」の充実に努めてきた。
「利益は後からついてくる」
これも、スローガン。
・住宅ローンキャッシュバックサービス
・サービスデスク・アフター3
・融資スピード回答3日5日
・出前バンキング
・ATM365日稼動入出金手数料0
・年金孫の手サービス
・ビジネスサービスデスク
新サービス・新商品を矢継ぎ早に打ち出した。
そのために職員の意識改革と人材の育成にまい進した。
ただし非効率を支えるために、徹底したことがある。
・バックヤードの集中化
・業務の選択と集中
・店舗のグループ化
そのために顧客満足と従業員満足を両立させる。
価値観の共有を図る。
2004年9月の『日経ビジネス』誌。
私も覚えているが、「企業の採用活動満足度」を調べた。
そこで巣鴨信用金庫は、第1位に輝いた。
第2位が、日本マクドナルド、
第3位が、東京ガス。
私の「ホスピタリティ理論」をご存知の方には、
すぐにお分かりいただけるだろうが、
巣鴨信用金庫には、
アメリカの働きたい企業ランキングに通ずるものがある。
田中常務は、その理由を最後にまとめた。
「創業の精神 企業文化」
そして「徹底できるか できないか」
「サービスからホスピタリティへ」
巣鴨信用金庫と田中常務に心から感謝。
国の創業の精神と国家の文化を考え直すのが、
天皇誕生日の今日。
トヨタの創業の精神と企業文化を問い直すのが、
新社長になる豊田章男氏の仕事。
しかし、イノベーションなしには、
創業精神も企業文化も、
お題目になってしまう。
イノベーションの徹底。
これこそ、私たち、みんなに求められているものなのだ。
<結城義晴>