結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2011年03月25日(金曜日)

「被災の目に見える形と見えないかたち」と過激な見出しや言葉づかい

どこか、疲れがたまっている気がする。

こぶしの花は、関係なく、
きれいに咲いているが。
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「ほぼ日」の巻頭言「今日のダーリン」に、
糸井重里さんが書いている。
「目に見える被災のかたちと、
見えない被災のかたち、

両方を乗越えるのが、
ぼくらの目的だと思います」

もちろん現地で被災した人々は、
想像できないくらいの「両方」を
全身に受けているのだろうが、
日本人全体が
「目に見えない被災」を受けている。

それが、この私の
「どこかにある疲れ」だと思う。

朝、目を覚ますと疲れを感じる。
「元気を出そうよ、
それが私の仕事です」
そう呟きながら、起き上がる。
そんな毎日だ。

糸井さんは、考える。
「自分の『好き』を見失わず、
つまり自分らしさを忘れることなく‥‥」

この「好き」がカギを握るんじゃないか。

一応、賛成です。

しかし、それよりも、
私は「自分の仕事」「自分の役目」が、
「目に見えない被災」や「どこかにたまった疲れ」を、
とりはらってくれる原動力だと思う。

「自分の仕事」
「自分の役目」

それがあるから生きている。
それがあるから元気が出る。
勇気が生れる。

元気を出そうよ、
それがあなたの仕事です。
元気を売ろうよ、
それがあなたの役目です。

今日も一日、元気と勇気。
今日も一日、優しく強く。

さてニュースキャスター池上彰さんの主張、
「原発事故報道、専門用語が不安を増幅する」。
朝日新聞「ななめ読み」の欄。

私も感じていたことを言ってくれた。

「被爆」と「被曝」。
耳で聞くと「ひばく」。

「被爆」は、「爆撃を受けること」
あるいは「原水爆による攻撃を受けること。
また、その放射能の害をこうむること」

対して「被曝」は、
「放射能に曝(さら)されること」

「ひばく、ヒバク」と聞いていると、
「爆発によって放射能の害をこうむる」と、
思い込んでしまったりする。

池上さんは言う。
「放射線を浴びた」と、
「平易に書いたほうが、誤解が少ない」

3月13日の朝刊各紙の一面トップ見出し、
「福島原発で爆発」
巨大な文字が並んだ。

池上さんの言。
「この見出しを見て、
原爆のような爆発が起きたと勘違いした人も
多かったようです」

さらに14日の夕刊各紙。
「3号機も水素爆発」

「今度は、
水爆が爆発したかのような誤解をする人も
現れました」

「専門家や新聞記者たちは・・・
見出しを安易に付けてしまいますが、
知識のない一般の人は、
不安をかきたてられてしまうのです」

私も30年間、
雑誌の編集に携わっていたから、
よくわかる。

見出しの功罪。

商売でいえば、
POPやショーカード、
エンドパネル、
その言葉づかい。

過激に過激に表現しがちだ。

特に今回の東北関東大震災などのときの、
新聞・雑誌、テレビの見出しやタイトル。

結果的に「不安をかきたてる」ことにだけはなってほしくない。
十二分に配慮しなければならない。

㈱チンギスハーン旅行のロブサンドルジ・ガルタ社長から、
一昨日、聞いた話。
同社は、モンゴルへの旅行代理業を主な業務にする会社。

この5日間に約2000人のモンゴル人が、
日本からモンゴルに帰国した。
日本に住んでいる人たちは、
そんなに危険を感じていないが、
本国の家族や親せきが心配して、
政府にまで帰国を要請するという。

モンゴルでも連日、
東北関東の震災のニュースが流れているが、
「福島原発で爆発」や「3号機も水素爆発」のような言葉づかいで、
日本中が震災に遭い、
放射能に汚染されているか、
のような風評が立っているらしい。

これはモンゴルに限らない。
アメリカでもヨーロッパでも、アジアでも。

日本国全体、日本人全員が、
風評被害に苛まれていることになる。

国内で風評に惑わされている時ではない。
日本人が自ら風評被害を起こしているその映像が、
海外に流れて、より大きな風評となる。
「風評」とは、
「世間であれこれ取りざたすること。
また、その内容。うわさ」

