小型店は、ひどく難しい。
いや、「小型化」こそが難しい。
だから、特別の事情がない限り、
挑戦しない方がよろしい。
昭和51年(1977年)、イトーヨーカ堂が、
千葉県勝田台で、食品スーパーマーケットに挑戦した。
1500坪以上の総合スーパーを展開していた同社が、
450坪の「ヨークマート」をオープンさせた。
イトーヨーカ堂の食品と雑貨の品ぞろえを、
綺麗に1フェースずつ積み上げた店で、
英知の結晶のような新フォーマットだった。
しかし、ここには品揃えの豊富さはあっても、
商品回転の概念が欠落していた。
残念ながら、スタートダッシュは、
かなわなかった。
しかしイトーヨーカ堂グループ。
しつこくしつこく改善・改良を重ねて、
今日のヨークマートを築き上げた。
しかしそれとても、売場面積450坪。
いま、テスコが米国で始めたフォーマットは、
1万平方フィート、280坪。
ウォルマートが実験するフォーマットは、
1万5000平方フィート、420坪。
ウォルマートは、現在、
7000坪のスーパーセンターを中核としている。
1998年に実験を始めたネイバーフッドマーケットは、
10年以上になるにもかかわらず150店と、鳴かず飛ばず。
これはフード&ドラッグのスーパーマーケット。
「小型店は難しい」を、
ウォルマート自身が証明してしまった。
しかしスーパーセンターは、2612店で、
全米飽和が近い。
ウォルマートの歴史は、
1945年のベンフランクリンのフランチャイズチェーン時代から、
拡大化の一途だった。
最初の店は460㎡、140坪のバラエティストア。
「ウォルトンズ・ファイブ&ダイム・ストア」といった。
第二のフォーマットは、1962年。
1480㎡、450坪のディスカウントストア。
ここまでウォルマートは非食品の小売業だった。
第三は、1983年のメンバーシップ・ホールセールクラブ。
「サムズ・クラブ」といった。
面積は、1万㎡、3000坪に近かったと思う。
ここから食品に挑戦、
マクレガーという食品卸売り業を買収した。
そして、第四は、1987年、
2万㎡、6000坪のハイパーマートUSA。
フランスのカルフールをコピーしたハイパーマーケット。
壮大な1フロア衣食住のフルライン総合スーパー。
しかしこの店は、大失敗。
その意味では、大型化も簡単とはいえない。
翌1988年、すぐに、ハイパーマートUSAを、
半分にして、絞り込んだスーパーセンターを開発。
これが第五のフォーマット。
ハイパーマートから見れば半分だが、
ひとつ前のサムズクラブから見ればほぼ同じ。
そしてこれが、やがて大成功し、
最強のフォーマットと称賛された。
この大成功をみて、10年後、
折り返す。
第六の実験店ネイバーフッドマーケット。
3000㎡、1000坪のスーパーマーケット。
このフォーマットが10年たっても、
モノにならない。
そこで2008年、第七番目のチャレンジ。
ミニスーパーのマーケットサイド。
ミニスーパーでは、フォーマットにならない。
成立の可能性が低い。
レギュラータイプのスーパーマーケットと直接競合したら、
ひとたまりもない。
「コーナーマーケット」と表示された青果部門。
しかし生鮮食品の品ぞろえが薄すぎる。
商品構成は、スーパーマーケットと全く同じカテゴリー。
1万アイテム。
かといって、通路を狭くして、
商品を山積みしているわけではない。
ワインの品ぞろえは、コンパクトだが目立つところにある。
オープンキッチンの壁面では、
焼きたてピザやグリルアイテムを提供する。
ワインとピザ、デリ。
この店の核商品は、このあたりにある。
レジは、6基。
テスコのフレッシュ&イージーがすべてセルフレジであるのと、対照的。
つまり、フレンドリーも訴求している。
ジュリーさんが、丁寧にインタビューに答えてくれた。
カスタマーサービスとサービスデリ、そしてワインを重視している。
しかしオープン当初にあったものがない。
プリペアードフード。
2ドル均一のサイドディッシュ。
4ドル均一のサンドイッチやサラダ。
6ドル均一のアントレ。
8ドル均一のファミリーサイズのアントレ。
皆で取り囲んで、一生懸命に聞いた。
どうやらあくまでも実験店の位置付のようだ。
最初は、マーケティングリサーチし、
ターゲットカスタマーを設定し、
ポジショニングをつくって、新フォーマットにチャレンジした。
しかしそれは当然に、変わるもの。
ウォルマートは、10年前のネイバーフッドマーケットのときにも、
4店を一挙に出店させ、その後ずっとデータをとり続けた。
その方法論は、これまでと全く変わらない。
一方、競合店のセーフウェイやクローガー系のフライズとの価格比較を、
積極的に売り場表示している。
つまり小型店でありながら、
価格訴求もし始めた。
プライベートブランドのエンド陳列では、
ナショナルブランドと比較購買させる。
ウォルマートの命とも言えるエブリデーロープライスは貫かれている。
マーケットサイドは、便利性と価格志向の両立を図る店である。
私は、はじめに見たときから、この店は、
「日本におけるコンビニ機能」だと感じた。
アメリカにもコンビニはある。
しかしそれは日本のコンビニとは全く異なる。
社会的機能が。
ただの便利店。
しかし日本のコンビニは、
それを通り越して、
「朝昼晩のおかず屋」になった。
ウォルマートは、
日本のセブン-イレブンを、
アメリカの市場でコピーしようとしている。
私は、そう思う。
まだまだ、終わらないこの実験。
アメリカの小売マーケットには、
日本のコンビニ機能はない。
だから広大な市場が横たわっている。
ウォルマートは、巨大なマーケットしか狙わない。
それも時間をかけて、最大の市場を獲得する。
「スーパーセンターに変わるものは、
日本のセブン-イレブンしかないじゃないか」
私は、一人、つぶやいた。
最初になかったのに今あるものがもうひとつ。
「by walmart」の文字。
「Marketside」の下に、
小さくはあるが鮮明に表示されている。
これは、ウォルマートの本気さを象徴している。
「失敗だ」
「駄作だ」
さまざまな声が聞こえる。
しかし私は、もう少し、見ていきたい。
飽和するスーパーセンターに変わるモノを求めるウォルマートの姿を。
<結城義晴>