昨夕、フジテレビ「スーパーニュース」のディレクターから、
㈱商人舎に電話が入った。
「セブン-イレブンの見切り問題への見解」
それをコメントしてほしいというもの。
公正取引委員会は、6月22日、
㈱セブン-イレブン・ジャパンが独占禁止法第19条に違反したと裁定。
「排除措置命令」を発した。
本部が「見切り販売」の制限行為を取りやめ、
それに関連する措置を施すことを、命令したもの。
違反行為とされる中で、重要な論点は三つ。
第一は、セブン-イレブン本部の加盟店に対する優越的地位の問題。
公取委は「取引上の地位が優越している」ことを明言した。
第二は、「廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟社の負担となる仕組み」。
この仕組みの中で、「見切り」の制限が行われていたこと。
そして第三は、「原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている」ことを断じた点。
「加盟者が自らの合理的な経営判断」に基づいて、商売する機会を喪失させたという点。
公正取引委員会の文言は分かりにくいが、第一点は重要。
フランチャイズチェーン本部のことをフランチャイザーといい、
加盟店をフランチャイジーと呼ぶが、
セブン-イレブンの場合、
フランチャイザーが、フランチャイジーに対して、
優越的地位にある、と断定。
5月に代表取締役に就任したばかりの井阪隆一社長も、
記者会見で真っ先に語った。
「私どもは加盟店に対して『優越的地位』ではなく、
あくまでも対等という認識」
もちろん、フランチャイズチェーンの中でも、
フランチャイジーの全国横断型組織をつくり、
その理事会が強い力を持って、本部を牽制する仕組みもある。
私が「ダスキン型」と呼ぶ方式。
しかし、セブン-イレブンが、横の連絡を嫌ったことは事実だ。
問題の根本は、ここにあったかもしれない。
しかし横の連携を重視していたら、
現在のセブン-イレブンの急成長はなかったし、
加盟店への恩恵も少なかったはずだ。
フランチャイズチェーンに限らず、
ボランタリーチェーンもレギュラーチェーンも、
本来、本部と店舗とは、
対等・公平な立場になければうまく機能するものではない。
従って、「理想形」で考えると、この公取委の見解はおかしい。
しかし「現実形」でみると、公取委は、
本部が優越的地位に立っていると判断したというわけ。
最大の論点は、ここにある。
優越的地位に立っていることが証明されなければ、
「粗利分配方式」と呼ばれるロイヤルティ制度の中での、
本部の指導が独占禁止法違反に当たるはずもない。
この優越的地位が存在する中で、
加盟店に不利益を与えた、というのが、今回の判断。
では、どんな不利益なのか。
セブン-イレブンでは、契約によって、
「加盟店での商品廃棄」に関して、
その「原価」に相当する金額を加盟店が負担することになっている。
ある「弁当」を10個発注したら、10個分の「弁当」の粗利益に、
一定の率(一般には43%)を掛け算した金額が本部のロイヤルティになる。
廃棄すれば、その廃棄分の原価は、加盟店がかぶることになっている。
その上で、「見切り」は制限、あるいは禁止される。
これでは、加盟店自らの合理的経営判断に基づくロス軽減の機会を奪うことになる。
これが、公正取引委員会の見解。
これはチェーンストアの論理と商売の論理との対立である。
両者の対立は、頻繁に起こる。
私は、2月25日のブログで、この問題に関する4つ結論を書いている。
現在も、考え方は変わらない。
第一は、セブン-イレブンが公正な取引に、
抵触するのか否かの問題。
これは、法廷論争になるかもしれない。
事実がそれを証明する。
第二は、チェーンオペレーションと個店経営の問題。
私は、セブン-イレブン本部に、論議の分はあると思う。
第三は、見切り制度を導入するか否か。
これは、企業独自の方針であり、戦略問題。
セブン-イレブン本部にお任せすべき問題。
そして最後に第四に、環境問題と食糧危機問題。
セブン-イレブンという日本最大規模の小売業には、
積極的に、先導的に、この問題に取り組んでほしい。
これは、私の要望。
商業現代化、商業基幹産業化という大目標のために。
第一の問題は、公取委の命令が出た今も、
