今日はホワイトデーだった。
百貨店などの売場は盛り上げようと必死だったが、
みなさんの店ではどうだっただろうか。
さて朝日新聞の『CM天気図』。
雑誌「広告批評」主宰者の天野祐吉さんのコラム。
天野さんはマドラ出版の社主でもある。
アメリカの歴史学者ジョン・ダワーさんの言葉を引く。
「大きな災害や事故が起きると、
すべて新しく創造的な方法で
考え直すことのできるスペースがうまれる。
いま日本はまさにその時だが、
もたもたしていると、
そのスペースはまた閉じてしまう」
ダワーさんはマサチューセッツ工科大学教授で、
奥さんが日本人という親日家。
東日本大震災後のこのジョン・ダワーさんの言葉、
天野さんの心に突き刺さる。
そして天野さんは、
広告やCMが想像力を発揮していないと残念がる。
「世の中を動かしていく気のない
ノーテンキなCMをなんとなく見過ごしているうちに、
ダワーさんの言う『スペース』は、
日に日に小さくなっていく」
私は思う。
小売業・サービス業は、
否応なくこのスペースを埋めている。
そこに新しい創造も生まれている。
広告よりも地に足がついているからだと思う。
しかしもっともっと想像力を働かせて、
イノベーションを起こすことができる。
小売流通・サービス業における「スペース」は、
まだまだ閉じてはいない。
さて昨日は、「ドール経営者セミナー」。
㈱ドール主催の講演会。
そして一般社団法人ファイブ・ア・デイ協会が協賛。
会場は、東京・水天宮ロイヤルパークホテル。
スーパーマーケットや青果卸売企業のトップマネジメントが参集。
第1部講演会では、
カスミ会長の小濵裕正さんが開会の辞。
小濵さんはファイブ・ア・デイ協会会長でもある。
もちろん商人舎発足の会発起人のおひとり。
講演者紹介は、
ファイブ・ア・デイ協会理事長の池田健太郎さん。
池田さんにはCDオーディオセミナーにご出演していただいて、
その見識の高さに触れた。
講演は4部構成で、
講演1は、㈱インテージ会長の田下憲雄さん。
テーマは「小売業マーケティングの課題」
講演2は同じくインテージ社長の宮首賢治さん。
田下さんの講義に続いて、
「データ活用事例」を紹介。
講義3が結城義晴。
「知識商人(Knowledge Merchant)の経営作法」
私は自分の講演の40分ほど前に到着し、
準備をした。
そして、80分の講演。
マーチャンダイジングに関連する潮流や消費の実態、
そしてナレッジ・マネジメントの在り方など、
持論を展開。
ピタリ、80分で収めた。
小濵さんを始め、
周知のトップの皆さんが聞いてくださっていたので、
気合も入ったし、安心して語ることができた。
自分でも、上出来の講演だったと思う。
私はいつも、
「この講演・講義が人生最後のものだ」と考えて、臨む。
今回も、変わらぬ気構えだった。
講義4は、C・W・ニコルさん。
ご存知、作家、評論家、コメンテーター、社会運動家。
いただいた名刺には、こうある。
「一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団理事長」
ニコルさんは1940年、英国ウェールズ生まれ。
1962年に空手の修行のため初来日。
1980年、長野県に居を定め、
執筆、環境保護、探検活動を続ける。
長野県上水内郡信濃町に荒廃した森があった。
ニコルさんは荒れ果てた里山を購入し、
26年かけて、人の手によって再生。
『アファンの森』と名付けた。
ニコルさんのテーマは、
「心に木を植える~人と自然の共生~」
アファンの森の映像や音響を盛り込んで、
素晴らしい40分の講演だった。
ニコルさんの話をダイジェストしよう。
最近の子供たちは、自然の中で育っていないから、
落ち着きがない、我慢できない、集中できない。
こんな症状を、
「ネイチャー・ディフィシェンシー・シンドローム」と呼ぶ。