噂の広まるスピードは恐ろしい。
インターネットやツイッター、フェイスブック、は、
世界的で巨大な「風評拡散装置」である。

このブログを書いている2011年3月25日15時4分更新段階の、
ポータルサイト「yahoo! JAPAN」のトップニュースの見出し4本。

*1、2号機も高線量の水たまり
*被ばく 放射性物質どこから
*原発20-30km圏 自主避難促進
*大震災の死者 1万人超える

いかがだろうか。

昨日も書いたが、
「風評被害には、
知識と情報で対抗する」

それしかない。

しかしそれでもいいニュースはある。
朝日新聞の「国際」欄。
「中国の救援隊リーダー語る」
中国地震局国際協力部・徐志忠課長(47歳)。
「被災地で、秩序を守る住民たちの姿が、
『最も印象に残っている』」

「持ち込みが認められた機材や食料、飲料水は計4トン。
途中で尽き・・・現地で調達したが、
商店ではお願いしても料金を受け取ってくれず、
最後は買いに行けなくなった」

徐さんはパキスタンやハイチ大地震などに続いて、
5度目の海外派遣。
「ガソリンスタンドでの長蛇の列でもクラクションは鳴らされず、
横入りする車がないことにも感心した」

「被災地では『謝謝』『ありがとう』と声をかけられた」

徐さんには心から感謝したい。
「風評には負けないぞ」という気持ちになる。

一方、日経新聞の国際欄。
ジュネーブ発で「国連3機関 日本を支援」の見出し。
世界保健機構、国際原子力機関、国連食糧農業機関が、
福島第一原発の事故に伴う農産物放射能汚染に関して、
「日本政府への支援を表明する共同声明を発表」

3機関はこれまでの日本政府の対応を評価している。
「農産物の放射能を測定して結果を公表し、
消費者や生産者に安全対策を指導している」

さらに「日本以外の農産物が汚染されたという証拠は一切ない」

「証拠は一切ない」と、
きっぱり言いきっているところが、いい。
うれしくなる。

海外でも、
日本を正しく評価している人がいる、
正当に見てくれる機関がある。

私たち自身が、
私たち自身を、
疑ってはいけない。
貶めてはいけない。

さて、昨日、今日と、
横浜の商人舎オフィスに訪問者。
私がいなくてもいても、
来訪してくださることはうれしい。

昨日は鈴木國朗先生、
今日は常盤勝美さん。
20110325160630.jpg
常盤さんとは、イタリアンでランチ。
パスタとピザ。
おいしかった。

疲れがすこしとれた気がした。
ありがとう。

常盤さんは筑波大学大学院卒業の理科系。
気象予報士で、ブログ『2週間天気予報』でおなじみ。

理科系の人の震災への見方がわかって、
私には勉強になった。

小売業やサービス業にも理科系の人財が必要だ。
私がいつも、言っていること。
理科系と大雑把にくくるのも、
もう遅れているのかもしれない。

物事を論理的・科学的に観察し、判断できる人。
そのうえでひとつの専門を極めた人。

付和雷同しない人。

風評被害に立ち向かうには、
そんな人たちの知識と情報が必須だ。

最後に、一言、応援のメッセージ。
『日経MJ』 がんばれ。

私の専門分野をカバーしてくれているメディアの代表が日経MJ。
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科の私の講座でも、
特別のテキストは指定していないが、
シラバスに掲載して、
このメディアは目を通しなさいと指導している。

その日経MJ、この震災以後、
ちょっと元気がない。

事情はよくわかっている。

専門紙誌はこんな時、
扱うネタが一般紙とかぶってしまう。
MJは日経本紙に完全に奪われてしまった。
しかしそれでも、私たちのメディア。
小売流通業・サービス業の専門紙。

その専門性を見せてほしい。

ひとつだけ、提案。
毎号、一面に「コラム」があった方がいいと思う。
コラムは社会全体を覆い尽くし、
問題を発見し、抽出し、解決の糸口を提示する。

朝日新聞の『天声人語』、
日経本紙の『春秋』、
読売の『編集手帳』・・・・・・。

幸いに日本経済新聞社には、
井本省吾さんや田中陽さんといった書き手がいる。
小売流通・サービス業への造詣が深く、
応援してくれるジャーナリストがいる。

そんな人たちが、一面コラムで、
応援を続けてくれたら、
他は日常の専門記事でよい。
たいていの場合、コラムは、
見出しで過激さを売るという愚は起こさない。

がんばれ、日経MJ。
小さな声で、応援しよう。

<結城義晴>

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