ロンドン4日目。
弱音を吐く気はないが、
疲労困憊。
しかし仕事となると、
元気が出てくる。
これが不思議。
だとすると、仕事なしでは、
生きられないのかもしれない。
さて昨日は、一日、
ロンドンの市街・郊外を回って、
スーパーマーケット視察。
1日で、ロンドンの周辺と中心部を回るだけで、
ほぼ、イギリスの食品小売業の全貌をつかむことができる。
このこと自体が、
ユナイテッド・キングダムのスーパーマーケットの最大の特徴といえる。
まず、朝一番で、
テスコ・エクストラ。
テスコ最大のフォーマット。
平均売場面積6625㎡。
非食品強化型のハイパーマーケット業態。
全英に190店舗を配置する巨艦店舗。
隣に、マークス&スペンサーの店がある。
ショッピングセンター出店の郊外型店舗。
マークス&スペンサーは店舗数654店で、
年商52億ポンド(130円換算で6760億円)。
全英第5位の小売業。
衣料品が特に強いハイパーマーケット(総合スーパー)と大衆百貨店の、
中間と考えたほうがいいフォーマット。
かつて木下安治さんが、
講師をしていた千葉商科大学の学生に質問した。
「君たちの近くにある百貨店で一番好きな店を上げよ」
8割方の学生が答えた店は、なんと、
「イトーヨーカ堂」だった。
イトーヨーカ堂など総合スーパーは、
大衆百貨店という位置付けが良いと思う。
この考え方は、
安土敏さんが『スーパーマーケット原論』の中で明らかにしてくれた。
マークス&スペンサーは、
まさに大衆百貨店だ。
私は、日本のイトーヨーカ堂は、
マークス&スぺンサーを研究すべきだと思っている。
それから二番目は、テスコのスーパーストア。
こちらは平均売場面積2786㎡の大型スーパーマーケット。
この店は、ロンドン中心街に近いケンジントンのテスコ。
1996年9月にオープンで、私は10月に訪れて取材し、
月刊『食品商業』で記事にした。
ずいぶん改装されて、ミールソリューションのコーナーがなくなっていたが、
地域になじんで、定着した売場となっている。
テスコ第3のフォーマットはテスコ・メトロ。
平均面積1081㎡の都市型小型店。
都市中心部や郊外の大通りに立地する。
日本でいえば普通のスーパーマーケットがこれ。
そしてテスコ第4のフォーマットは、
テスコ・エクスプレス。
私たちが泊っているホテルのすぐわきにあるミニスーパー。
日本でいえばコンビニエンスストアのジャンルに入るが、
テスコの品揃えの最小単位を切り取ったフォーマットというほうが正しい。
テスコは4つのフォーマットで、2009年、
イギリスの食品マーケットの30.5%を占めている。
断トツの凄いシェア。
シェア2番目は、アズダ・ウォルマート。
アズダは1999年にウォルマートに買収されたが、
現在はそのウォルマートの力を借りて、全英第2位に躍り出た。
総合スーパーとしてのスーパーセンターを30店展開している。
これはそのロンドンにいちばん近い店。
それ以外にスーパーマーケットを320店、
アズダ・リビングという非食品のフォーマットを24店舗。
テスコに対して、ディスカウント性の強い店舗で、
特徴を出している。
第3の存在は、セインズベリー。
年商214億2100万ポンド(2兆7847億円)。
ハイパーマーケットを28店。
これは明らかにテスコ・エクストラに対抗したフォーマット。
非食品が強化されている。
セインズベリーは、通常のスーパーマーケットを509店展開する。
さらにセインズベリー・ローカルと称したコンビニ型ミニスーパーを335店。
最近の戦略はテスコの後追いの観が免れない。
しかし、最も伝統のあるスーパーマーケットとして、
イギリス人の人気は高い。
この3強に次ぐのがモリソンズ。
しかし今回は訪れる時間がない。
その代わりに、ウェイトローズを訪問。
年商44億1800万ポンド(5743億円)の高級スーパーマーケット。
世界の小売業ランキングでは、
88位に入るイギリス最大の百貨店ジョンルイスの子会社。
日本でいえばクイーンズ伊勢丹といったところ。
そして最後に、アルディ。
ご存知ドイツのハード・ディスカウンター。
ボックスストアともいう。
イギリスに 、420店を出店し、21億6300万ポンド(2812億円)。
全英の食品市場におけるシェアも2.3%ながら急成長中。
これで、ほとんどの食品関連小売業を網羅できる。
なぜならテスコとアズダとセインズベリーで、
食品マーケットの63.7%を占拠してしまうからだ。
この3強に、モリソンズの12.3%、
ウェイトローズの4.0%、
アルディの3.1%を加えると、
なんと83.1%となってしまう。
だから1日で、ほとんどを訪問できる。
これが日本では、とてもそうはいかない。
アメリカでも難しい。
そのこと自体が、イギリス小売業界の特徴。
すなわち「寡占化」。
しかし寡占化しているから、
テスコもセインズベリーもアズダも、
マルチ・フォーマット戦略を採用せざるを得ない。
発展途上のアルディはシングル・フォーマット戦略。
アメリカでも1000店を超え、
ウォルマートを脅かす存在になっているが、
シングル・フォーマットで白アリ軍団のように市場を食いつくすと、
他の国に移動していく。
それがアルディ。
このイギリスでは、完全に「ポジショニング競争」に入っている。
自らのポジショニングをいかに明確にするか。
それも自分のオリジンを守りきったうえで。
伝統の良きところは変えない。
しかし変えるべきところはどんどん変える。
それがイノベーション。
イギリスに来ると、
そのことがよーくわかる。
ホテルに帰って講義。
万代ドライデイリー会のメーカー・問屋のメンバー40人。
疲れをものともせず、夜の講義に良くついてきてくれた。
心から感謝したい。
「井の中の蛙大海を知らず」
21世紀の知識商人は、
このことだけは避けねばならない。
もちろん聞きかじった知識をひけらかすことも、
情けない。
ほんとうの意味での、
「鳥の目」「虫の目」「魚の目」
そして「心の目」が問われている。
イギリスの小売業でつけ加えておかねばならない事実。
ネット・ショッピングに対して、
本腰を入れているということ。
それも利益の出るネット・ショッピング。
その構造がどうなっているか。
この夜の講義の中核テーマの一つ。
もちろん、なぜテスコのエクスプレスが利益を出せるのか。
日本のテスコやアメリカのフレッシュ&イージーが、
なぜ飛躍できないのか。
それも講義した。
なぞ解きは、日本に帰ってから。
まだまだ旅は続く。
<結城義晴>