杉原輝雄さん逝去。
12月28日午前8時30分、
前立腺癌。
1937年生まれ、享年74。
「生涯現役」を貫いたプロゴルファー。
53年間の現役生活。通算63勝。
私も「生涯現役」を標榜している。
だから杉原輝雄の生きざまを、
見ていた。
162センチ、60キロ。
私よりもずっと小柄。
肘が曲がった五角形の先に長尺のドライバー。
それで正確なショット。
確かアメリカのツアーだったと思うが、
練習ラウンドで主催者がフェアウェイでプレーする杉原を見て、
「あの下手なアマチュアを追い出せ」と言った。
杉原は本番トーナメントでその主催者を驚かせる成績を上げた。
杉原は1998年4月、前立腺癌を公表。
「寿命を縮めることがあっても、
ゴルフ人生を第一に考えたい」
これが生涯現役の心構え。
手術を拒否し、抗がん剤による治療を続けながら、
試合に出続けた。
10年後の2008年、癌がリンパ節に転移。
それでも、試合に出場。
昨2010年、中日クラウンズに51回連続出場。
1983年末、「日本プロゴルフ選手会」初代会長。
「私心で行動せず、公平な人」(金井清一選手)
そんな人こそ、生涯現役の意味がある。
「生涯現役」が目標ではいけない。
「無私と利他」で続けるからこそ、
「生涯現役」に意義が生まれる。
私も、そんな「生涯現役」を貫きたい。
私はゴルファーとしての現役ではない。
小売流通・サービス業への発言・発信の「仕事の現役」である。
その35年目の師走が、
あと3日で終わろうとしている。
杉原輝雄の現役生活53年に、合掌。
さて日経新聞一面トップに、
「海外M&A過去最高」の記事。
アメリカの調査会社トムソン・ロイターのデータ。
国境を越えた海外直接投資案件を、
「クロスボーダーM&A」と呼ぶ。
「日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が
2011年に総額5兆円を超え、過去最高となった」
609件で684億ドル、前年比78%増。
アメリカ企業の海外買収は56%増の2051億ドル、
ヨーロッパ企業の域外企業買収は22%減の1601億ドル。
日本の78%増は、抜きんでている。
理由の第1は、「内需低迷への危機感」。
第2は、「円高」。
今年最大の案件は武田薬品工業の約1兆円。
スイス企業ナイコメッドを買収。
東京海上ホールディングスは、
米国の保険会社デルファイ・ファイナンシャル・グループを買収。
三菱商事は4200億円でチリの銅鉱山を傘下に入れ、
富士フイルムホールディングスは、
超音波診断装置大手の米ソノサイト買収。
日本企業の海外企業買収は1980年代の終わりごろ、
ブームを来たした。
ダイエーが、
ハワイのアラモアナショッピングセンターを買収したのが、1982年。
イオンが、
アメリカの衣料チェーン「タルボット」を傘下に入れたのは、1988年。
その後、2001年には、
北米企業の買収が全体の47%だったが、
今年は24%にとどまった。
ヨーロッパも北米同様に縮小。
今年もっとも多かったのがアジアで、
全体の43%。
中国、インド、シンガポール、ベトナムの順。
オセアニアや南米、中東の企業買収も増加傾向。
新興国との関わり合いが強くなる。
そして日本の産業構造も変わっていく。
日経新聞のコラム『大機小機』。
「『期待しない症候群』の効用」がテーマ。
「1年前の今ごろ」。
「日本にもほのかな明るさが
漂っていた」
そうだったか、と思う。
昨年の今ごろは、
「景気回復が少しずつ確かになり、
2011年は久々によい年になると期待した」
しかし、東日本大震災の津波と福島原発事故。
ヨーロッパ金融危機、その他もろもろ。
「淡い望みは砕かれた」
「今回の『期待外れ』はこたえた」
コラムニストは嘆く。
しかし「あえてその逆に目を向けてみる」。
なによりも「日本企業の打たれ強さ」。
「企業は震災前の生産水準を想定より早く回復した」
「アジアで売り上げを伸ばす小売業も増え、
内需型と呼べない内需企業も急増している」
この「内需型と呼べない内需企業」の考え方は重要だ。
「米国株は過度の悲観が修正されつつある」
「欧州も全体では苦戦が続くが、
ドイツの景気指標は予想に反して改善している」
「世界は一様に悪化しているのではなく、
日米独や中国は比較的しっかりしている」
最後にコラムニストが述懐する。
「誰もが『期待しない症候群』に陥り、
期待値が下がっていることは小さな福音かもしれない」
なぜ福音なのか。
「危機を回避できれば、来年後半には大方の予想を裏切って、
ひとまず景気回復を実感できる『うれしい誤算』の可能性があるから」
「期待しない症候群」は、
「うれしい誤算」の可能性を意味する。
ここでも中部銀次郎の言葉が思い出される。
「最悪を覚悟し、最善を尽くす」
中部は日本最高のアマチュアゴルファー。
1942年生まれだが、53歳で逝った。
5つ年上の杉原輝雄の「生涯現役」は、
中部と比べると、ずっと「うれしい誤算」だった。
<結城義晴>