「球春」。
今日から始まった第83回選抜高校野球。
日本語で「野球」。
英語で「baseball」。
日本語の「野」でする球技こそ、
ふさわしい気がする。
それは当然ながら、
昼間のスポーツ。
選ばれた高校生たちが、
昼間の甲子園で、
全力で球を投げ、球を打ち、球を追う。
大震災からの「復旧」を予感させてくれて、
元気が出てくる。
甲子園が関西で、
ほんとうによかった。
関西も、中四国も、九州も、
120%で頑張ってほしい。
それが東北や関東を、
勇気づけることになる。
日本を元気づけることになる。
朝日新聞の『天声人語』。
「救国の散財」を訴えている。
「節電で薄暗い店、歯抜けの商品棚。
これも有事かと思う」
「工場や発電所、物流網がやられ、
停電や放射能の風評被害もある。
空気ではなく実を伴う消沈だ」
「日本全土が現場、全国民が当事者であろう。
だが、皆が沈み込んではお金が回らず、
再生はおぼつかない」
「国費を被災地に集め、
懐に余裕のある向きは『救国の散財』をしてほしい」
「義援金、外食、買いだめ以外の衝動買い、
何でもいい」
「将来に備えた蓄えもあろうが、
国難を皆で乗り越えてこその将来、
ここは東北のために放出しよう。
世界の終わりではない」
さすが『天声人語』と、ここはたたえよう。
日経新聞も「自粛ムードを断ち切れ」と訴えた。
特に関西、中四国、九州の商業・サービス業。
120%の「救国の散財」に応える品揃え、サービスを用意して、
日本中に元気をもたらそう。
この主張に対しては、
全国の小売業やサービス業に携わる人々は、
もろ手を挙げて賛同してくれるに違いない。
朝日新聞「オピニオン」欄の「ザ・コラム」。
大阪大学フェローの小野善康さんが、
「バイ東北」運動の推進を訴える。
「不況のせいで余っている生産力は50兆円前後」
「重要なのはこの力を復興に結び付けることであり、
それには経済活動を着実に続ける必要がある」
「自粛ムードも高まっているが、
それで経済活動を止めたら、
復興はかえって遠のく」
「被災地での物不足は道路や港が壊れて
物流が滞ったからであり、
早晩回復する」
「日本全体の生産余力は十分であるから、
他の地域で消費を控えても無意味だ」
ほんとうに小野さんの言う通り。
「普通の生活を維持し、
できるだけ東北や北関東の部品や最終財を買う」
これが「バイ東北運動」。
「Buy Tohoku!」
1985年、売上高84.5億ドル、店舗数882店の段階で、
ウォルマートのサム・ウォルトンは、
「バイ・アメリカン運動開始宣言」を発する。
「アメリカ製品を買おう」というキャンペーンだった。
このときウォルマートは従業員10万人を超えていた。
郷土愛と商売が結びついて、
このキャンペーンは大成功。
5年後の1990年、
ウォルマートは、シアーズローバックを抜いて、
全米第1位、世界第1位の小売業となる。
「バイ・アメリカン」と「バイ東北」。
特に西日本や関東・中部の皆さん、
「救国の散財」を推進しよう。
ただし、関東・東北地区での計画節電には、
全面的に協力すべきだ。
例外は認められない。
計画節電はおそらく1年は続く。
ここでは「利にこだわらず情に流されず」
堺屋太一さん言うところの「第2の救済段階」であることは、
変わらないのだから。
堺屋太一さんといえば、
昨日のブログでふれたように、
「復興院」という名称ではないが、
「復興省」構想が、
政府内からも提案された。
片山善博総務大臣あたりは反対しているようだが、
「すべての枠を超えた総合的で強力な勧告機関」は、
いま、絶対に必要であると思う。
「球春」とともに明るいニュースがもう一つ。
福島第一原発の中央制御室に照明が通ったし、
原子炉建屋への外部電力の供給体制がほぼ整った。
一方、ホウレンソウ、カキナ、原乳などの出荷制限の問題。
福島、茨城、栃木、群馬の産地には大打撃だ。
行政府・業界を上げて、風評被害の打ち消しに懸命だが、
もう、これは一定程度止まらない。
「食品から検出された放射性物質」
これだけで、一般消費者は忌避する。
ホウレンソウを毎日、1年間食べ続けてもCTスキャン1回分。
枝野幸男官房長官がいくらコメントしようとも、
消費者は「自分だけでも逃れたい」と考える。
現在の牛乳の流通の目安。
普通牛乳の品質保持期限は製造後8日程度、
低温殺菌牛乳の消費期限は製造後5日程度。
それでも消費者は1日でも新しい日付の商品を選ぶ。
この傾向がピークまで助長された中で、
「放射性物質が検出された食品」。
ホウレンソウや牛乳では止まらない。
野菜、果物、乳製品、魚介類、そして水。
科学的根拠の薄い「放射能を浴びた商品の風評」ほど、
恐ろしいものはない。
政府をはじめ自治体には、
「無責任な官僚的判断」だけは、
勘弁願いたい。
やくみつるが風刺漫画にしている。
菅直人首相をポパイに見立てて、
「ホウレンソウの缶詰」を食べさせるの図。
ポパイはホウレンソウの缶詰を飲み込むと、
元気になって、オリーブを助け、
ブルートをやっつけた。
そのホウレンソウが、
人々を元気にするどころか、
人々から退けられる。
悲しいことだ。
亡くなられた田島義博先生。
学習院大学院長。
狂牛病騒ぎの真っただ中、
平気で米国産牛肉を食して、言った。
「私はもう高齢なので、
ここでアメリカンビーフを食べて、
10年後にひどい健忘症になっても、
クロイツフェルト・ヤコブ病なのか、
アルツハイマーなのか、
どちらかは判明しない」
このくらいの豪胆な心持ちも、
大人の人間には必要だと思う。
もちろん専門家総動員で、
適切な放射能規制値を設定し、
それを常に検査し、公開して、
国民の安全安心のマインドを確立することは、
いま、必須の仕事である。
行政府にはそれを切望したい。
そのうえで、小売流通業・フードサービス業は、
過度な安全基準をアピールして、
競争の手段や商売の手立てにする愚だけは避けたい。
元気の出る「球春」と「ゲンパツの通電」ニュース。
それに水を差す「放射性物質が検出された食品の風評被害」。
私たちの前には、
これでもかこれでもかと、
難問が待ち構えている。
「利にこだわらず情に流されず」
「ひとつずつ・すこしずつ」
これだけは、変わらない。
元気を出そうよ。
それがあなたの仕事です。
元気を売ろうよ。
それがあなたの役目です。
<結城義晴>