今日は「仕事始め」「御用始め」。
初競りも今日から。
良い1年になるよう、
祈りたい。
朝日新聞の「オピニオン」欄に、
イタリアの政治哲学者アントニオ・ネグリ登場。
こういったインタビューでは、
まだまだ朝日が群を抜いている。
ネグリは左派知識人の分野に入れられる。
1933年生まれの78歳。
ベネチア在住で、
2000年『エンパイア<帝国>』、
2004年『マルチチュード』、
2009年『コモンウェルス』の三部作を発表。
まぎれもなく新しい時代を見据える哲学者。
「ニューヨークのウォール街占拠」などの現象を、
「マルチチュード」と位置付ける。
「マルチチュード」とは、
「多様な個の群れ」などと訳される。
それが「新しい民主主義のモデル」と見る。
「政府という組織には、
人々の『参加』の度合いが足りません」
その通り。
「いま、各国の政府が危機に陥っているのは、
もはや政府が社会を代表するものとは
言えなくなってしまったためです」
なるほど。
「多くの国で立法府と行政府がにらみ合ったまま
動けない状況が見られる」
「代議制や三権分立など、
18世紀に生まれた民主主義のしくみが
腐ってしまったように見えます。
機能できなくなったのです」
しかり。
ネグリは「病院の運営」をたとえにとって説明する。
「単に治療や研究の場としてだけでなく、
患者との人間関係、愛情、社会とのつながりなど、
もっと人間的な病院を組織するにはどうすればいいか。
生活全般から考えるのです」
これを政治に置き換えることで、
新しい民主主義のモデルが考えられる。
これを支えるのが「多様な個の群れ」、
「マルチチュード」。
その「マルチチュード」になるには?
「あなたの仕事が『知』を得ること」
商人で言えば、「知識商人」。
我田引水だろうか。
一方、日経新聞最終面の『私の履歴書』。
元イギリス首相のトニー・ブレアが、
元旦から書いている。
1953年5月6日、エジンバラ生まれの58歳。
私のひとつ下。
日本人なら巳年生まれ。
そのブレア、1972年にオックスフォード大学に進むと、
バンドで歌ったり、少しギターを弾いたりした。
「私のヒーローは
ローリング・ストーンズのミック・ジャガーだった」
ブレアの大学時代の4人の友人が、
彼に大きく影響を与えた。
二人はオーストラリア人で、
ピーター・トムソンとジェフ・ギャロップ。
一人はインド人のアンモル・ヴェラニ。
最後の一人は、アミン独裁体制下のウガンダ人オララ・オツンヌ。
純粋のイギリス人はいなかった。
そのトニー・ブレア。
元旦の第1回目に実に率直に述懐している。
「58歳になった今、感じるのは
自分が指導者だったときに
いかに無知だったか、
世界にはいかに多くの学ぶべきことがあり、
その変化のプロセスが
いかに魅力のつきないものかということだ。
時々、自分があまりに若くして
指導者になってしまったのではないかと思うほどだ」
ブレアはイギリス労働党党首で、
ある意味の左派。
ブレアがネグリの「マルチチュード」を、
首相就任時に知っていたら。
私はそんなことを考える。
さて日経新聞お得意の『産業景気予測特集』。
トップがずらりと並んで発言。
まずカルロス・ゴーン・日産社長。
「人口減少を転換させない限りは、
日本国内の自動車市場規模は縮小する。
現在は世界3位の市場だが、
5~10年後もその地位を続けられるかは分からない」
「需要を刺激するには、
公的な政策と各企業の戦略との組み合わせが必要になってくる」
官民のマッチングが必須との見解。
自動車製造業界には、
こういった意識が強い。
小売りサービス業界にも、
官の協力はもっともっと必要なのだけれど。
鈴木弘治・高島屋社長。
「東日本大震災の影響で広がった消費者心理の悪化や買い物の自粛ムードは
徐々に持ち直している」
しかし「景気は予断を許さない」し、
「消費環境も不透明感が漂っている」。
「楽観できる状況ではなく、
今後も一本調子の回復基調で上向くとは考えていない」。
妥当な見方だ。
井阪隆一セブン‐イレブン・ジャパン社長。
「たばこ値上げに伴う増収分を除いても、
既存店売上高は前年同月を上回って推移している。
総菜やデザート、調理パンなどが好調だ」
「働く女性の増加などを背景とした『食の外部化』が追い風になっている。
生活スタイルや需要の変化に応えていく」
原田泳幸・日本マクドナルドホールディングス会長兼社長。
「2012年の外食への消費マインドは良くなるだろう」
「外食市場は7.7兆円といわれている。
家庭の食事の10回に1回を外食に来てもらえれば6兆円は伸びる」
「朝食、昼食、夕食など時間帯別に消費者に
自信を持ってメニュー提案することが今年のキーワードだ」
「朝昼晩の時間帯別メニュー提案」が、
マクドナルドの戦略。
日経新聞にもうひとつ『流通業界特集』。
タイトルは「消費関連企業、問われる底力」
「底力」ってなんだろう。
「業態の壁を乗り越え、新たな市場を掘り起こす突破力に加え、
普及が進むスマートフォン(高機能携帯電話)や交流サイト(SNS)を活用し、
移り気な消費者をインターネット経由でつかまえる知力」と書かれているから、
これなんだろう。
事例として、第1に「家電量販店が家を売る」。
ヤマダ電機の中堅住宅メーカー「エス・バイ・エル」買収。
これはラインロビングの話。
第2は、「コンビニの移動販売車」。
「セブン‐イレブン・ジャパンは8台、
ファミリーマートは3台の独自設計の改造トラックを投入」。
「拠点となる店舗で商品を積み、
20~30キロ離れた地域まで販売車で出動。
通常店では採算を取れない過疎地での商売が可能になった」。
これは新しいチャネル開発。
「小売各社が業態や店舗の壁を越え、
新たな売り方でしのぎを削る」。
しかしヨークベニマルの「野越え山越え」の思想のごとく、
むかしは「引き売り」や「訪問販売」だった。
そこに現代化を果たして戻ることになる。
もちろんセブン‐イレブンは1万3000分の8でしかないが。
第3は、イオンの新フォーマット「コスメーム」。
大型ショッピングセンター・イオンレイクタウンの一角に、
化粧品専門店を開店させた。
百貨店の独占分野に切り込んだ取り組み。
接客はイオン従業員で、
「客の求めに応じ横断的に商品を提案」。
イオン岡田元也社長。
「成熟市場を活性化するには流通改革を行う必要がある」。
これもラインロビングだが、
心意気がいい。
第4は、百貨店の「小型店外部展開」。
三越伊勢丹ホールディングスは、
「ルミネの専門店ビルに高級化粧品約20ブランドをそろえた店を出店」。
3年間で20~30店舗の構想。
J・フロントリテイリングは、3年後をめどに、
「雑貨や衣料品売り場の自主企画部門を分社化」。
「3年で30店、3年後をめどに」
百貨店にはちょいとスピード感が欠けているか。
新しい時代の新しい試み。
それ自体は評価したいが、
スピード感とイノベーションは、
必須の要素。
「マルチチュード」の「多様な個の群れ」に対応するには、
「生活全般からの考察」と「ナレッジ」が求められるが、
それをビジネスにするには、
スピードとイノベーションがいる。
<結城義晴>