ずいぶん暖かくなってきた。
6月の陽気などと、
気象庁は伝える。
東北関東大津波大震災で被災した人々にとっては、
寒さに震えることがなくなるのは、
少しはいいことか。
その東北にも桜が咲いた。
「さくらさくらさくらさくら万の死者」
<岩手県大船渡市・桃心地(日経俳壇より)>
日経新聞『春秋』が取り上げた俳句。
選者の黒田杏子さんの寸評は「国民的鎮魂歌」。
暖かくなっても、
寒い日が来ても、
桜が咲いても、
桜が散っても、
私たちは、
忘れてはいけない。
いつも、心を一つにしていなければ。
日経新聞『大機小機』。
コラムニストのパピ氏が批判的に指摘する。
「メガバンクは頼りになるのか」
「東日本大震災後の混乱のさなかに、
メガバンクの1行がライフラインの一つをマヒさせた」。
みずほ銀行のこと。
「その結果、経済・社会の血流は滞る。
カネの流れをスムーズにするのが使命である銀行が、
大事なときに決済機能を混乱させた責任は重い」
さらに続ける。
「このところ銀行のサービス低下に、
不満を感じる機会が多い」
例えば「銀行の窓口で公共料金を支払おうとすると、
申込書を書けという。
コンビニでは、
そんな面倒なことを要求しないで受け取ってくれる」
さらに「このところ、おカネの流れは市場を通じたほうが効率的」とも。
「伝統的に経済・社会のインフラとしての役割を果たしてきた金融」の、
「国民の信頼」が失墜している。
「3メガ体制に集約され、
日本の金融システムは安定性を増して、
世界に雄飛するのかと期待していたのに、
むしろ寡占の弊害が気になる」
「寡占の弊害」。
どの世界にもある。
私はだから、
目指すは「大木もあり雑草もある森のようなもの」と、
たとえている。
そしてパピ氏は、最後に言う。
「社会的使命についてかつての自負を失った」
「社会的使命に対する自負」
小売りサービス業にとっても「以って自戒とすべし」である。
さて昨日の日経新聞「企業欄」。
何度も書くが、朝日や読売は「経済欄」で十把一絡げ。
しかし日経はそれを細分化する。
「経済・企業総合・企業・振興中小企業・投資財務・マーケット総合・商品」
この細分化の品揃え力が、日経の「強み」。
メディアでいえば、情報力、取材力がなければできない。
だから、トータルとして日経の経済記事は強い。
その企業欄のインタビュー「大震災と企業 復興への道を聞く」に、
セブン&アイ・ホールディングス会長の鈴木敏文さんが登場。
「自粛気分断つ刺激策を 消費税増税は時期尚早」の見出し。
今回の震災対応。
「対策本部を立ち上げたのは地震発生から4分後」
早かった。
「重要なことは商品をきちんと店に供給すること。
メーカーと交渉する際も、
交渉窓口をグループで一元化する取り組みをさらに強化した」
「グループ全体の配分を臨機応変に対応したことで、
他社に比べて円滑に商品供給できた」
セブン&アイのグループ力を強調する。
だから東北・北関東を地盤とするヨークベニマルに、
重点的に配分した。
原発問題の消費動向への影響。
「東日本の需要が旺盛な一方、
被災していない西日本のほうが沈滞している」
セブン-イレブンは39の都道府県に出店している。
だから良くわかる。
「例えばゴルフ場はガラガラだが、
映画館は人であふれている」
不思議な現象にもみえるが、
低価格で短時間のレジャーが、
好まれている。
鈴木さんは力を込める。
「過度な自粛を戒め
消費を盛り上げなくてはいけない」
朝日新聞の『天声人語』が言った「救国の散財」。
「消費を活性化し国内総生産を支えなければ、
被災地への応援とならない」
そのために何をするか、どうするか。
「小売業として矢継ぎ早にイベントを打ち出すことで、
消費者心理を刺激していく」
これでもかとイベントを打ち出す。
ゴールデンウィークの私たちの基本姿勢につながる。
しかしそれは「自分の顧客心理の刺激」を、
意図していなければならない。
「セブン-イレブンでは、
3月26日からおにぎり100円セールを実施」
急きょ、東日本だけで展開。
「あえてこの時期にやったのは、
東日本ではモノが足りないのでは、
という心理に陥っていたからだ。
やれる手は数多くある」
被災地復興に対する企業の役割。
「小売りの立場からは、仮設住宅の入居者に対して、
商品をどう届けるかが非常に重要な問題だ」
この地域では宅配も視野に入ってくる。
小売業や流通業、サービス業は、
社会になくてはならない機能を、
いつも見ていなければいけない。
「対応策としてインターネットと実際の店舗を融合させること」
そうは言っても高齢者が多い。
だから、「誰でも簡単に操作できる端末などを、
仮設住宅に設置することを検討している」
最後にちょっと、ご自慢。
「他社に先行し
ネットスーパーを軌道に乗せたノウハウを生かす」
「店舗の商品構成も変わってくる」
これは重要な指摘。
「近くて便利な店を標榜してきたコンビニでは、
例えば(生活に必要な)ドンブリや鍋、釜を置くことを、
考えなくてはいけない」
コモディティ消費の見直しを意味するし、
業態やフォーマットの品揃えが、
変わってくることを宣言している。
例えば今、セブン-イレブンの品揃えが変われば、
スーパーマーケットも総合スーパーも、
ドラッグストアも、ファストフードも、
品揃えやメニューが変わってくる。
「もともとコンビニはそういう店だった」
この鈴木敏文さんの発言には、
「社会的使命に対する自負」があふれている。
メガバンクからATMの主役の座を奪った。
いまや日本人は、私も含めて、
銀行よりもコンビニのATMを利用する人や頻度が、
圧倒的に多い。
公共代金の支払いなども、
コンビニが金融専業業態を凌いでいる。
自らの「社会的使命」をどうとらえるか。
「自分は何屋か」
それは狭い範囲でもいい。
自分にしかできないこと。
自分が一番強みとすること。
それが社会的使命と直結している企業や店が、強い。
幸せでもある。
<結城義晴>