1965年11月から70年7月までを[いざなぎ景気]といいます。
戦後最長の好況の山で、57カ月間だった。
それを超えたのが、昨年までの平成景気。
戦後最長の景気の波となった。
その戦後最長の景気拡大が途切れ、
後退局面が始まった時期が、
昨年11月と認定される。
それによって69カ月の最長の景気。
だからその余波も最長になる。
そして、もう13カ月、景気後退が続いている。
米国の景気後退も昨年12月に始まった。
日米経済は、ほぼ同時期に失速したことになります。
今年がその最初の13カ月。
そして来年は次の循環の12カ月。
いよいよ、不況本番というところです。
その想定の中で、
日々の仕事を充実させねばなりません。
さて、今年12月18日に決着がついた将棋竜王戦は、
世紀の対決といわれました。
私の隠れた趣味を明かしますと、実は、将棋なのです。
父は、碁が趣味で、
82歳の現在も毎日、碁会所に皆勤しています。
ボケ防止などというレベルではなく、
真剣勝負の、生きるエネルギーというほどに、
囲碁に打ち込んでいます。
私のほうは、なまくらですが、
㈱商業界の頃、今から25年以上も前、
一度だけ社内将棋トーナメントが開催され、
それに参戦したことがあります。
私は、その時、決勝まで勝ち残り、
その決勝で、勝利を収めたものです。
だから私は㈱商業界史上唯一の将棋名人ということになります。
今も、押入れの奥に、その時の名人のトロフィーがあります。
さてプロの将棋は、ご存知のとおり、
羽生善治名人が第一人者。37歳。
この羽生世代と呼ばれる将棋指しには、
不思議なことに、天才が目白押しの状態です。
昨年まで名人位を守っていた森内俊之九段。
「緻密流」と呼ばれる佐藤康光棋王。
私の好きな「激辛流」「ニコニコ流」の丸山忠久九段。
オーソドックスな棋風の居飛車一辺倒の郷田真隆九段。
「藤井システム」という定石を発明した振り飛車の専門家藤井猛九段。
エッセイも書く多芸多才の「無頼流」先崎学九段。
少し前の世代の天才には、
「高速の寄せ」という閃き型の谷川浩司がいます。
さらにその前の世代には、
永世名人の称号を持つ中原誠と、
現将棋連盟会長の米長邦雄。
しかし現時点で、竜王というタイトルを4期連続で獲得していたのは、
渡辺明という24歳の天才。
竜王は、読売新聞が主催する将棋タイトルで、
七冠という位のうち最も新しいタイトル戦ですが、
賞金が最大で、
だから将棋界最高位と、
読売新聞は呼んでいます。
しかしなんといっても、名人位が最高位であることに、
間違いはありません。
現在は、紆余曲折の末、
朝日新聞と毎日新聞が共同主催しています。
その名人と竜王の対決。
しかも、羽生世代の代表と次の世代の旗手との対決。
羽生は、残念ながらこの竜王戦で、
三連勝したあと、四連敗。
「世紀の逆転」となりました。
三連勝した後の第四局。
渡辺の角番。
羽生が勝勢の中で、
水をごくごくと飲みます。
そのごくごくの瞬間に、
渡辺が「打ち歩詰め」という禁じ手の絡んだ逃れ筋を発見して、
大逆転を収めます。
この対決の模様が、「情熱大陸」という番組で報道されていたのですが、
そこで面白かったコメント。
両者の対決に対するコメントではありません。
他の棋士たちの、羽生への評価。
羽生善治の特長は、何か。
森内「総合力」
谷川「好奇心」
佐藤「正確性」
ただこれだけの、短いコメントの場面なのですが、
私には、たいへん興味深いものでした。
羽生は、まさに天才中の天才。
だから総合力はもちろん、あります。
居飛車・振り飛車の両刀使い。
どんな戦法にも通じたオールラウンド・プレイヤー。
好奇心も旺盛です。
チェスの国際大会に参加したりしています。
そして読みの深さと終盤の正確無比なことに、異論を挟む者なし。
面白いのは、回答した三人の棋士たちの棋風です。
森内は、守りを固めたうえで攻めに専念する総合力の将棋。
谷川は、好奇心旺盛で、終盤の閃きに美学があり、
しかし最近は勝負師としての甘さが見られる。
佐藤は、抜群の正確さを誇る「緻密流」で、
それを武器に縦横な戦略を打ち立てる。
羽生という巨大な鏡を評価する時に、
誰もが、自分を投影させている。
恐ろしいことに、自分が写り込んでしまう。
私には、それが、ことのほか、興味深い発言と聞こえました。
たとえば、私たちの世界では、
「ウォルマートに対する評価」を聞きます。
すると、ファーストリテイリングの柳井正さんは答えてくれます。
「週末に米国民の3人に2人が来店する。
ウォルマートはなくてはならない存在なのです」
これは、柳井さん自身が、
きわめて社会貢献意識が強いことを示しています。
「ウォルマートは、サービス残業が当たり前で、賃金が低すぎる」
こう批判する人は、労務問題を、自分の経営の根幹においています。
「ウォルマートの商品は面白いし、売り場づくりは他を圧している」
こういう人は、マーチャンダイジングを優先する。
多くの場合、コンサルタントは、
ウォルマートに自説を投影させる。
ウォルマートに投影できないテーマを得意とする人は、
ほとんどといってよいほど、ウォルマートを否定する。
ウォルマートを非難する人は、時に、
自分自身がその批判の矛先にいたりすることがある。
自己矛盾ですが、これもよくあること。
さて、2008年が終わろうとするとき、
私は、毎日、ブログを書いてきて、
どんな会社やどんな人物に、
どのように自分を投影させてきたのか。
私は、ジャーナリストとして、
できるだけ客観的にものを見、ものを書く訓練をしてきました。
しかし、その上で、書く能力を高めると、逆に、
どうしても自分が写り込んでしまう。
考えると、ぞっとすることではありますが、
羽生善治に対する天才たちの率直な自己投影を聞いていて、
すがすがしいものを感じたものです。
こうして、私は、来年も、
観察し、体験し、発言していくのでしょう。
その羽生善治自身の発言。
「現状に満足してしまうと、進歩はない」
「大局観と事前研究があるからこそ、最善の戦略も生まれる」
「山ほどある情報から自分に必要な情報を得るには、
なにを『選ぶ』かより、
いかに『捨てる』かのほうが重要です」
この言葉を選んだこと自体、
結城ヨシハル自身、羽生ヨシハルに、
考え方を投影させているのです。
<結城義晴>