「東日本大震災のためにやむを得ずこうなった」
私はこんな言い訳は、死んでもしない。
「大震災が起こったから」
何の関係もないことに関して震災を理由に中止したりしたら、
それこそ震災から復旧・復興しようと努力している人々に申し訳ない。
しかし、それを言い訳にする輩が、結構多い。
もしも、「震災のために」という理由を持ち出す案件があったら、
必ず、疑って、問いただしてみるべきだ。
卑しい魂胆が見え隠れするに違いない。
さて小売企業50社の2011年3~5月期決算。
日経新聞の記事。
営業利益は全体で前年同期比22%増。
6連続四半期の増益。
セブン&アイ・ホールディングスは、
営業利益が30%増の682億円。
総合スーパーおよびスーパーマーケット事業の営業利益が、
144億円と3倍増。
イトーヨーカ堂も55億円で5倍弱。
震災の影響で、商品の供給不足が起こった。
それに消費者の買い溜めもあった。
特売やチラシも控えた。
そんな理由が重なって、
粗利益率が1.6ポイント改善。
イオンの営業利益も30%増、
283億円。
こちらも総合スーパーおよびスーパーマーケットの粗利益が改善し、
販管費が削減された。
コンビニは、
ローソンの営業利益が128億円で、15%増。
ファミリーマートは5%増の91億円。
震災特需に見舞われた。
弁当・惣菜など中食販売も好調。
ただし営業利益は向上したものの、
最終損益は特損計上の企業が多発。
特に被災した店舗や商品の損害が発生した上、
今期から資産除去債務会計が適用され、
将来の店舗撤退費用が前もって計上された。
セブン&アイは資産除去債務で225億円、
震災関連で181億円の特損を計上。
営業利益向上、最終利益落ち込み。
これが第1四半期の特徴だった。
さて、昨日はコーネル・ジャパン最終講義の日。
一昨日に引き続き、㈱国分の別館会議室。
廊下には、「国分三〇〇年のあゆみ」のパネルが飾られている。
この日は、業界を代表する経営トップから、
ビジョンや理念、哲学を学ぶ重要な講義。
最初の講師は、
新日本スーパーマーケット協会会長の横山清さん。
この協会が創立50周年を記念して、
コーネル・ジャパンを発足させ、主催している。
横山さんは、いわば産業内大学のオーナー。
さらに八ヶ岳連峰経営を標榜する㈱アークスの社長であり、
その旗艦企業ラルズの会長。
テーマは「人と人は縁、企業も円」
サブタイトルは「新たなる理念と目標に向かって」
今年、喜寿を迎える横山さん。
77歳になるとは思えないエネルギッシュさ。
このお年で、新たなる理念を目標を掲げ、
人々を引っ張る。
「熾せ、創発の力」
「創発」とは、
「個人が単独で存在するのではなく、
適切にコミュニケーションを行うことによって、
個々人の能力を組み合わせ、
創造的な成果を生み出すことが出来る」ということ。
これは社員、従業員のパワーの総量を引き上げ、
相乗効果によって、その総力を飛躍させるということ。
「八ヶ岳連峰経営」
従来の経営は「富士山型」だった。
つまり「縦の連携」。
それに対して、
特に高い山はないけれど、
調和がとれた連峰による経営。
4つのポイントがある。
①グループ全体の戦略・指針を決定する
②グループ各社の資本を統括し、
対外的な企業価値の向上を図る
③営業活動は子会社各社が担当する
④子会社の株式を100%所有する
これによって、ホールディング・カンパニーは力を得、
子会社は地域密着を実現させることができる。
そのうえ、「マルチ・フォーマット戦略」と、
「マルチ・バナー戦略」の併用が可能となる。
横山流経営は、
最先端すぎるくらいの理論に裏打ちされている。
独特の言い回しを編み出し、
新しいコンセプトのもとに、
まさに時代を切り拓く。
㈱ユニバースとの合併を発表したばかり。
「覇権主義でもなんでもない」
「自分だけでやれないこと」を人とともにやる。
しかし人とやるのも難しい。
「何とかなるか」といえば、そうはならない。
しかし「できないことは言わない」。
当意即妙の話しぶりだが、
横山さんらしい含蓄のある講義となった。
「変革は辺境から生まれる」し、
中小企業からとんでもない会社が出てくる。
近未来のスーパーマーケット産業への予見も、
語ってくれた。
次は川野幸夫さんの講義。
日本スーパーマーケット協会会長にして、
㈱ヤオコー会長。
テーマは「何屋になるか」
まず、川野さんがこの世界に入った動機。
実家は埼玉県小川町の八百屋。
そこから総合食品店となり、
この地区では一番の繁盛店だった。
しかし、家は継ぎたくなかった。
なぜか。
父母は毎日、ペコペコお辞儀ばかりしている。
そのうえ商品を仕入れて売る。
いったいどんな価値をつくっているのか。
「私自身に士農工商の意識があった」
川野さんは社会派の弁護士になって、
世に貢献したいと考えた。
東大法学部に入った昭和37年、
実家はセルフサービスの店から、
本格的なスーパーマーケットになった。
「何か手助けはできないか」と考えた。
そこでスーパーマーケットの理論を学び、
知識や情報をまとめて、母に伝えようと考えた。
時あたかも、林周二著『流通革命』がベストセラーになり、
渥美俊一は流通革命論を説き始めていた。
「革命とは主権が変わること」
それまでイニシアチブを持っていたのはメーカーで、
それを「小売業に取り戻せ」というのが流通革命の本質だった。
「主権を小売業が持たねば、
国民生活は豊かにならない」
「まさにその通り」だと思った。
そこで川野さんは「宗旨替えをした」
「今日私があるのはこの宗旨替えのお蔭」
今日のヤオコーがあるのも、川野幸夫の宗旨替えのおかげ。
「自分が生きる目的をしっかり持て」
川野さんはそう訴えた。
このお二人の話を、31名の三期生たちは真剣に聞いた。
首席講師の荒井伸也さんも、いつもどおり聴講。
ご存じ、オール日本スーパーマーケット協会会長。
31人の第3期生のためだけに、
スーパーマーケットの3協会のトップが勢ぞろい。
なんともぜいたくな空間、ぜいたくな時間。
講義の後は、1時間のQ&Aタイム。
まっさきに手をあげたのは㈱キョーエイの森雅之さん。
フード&ドラッグの取り組みについての質問。
川野さんも横山さんも、
数字をあげながら、
現状の取り組みと課題を語ってくださった。
次々に三期生から質問が飛んだ。
関西スーパーマーケットの岡秀夫さんは、
経営戦略についての率直な問いを投げかけた。
三期生の問いに、お二人とも、
丁寧に、真摯に答えてくださった。
最後に荒井さんも、Q&Aに参加。
こうして瞬く間に、午前の講義は終了。
10カ月に及ぶ講義の総まとめの授業だった。
最後に私は「経営者の条件」を語った。
産業内大学でも、セミナーでも、
提供できない経営者の条件。
それは「試練」である。
「試練は買ってでもせよ」
試練を潜り抜けねば、
本物の経営者にはなれない。
横山清、川野幸夫、荒井伸也。
それぞれに異なる試練を経てきた。
それぞれに異なる哲学や理念、
政策や戦略を打ち立ててきた。
そして成功してきた。
試練を経て成功した。
これだけが共通していた。
試練そのものは異なる。
哲学・理念、戦略・政策も異なる。
これが大事なことだ。
それを「ポジショニング」という。
これこそピーター・ドラッカーの「自らの強み」につながるものである。
(明日に続きます)
<結城義晴>