アメリカ小売業の8月の実績。
主要企業の既存店売上高は前年同月比でプラスの3.2%。
アメリカの小売業・フードサービス業は、
国内総生産の7割を占める。
その中の小売業が8月にプラス3.2%。
これは9カ月連続で前年を上回った。
商人舎[ほぼ毎日更新ブログ]の中の、
「若林哲史のアメリカ流通最新情報」に詳しい。
ただし残念ながらここには、
最大の規模を誇るウォルマートの実績は含まれていない。
ウォルマートが四半期決算しか発表しなくなったためだ。
それでもドル安が進み、米国経済の後退がいわれるなか、
アメリカの小売サービス業は、回復基調にあるのだ。
アメリカでは9月から学校の新学期が始まる。
従って8月は夏休みであると同時に、新学期準備期間。
多くの需要が見込まれる。
この時期、主要企業がプラス3%以上を示したことは、
アメリカ経済全体にとっても、
好材料が揃ったと考えることができる。
ノーベル経済学賞のポール・クルーグマンが言っている。
「国際競争力は幻影である。
米国の経済力を上げるには、
サービス業の生産性を引き上げることだ」
しかし3.2%といっても、
すべての企業が伸びたわけではない。
明暗がはっきりしたということ。
最も伸びたのは、メンバーシップホールセールクラブ業態。
企業はコストコ。
既存店前年同月比プラス6.4%。
高級百貨店も、プラス4.5%。
ノードストローム、ニーマンマーカスなど。
7月には7.4%の伸長だったから、
鈍りはしたものの、日本の百貨店と比べると、
信じられないほどの売上げの伸びだ。
ウォルマートと同じフォーマットのターゲットは、
プラス1.8%。
いまやディスカウントストアやスーパーセンターは、
米国小売業態の平均値を示す存在となった。
特に触れておかねばならないのは、
アバクロンビー&フィッチ。
3カ月連続前年プラスに転じてきた。
アバクロの回復は、米国消費の復調を意味する。
問題は圧倒的な格差をつけるウォルマートの動向。
同社は4代目CEOマイク・デュークの代になってから、
四半期決算しか発表しなくなった。
一部には、デュークこそ、
ウォルマートの問題点との指摘もあるが、
それでも、米国平均の3%は上回っただろうし、
ライバルのターゲットは凌駕したに違いない。
そのウォルマート三代目CEOのリー・スコットに、
私は、まったくの偶然ながら会ったことがある。
以下は、先週土曜日のこのブログ、
「西友社員への手紙」のつづき。
これは2004年6月の『販売革新』誌の巻頭言に掲載されたもの。
「リー・スコット(ウォルマートCEO)への手紙」
前略
4月27日、西友沼津店では失礼しました。
まさか世界最大企業の最高責任者が、
完全なお忍びで、予告もなく、
新設店とはいえ、地方の店舗を訪れようとは、
私も全く想像できませんでした。
付き添うのはボディガードと通訳だけ、
ラフなジャケットとジーンズ。
そう言えば、故サム・ウォルトン翁が店舗を訪問するときには、
いつもトヨタのピックアップトラックで、ラフな格好だったと聞きます。
あなたもまったく、そんな雰囲気を漂わせていました。
私は、沼津店の塩口永店長とは、彼が、
東京六本木ヒルズにある西友のスーパーマーケット「フードマガジン」の店長だったときに、
お会いしていました。
その塩口さんと、沼津店のフードコートで話をしていたときに、
あなたは突然、やってきたのでした。
まず、4月末日の5000店突破、おめでとうございました。
ブラジルでの100店を超える買収があって、
一挙に大台の5000店を超えたようですが、
苦戦の南米でもようやく足がかりが着いたといったところでしょうか。
1月末日の2003年度決算も、
年商2563億2900万ドル(30兆7600億円、120円換算)と、11.6%の成長。
1990年に買収した食品卸事業『マクレーン』を、
売却した上での120億ドル近くの売上高伸び率ですから、
依然、ウォルマートの勢いは止まらないと表現してよいのでしょう。
私があなたと会って、聞きたいことの最大のテーマは、
なぜ、ウォルマートは成長し続けられるのか、
なぜ、ウォルマートに大企業病は無いのか、という点です。
今回の突然の出会いでは、そんな質問もできず、残念でした。
しかし、あなたは塩口店長に聞き、指示しました。
「①店の営業状態はどうか。②いつ黒字化するのか。③この状態を1年間、維持せよ」
サムの質問やアドバイスとそっくりでした。
1992年にサムが亡くなり、すぐにデビッド・グラスがCEOとなりました。
8年後の2000年、あなたは3代目のCEOに就任しました。
それから2001年、世界最大の企業となり、全
米小売業の全部門でシェアナンバー1の地位を獲得すると、
2002年、西友を買収して日本進出を果たしました。
今年3月、私は『西友社員への手紙』の中でこう書きました。
「ウォルマートと西友は、この微差の生存競争を拒否しようと考えています。
経費率が圧倒的に低い差異性のある流通企業をつくろうとしています。
その経費構造が日本のマーケットに環境適応するか否かは、
それこそ歴史が証明することになります」
西友の社員の皆さんには、こう問いました。
「あなたは、この差異性のある企業づくりに、意欲を感じられるか」
僭越ながら、私があなたに期待することはこの点です。
是非、日本のマーケットにおいて、
「差異性のあるチェーンストア」を創ってください。
違いを持ち込むことこそ、ニューカマーの役割であり、責任でもあります。
それがマーケットの進化を生み出すのです。
ところで右手の骨折、具合はいかがですか。
ミーハーなようですが、
あなたが右手を傷めているために、
左手で交わした握手は、今も力強く、
私の感触として残っています。 早々
尊敬するリー・スコット様
<㈱商業界社長 結城義晴>
この巻頭言、当時の西友会長・渡邊紀征さんがいたく気に入ってくれて、
英文に翻訳したものを本国のリー・スコット本人に送った。
私が強調したかったのは、二点。
第一は、ウォルマートが「微差の生存競争を拒否しよう」と考えていること。
「経費率が圧倒的に低い差異性のある流通企業をつくろうとしていること」。
第二は、従って、日本のマーケットにおいて、
「差異性のあるチェーンストア」を創ってほしいこと。
「違いを持ち込むことこそ、ニューカマーの役割であり、責任でもある」
それがマーケットの進化を生み出すからだ。
さてその後、5年間でウォルマートは、
私の指摘通りの道を歩んだか。
ニューカマーの役割と責任を果たしたか。
日本のマーケットに進化を生み出したか。
私はこの手紙の後、
「誰がウォルマートを殺すのか?」という連載を書き始めた。
まだ結論は出ていないし、
連載は終了していない。
<結城義晴>