今朝の新聞各紙は充実している。
正月休みが、完全に明けたことを証明している。
全紙一面トップの藤井裕久財務大臣の辞意表明は、
鳩山内閣の波乱万丈を予感させるが、
それ以外のニュースやインタビュー、
対談、コラムなどに、見逃せない記事が並んだ。
2010年の今を読み取って、
時代を考えるのに好適の教材がそろった。
朝日新聞では二人の学者が対談している。
長谷部恭男東京大学法学部教授は憲法学者。
杉田敦法政大学法学部教授は政治学者。
「政治主導と民主主義の行方」がタイトル。
杉田さんが言う。
「今の主流は、一元的な権力観です」
民主党や鳩山・小沢のことを示している。
「権力一元化の論理は歴史的に見ても危険がある。
権力が偏在して政治が硬直化する恐れがあるからです」
「自由民主主義体制は、
権力一元化の論理と、
それを制約する論理の合わせ技で、
なんとか維持されてきました」
「私は人々の多様な意見を代表するために、
権力は常に多元性を持ち続けるべきだと思っています」
その通りだ。
長谷部さんも続ける。
「憲法に権力一元化の直接の手掛かりはありません。
憲法が定めているのは多元的な統治システムです」
「議会が制定した法律について裁判所が憲法違反だという。
それが長期的には国民の利益になるという考え方」
両者そろって、結論付ける。
「政治改革以来の民主主義のとらえ方は問題を残している」
「日本の民主主義は、まだ過渡期にある」
私は議論を、いつも企業経営にスライドさせる癖がある。
企業経営にとって、権力一元化は果たして有益なのか。
企業経営にとって、民主主義は果たして有効なのか。
この論議の中で交わされたこと。
「権力一元化の論理」と、
それを「制約する論理」の「合わせ技」。
これで「なんとかやってきた」政治体制の、
「なんとか」のリアリティこそ、
企業経営なのだと思う。
企業内における経営者と労働組合の「合わせ技」など、
その好例だろう。
ただし、優れた経営者が必要であると同時に、
賢い労働組合が不可欠だ。
権力一元化の論理も、
それを制約する論理も、
どちらも論理的でなければいけない。
そしてその合わせ技で、
「なんとか」やっていくのが、
2010年だとも思う。
ただし、経営者と労働組合の企業経営のメカニズムが、
政治体制とダブる時代は終わった。
つまり、資本家と労働者との「対立構造」では、
問題の根本解決は図れないことが判明した。
それでも、「権力一元化の論理」と「制約を与える論理」、
あるいはさらに進めて多元的なシステムや組織の多元性は、
もっともっと検討されるべきだろう。
ルネッサンスの政治学者マキアベッリなど、
「良いカリスマ」の存在こそ、
もっとも優れた統治システムだと断言する。
チェーザレ・ボルジアを指している。
マキアベッリも企業経営にこそ、
当てはめてとらえるべき教材だろう。
中小企業においては、
マキアベッリの『君主論』は有益だからだ。
しかし現代国家や巨大企業では、
統治システムの多元性は、必須のものだと思う。
今朝の新聞からもう一つ。
日経MJが、よい。
その中で、伊藤元重東京大学大学院教授の連載コラム。
「ニュースな見方」
伊藤さんの持論がわかりやすく展開される。
企業存続の三つの条件。
①もっとがんばる
②他の企業とちがうことをする
③競争相手が消滅するように仕組む
わかりやす過ぎて、疑いたくなるくらいだが、
これは一つの重要な考え方。
伊藤さんは、言う。
「すべての企業がこのどれかに当てはまる」
①の「もっとがんばる」は、
「日本経済が右肩上がりの時」の常とう手段。
そして中国などアジア市場では、
現在もこのパターンが生きる。、
③のパターンは、今年、国内で先行する。
「過剰供給、過剰企業の状況」の多くの分野では、
「いかに早く競争相手に退出してもらうのか、
あるいは戦略的に合併・吸収・リストラなどを断行して、
産業全体として適正規模を実現するかが鍵だ」
伊藤さんは極めてクールだ。
もっとも期待されるのが②のパターン。
「新たな分野で新規需要を切り開く企業」
その登場を、伊藤さんは希求する。
最後に伊藤さんが強調すること。
「個々の企業が3つのどれかを徹底して行う必要がある」
まあ、大抵の企業は、
①と②を徹底して実践・実行することである。
すなわち、
もっと頑張れ、
他と違いを出せ。
私の言葉にすれば、
「徹底する」
すなわち「詳細に、厳密に、継続する」
そして「差異が価値を生む」
この時、同時に組織の多元性を、
是非とも体内化してほしいものだ。
<結城義晴>