朝日新聞の社説「貧困が映す日本の危機」。
2007年の相対的貧困率15.7%。
2004年の14.9%は、
経済協力開発機構(OFCD)加盟30カ国中4番目に高い。
すなわち4番目に貧困層が多い。
ただしこれは、相対的な割合の問題。
国民の一人あたりの所得に比べ、
真ん中以下の人がどれだけの比率で存在するかという率の問題。
朝日新聞には書かれていないが、
2007年の一世帯あたりの平均所得額556万。
前年対比で1.9%マイナス。
過去を振り返って最高だったのは1994年の664万円。
この水準で国際比較すると、
4番目に貧困率が高いことは、
あまり問題とはならない。
ただし労働者1人あたり所得は313万で、過去最低。
日本は、非正規労働者が3割以上を占めていて、
この層が平均所得を押し下げている。
結果として、
「ひょうたん型」の所得社会になっている。
中流層がやせ細り、
高所得者と低所得者に分かれる。
朝日新聞らしい主張で、
公平と平等の社会のために、
正規労働者と不正規労働者の間に、
同一労働同一賃金の原則やワークシェアリングの考え方を、
取り入れるべきだというもの。
私も、この面では賛成。
大多数の低所得者、
少数の高所得者。
これらによる「ひょうたん型」の消費社会。
マーチャンダイジングとプライシング。
その基本的な考え方は、ここにある。
ドン・キホーテが好調を維持し続けたのは、
このひょうたん型社会をいち早く察知し、
対応しているからだ。
一方、日経新聞の今日の「交遊抄」がいい。
「おごれる者は」のタイトル。
元米国日産社長の片山豊さんが、
デビッド・ハルバースタムとの交流を描いている。
ハルバースタムは、
ピューリッツァー賞受賞のジャーナリスト。
名著『覇者の奢り』を書いた。
100歳の片山さんの見解の面白さは、次の言葉にある。
「エコカーは便利だし企業の利益には貢献するが、
人間の五感で運転する楽しさは乏しい」
これを「自動車業界の憂うべき事態」と断じている。
この「エコ」全盛のときに、
「五感の楽しさ」を忘れるな、と教える。
これが、いい。
とても、いい。
こんな100歳に、私はなりたい。
さらに片山さんは言う。
「経営陣も投資家も足元の損得に目を奪われがちだ。
堅実な自動車づくりと経営とは何か」
ハルバースタムとの会話を思い出しながら、
平家物語の教訓を静かに訴える。
「奢れる者は久しからず」
さて、「鳥の目、虫の目、魚の目」。
私がアメリカに降り立った時の第一声にしているのが、
この言葉。
たった1週間、10日間、アメリカを訪れて、
30店ほどの店を見る。
10数人のアメリカ人に会う。
それで、何を学ぶことができるのか。
「鳥の目」と「魚の目」がなければ、
役には立たない。
「虫の目」だけで、
アメリカ小売業を見てはいけない。
これが私の第一声。
「虫の目」とは、現場を見る力。
細部まで丁寧に「見極める能力」。
「Retail is detail」だからこれは大事。
しかし、不慣れなアメリカ流通業を「虫の目」だけで見ると、
大きな間違いを起こす。
「鳥の目」は、大局を見る力。
全体像を俯瞰しながら、「見渡す能力」。
従って、例えばスーパーマーケットならば、
それだけ見ても意味がない。
勉強にならない。
とりわけ、アッパーグレードの店だけ見ても、
何の意味もない。
ディスカウントの店だけ見ても、
間違いを起こす。
従って私は、全体像を描き出す膨大な資料を用意し、
この解説に力を入れる。
ウォルマートの本質が分からなければ、
クローガーやセーフウェイの好調さを軽視しては、
ウェグマンズやホールフーズは理解できない。
そして「魚の目」は、流れを見る力。
時間の流れの中で、現在と未来を「見通す能力」。
アメリカ小売業は、日本よりも過激に、急激に動いている。
その時代の流れを見通さねば、「現在」は分からない。
私は、1978年9月に初めてカリフォルニアを訪れた。
ペガサスセミナーの一員として、
当時の米国チェーンストアを、
渥美俊一先生から直々に叩き込まれつつ、
猛勉強した。
1カ月後、今度は高山邦輔先生と、
2週間かけて、全米を回った。
ロサンゼルス、サンフランシスコの西海岸から、
カンザスシティ、シカゴといった中部アメリカ、
そして東海岸のニューヨーク、ニュージャージー。
これもアメリカの広さ、地域ごとの違いを、
私に学習させた。
1年半後に、今度は食肉の世界をバーティカルに学んだ。
フィードロットと呼ばれる牧場。
屠場と解体場。
プロセスセンターと小売業外食業、
さらに家庭のキッチンから食卓の上、
冷蔵庫の中まで。
このとき、私はアメリカンカッティング方式で、
枝肉のカッティングを実際に体験した。
渥美俊一先生にはとてもかなわないが、
そんなことを32年間続けてきて、
現在の私がある。
これは、私の「魚の目」になっている。
アメリカ小売業、アメリカ消費産業、アメリカ社会を、
観察し、考察し、分析するときに必須の「魚の目」。
そして商人舎のUSA視察研修会は、
この私の「鳥の目」「魚の目」をもとに、
全員で「虫の目」を働かせることに終始する。
全員に「鳥の目」「虫の目」「魚の目」を、
まっさらなところから学びとってもらうことを、
目標とする。
そのことで、「人」が「変わる」。
「自ら、変わる」。
「イノベーション」と「モティベーション」が生まれる。
ここで特に重要なのは、
「鳥の目」と「魚の目」なのだと考えている。
日本社会が「ひょうたん型」になってきた。
しかし、ここで成功を収めていても、
「鳥の目」「魚の目」がなければ、
「奢れる者は久しからず」になる。
もう一度、言おう。
「虫の目」とは、現場を見る力。
細部まで丁寧に「見極める能力」。
これを支えるのが、専門性と現場主義。
「鳥の目」は、大局を見る力。
全体像を俯瞰しながら、「見渡す能力」。
これを支えるのが、情報量と知識。
「魚の目」は、流れを見る力。
時間の経過の中で、現在と未来を「見通す能力」。
これを支えるのは、経験と見識。
知識商人に、三つの目が必須であることは、
論をまたない。
そして、あえて「四つ目の目」をあげるとするならば、
謙虚で、真摯で、真っ正直な「心の目」である。
<結城義晴>
[追伸]
商人舎第6回USA視察研修会は、
来年3月開催の予定です。
(㈱商人舎スタッフ一同)