セブン-イレブンがそれを自ら認めていないのだから依然、変わらない。
まさに、「優越的地位」か否かの論議となる。
ただし本来、本部と店舗が対等でないチェーンストアは、滅びる。
会社と社員が対等でない企業が滅びることと、構図は同じ。
第二が、チェーンストアの論理と商売の論理の対立の問題。
そしてフランチャイズチェーンといえどもチェーンストアであるから、
私は、いまだに、論理的には全体最適が個店の幸福をもたらすと考えている。
すなわち、セブン-イレブンという店全体のお客様の幸せが、
やがて個店の幸せにつながると思う。
それがチェーンストアである。
第三は、現実的問題として、
セブン-イレブン本部は、「見切り」のシステム化、
あるいはそれに代わる仕組みを、
研究開発すべきであると思う。
ここで決定的なイノベーションをセブン-イレブンに期待したいものだ。
それが、第四の問題と密接に関連するから。
環境問題、食糧危機問題は、日本人の便利な生活に優先する。
「損得より先に善悪を考えよう」
これである。
ただし、最後に重要なこと。
フランチャイズチェーンでもボランタリーチェーンでも、
そしてレギュラーチェーンでも、
「見切り」を大前提にした商行為は、
発注の甘さを誘引し、結局、
廃棄量は変わらないか、むしろ大きくしてしまう。
発注ミスの表面化・数値化によってはじめて、
いかにロスを削減するかという手段が明確になってくるし、
現実的にロスは削減される。
今回のセブン-イレブンへの公取委の「排除措置命令」によって、
「見切り」=「環境問題と食糧問題の解決」といった短絡が生まれることこそが、
いちばん危険である。
最後の最後に、
コンビニエンスストア経営の第一人者・小森勝先生の私見。
「この問題の背景にあるのは、本部と加盟店の収益格差が拡大していることです。
その大きな要因のひとつが今回の廃棄ロスを巡る立場の違いです。
昔、私がFCをしていた頃は担当店が月10万円以上のロスを出すと
始末書を書かされました。
それがいつの間にか
担当店の廃棄ロスが少ないことがFCの評価を下げるように変化しました。
チャンスロスを出さないことを優先した本部指導によって廃棄ロスが増大し、
現在、セブン-イレブンの例でいえば、売価ベースで約3.5の廃棄ロス率となっています。
それでも売上げが伸長していればまだ良いのですが、
既存店の前年割れが続く中でも、
廃棄ロスコントロールに本部が目を向けてこなかったことが、
今回の問題が浮上した最大の要因と考えています」
「また、本部と加盟店の収益ギャップは加盟店の本部不信を増大させ、
見切り販売に踏み切るアンチ本部派の加盟店を増やしているように思います」
「確かにオーナーの立場も分かります。
端的な例で言えば、コンビニのおでんやフライドチキンなどカウンターFFは、
ロスや人件費、消耗品費を考えるとほとんど利益は出ません。
しかし、本部にとっては大きな収益源として拡販を指導しており、
立場の違いが明確に出る商品です。
加盟店が経営を維持するために値下げ販売をせざるを得ないという事情も分かりますが、そこまで加盟店を追い込んだ本部の責任がもっと追及されるべきだと思います」
「しかし、だからと言って私は値下げ販売を容認する立場ではありません。
統一イメージの崩壊、消費者の混乱・不公平感、
消費期限管理の不徹底によるトラブルなど、
デメリットが多く生まれます」
「フランチャイズチェーンといえども、
統一イメージを維持するために加盟店経営の自由に一定の制限を加えることは、
認められるべきだと思っています」
「フランチャイズチェーンはどこも、
セブン-イレブンをモデルにしていますから同じことです。
セブン-イレブンよりもっと酷い目に会う可能性の方が大です。
あとはボランタリーチェーンを選択することでしょうか?」
「これを機に、本部が真の加盟店の利益向上につながる施策・指導強化を、
展開してくれることを期待する次第です」
今回の事件を客観的に見ていて、
関係者は皆、アンチ本部派のオーナーたちも、
本部側の人間も、
セブン-イレブンという存在が好きなのだと感じた。
もちろん小森先生を含めて。
それが、対立の中の救いだ。
セブン-イレブンの顧客たちも、
セブン-イレブンを愛しているに違いないのだから。
<結城義晴>