6月14日月曜日、夜中の11時48分。
日本中が熱狂した。
サッカー・ワールドカップ。
地球的規模での関心の渦の中、
南アフリカ共和国で開催中。
4日目のEグループ予選。
日本対カメルーン戦。
松井大輔がゴール右サイドからセンタリング。
本田圭佑が左インサイドでトラップし、
そのボールが右足ふくらはぎに当たって、
おあつらえ向きに利き足の前にこぼれる。
それをゴールキーパーの右肩をかすめるように、
左のインサイドキックで押し込んだ。
本田は冷静だった。
岡田武史は珍しく感情をむき出しにした。
今回の布陣。
その監督岡田が苦心の末、
考え出した。
私にも、絶対的エースは本田だと思える。
その本田をワントップに据える。
しかしこれは、
サッカーの古典的戦略でもある。
メキシコ・オリンピックのころは、
どのチームもこの戦略だった。
絶対的な強さと決定力をもつセンターフォアード。
そして両サイドに速くて、正確な配球のできるウィング。
達者なハーフ団と忠実なバックス団。
メキシコのときには、
センターフォアード釜本邦茂。
ウィング杉山隆一。
ハーフには、八重樫茂生、宮本輝紀、小城得達。
バックスには鎌田光夫、宮本征勝。
監督は長沼健、コーチに岡野俊一郎、平木隆三。
すごいメンバーだった。
今回は、センターフォアードに本田。
ウィングは松井と大久保嘉人。
ミッドフィルダーに、遠藤保仁、長谷部誠、
ディフェンダーに、中澤佑二、田中マルクス闘莉王、駒野友一、長友佑都。
松井、本田で、試合を決めた。
本田のコメントも興奮気味だった。
もちろんミッドフィルダーたちも、
ディフェンダーたちも忠実に役割を果たした。
ギャンブルはせず、マシンのように、
球を追い、敵に喰らいついた。
その挙句のワンチャンスのセンターフォアードとウィングの仕事。
我田引水になるが、商人舎標語。
「むずかしいことはおもしろい」
そのために「やさしいことから手をつけよ」
監督の岡田は「シンプルなストラテジー」を打ち出した。
古典的なサッカースタイルだった。
小学生のチームを預かった監督が、
重要な試合に勝ちにいくような発想。
もちろん前任のイビチャ・オシム監督の残したものは大きい。
相手を圧する走り、動き。
愛弟子のミッドフィルダー阿部勇樹がそれを示した。
それにしても、カメルーンのエトーは元気がなかった。
いらだちもあったように思う。
この写真だけが救いだった。
アフリカの時代の象徴のように位置付けられ、
注目の的だったにもかかわらず、
彼らは、全員が、
孤立しているように見えた。
孤独に映った。
アフリカ人そのもののようだった。
それに対して日本チームは、
組織の力を発揮した。
まさに日本人そのものだった。
オランダ戦に向けてイビチャ・オシムのコメント。
「一言で伝えるとすれば、
陶酔状態になるなということだ。
舞い上がるなということ」
「まず、頭を冷やして冷静になれ。
そして、今日の試合を振り返って分析してほしい。
良い部分と同時に悪い部分もしっかりと分析して、
良い部分は次の試合で繰り返せるように」
「もっと大事なことは、ミスがあった部分を繰り返さないこと。
間違いを繰り返さないことができれば、
それは進歩したということだ」
13日の日曜日には、
日本プロ野球交流戦優勝が決まった。
オリックス・バッファローズ。
監督は岡田彰布。
彼も早稲田大学からプロで、
岡田武史の後輩。
岡田デーが続く。
私は、しばらく、いい気分。
それにしても、
日本中の熱狂。
これを商売に使わない手はない。
自分も熱狂して、
顧客と共鳴する。
商人にはそういった「熱いもの」が必要だ。
私も、あなたも。
<結城義晴>
[追伸]
今日はスポーツ新聞のコラムになってしまいました。
お許しのほど。