本来、子供は自然に触れると、
五感を使って探検をする。
しかし今の子供はバーチャルの世界の中で満足している。
男は18歳になっても 腕立て伏せや懸垂ができない。
斧やマッチが使えない。本当の話だ。
30年前、黒姫に住み着き、山を知りたくなった。
猟友会に参加して山歩きをすると、
原生林が切られていることがわかる。
山の斜面を丸坊主にすると、鉄砲水が起こる。
雪解け水で地滑りを起こす。
食べ物が減り、熊が出没して、畑を荒らす。
森の大切さ、森の知恵を猟師たちから学んだ。
一方で、日本の自然が破壊されている。
山の奥のゴミ捨て場は不法投棄、産業・医療廃棄物がひどい。
こうした日本の現状は、悲しい。
1966年、自分の生まれたウェールズで、
石炭採掘からでたボタ(捨石)を捨てた山が地滑りして、
中学校を襲い、121人の子供が死んだ。
政府は、ボタばかりの森を再生し、
5%の森林面積を60%にまで広げた。
カワウソやサケが戻り、豊かな自然がよみがえった。
いまは、故郷を誇りに思っている。
日本でも同じだ。
「アファンの森」づくりをして26年。
現在9万5000坪の森には、
29種の絶滅危惧をはじめとする多くの動物、
196種類の植物、137種の山菜がある。
生物多様性のある自然は、癒しの場所でもある。
ドイツの森林面積は日本とほぼ一緒だが、
ドイツは100万人の森林従事者がいる。
それに対し、日本は5万人しかおらず、しかも高齢者ばかり。
人間が荒らした自然は、人間が手入れしなければならない。
全国的な活動をすすめるために『アファンの森財団』を創設した。
この財団では、虐待を受けた子供たちを、
年に5回、森に招き、自然に触れさせている。
トラウマのある子供たちが森に入ると笑顔になる。
東日本大震災の被災した東松島の人たちも招いた。
それが縁で、今、東松島の藪を切り開き、
高台に木造校舎を作ろうという復興計画がある。
木造であっても設備はハイテクで、自然と共生する学校。
出来あがったら、国内、カナダ、インドなど、
海外の学校とネットワークを作っていく。
そんな構想がある。
私は残る人生をこの仕事にかける決意だ。
傷口を癒し、心をたくましくし、健康的にする。
自然の力は強い。
私は、ニコルさんの話に感動した。
そして大きなヒントをいただいた。
「小売業は森である」
そう、言い続けている。
本にも書いた。
その森は、人の手によって、
再生された生きた森でなくてはならない。
荒廃した森にしてはいけない。
講演が終わると、主催者あいさつ。
㈱ドール取締役副社長の渡辺陽介さん。
その後第2部は懇親会。
ニコルさんと話した。
ニコルさんはウェールズに、
いいスーパーマーケットがあるという。
木造の店、木製のカートまである。
私は早速、訪れることを約束した。
もちろん、日本にも木造の店舗があることを、
ニコルさんに言った。
例えばダイナムの店は木造だ。
その店は東日本大震災にも負けずに残った。
ニコルさんも答えた。
「木造は強いのです」
そのニコルさんと小濵さん。
小濵さんと私。
和やかな交流会だった。
商業経営問題研究会のセイミヤ社長・加藤勝正さん。
キョーエイ社長の埴渕一夫さん。
写真をとることはできなかったが、
スーパーマーケットの社長職にある人だけでも、
名前を列挙させていただく。
マルト社長の安島浩さん、
丸久社長の田中康男さん、
与野フードセンター社長の井原實さん、
セルバ社長の桑原孝正さん、
コーネル・ジャパン3期生のタカヤナギ社長の高柳智史さん、
大阪屋ショップ社長の平村秀樹さん、
紅屋商事社長の秦勝重さん、
モリー社長の冬頭守雄さん、
それにエレナ社長の中村國昭さん。
みなさん、ご清聴、心から感謝します。
ニコルさんの活動は、
震災で生まれたスペースを、
創造的に作り直している。
私たちも、小売流通の世界で、
それに負けてはいられない。
<結城義晴>