木下雄治さんの「お別れの会」があった。
昨日の12時30分から、
東京・渋谷のセルリアンタワー東急ホテル・ボールルーム。
元の東京急行電鉄本社跡にできたホテル。
木下さんは㈱東急ストア社長にして、
東京急行電鉄㈱専務取締役。
東急百貨店の取締役や、
㈱八社会の社長を兼務。
一言でいえば、電鉄系小売業のトップ・リーダーで、
しかもその革新の旗手だった。
多くの人が献花に訪れた。
シンプルな祭壇。
私が入場した時には、
ビートルズの「レット・イット・ビー」が、
弦楽四重奏で流れていた。
それから音楽は、いつの間にか、
「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」、
「ノルウェイの森」へと変わった。
木下さんが好きだったのだろうと想像しながら、
献花し、合掌。
次の間には、軽食が用意され、
木下さんをしのぶ写真が展示されていた。
在りし日のビデオやパネルも上映され、掲示された。
最後に木下さんの趣味。
「愛用の包丁と料理の数々」
食品スーパーマーケット・東急ストアの社長として、
この趣味は絶好だった。
木下さんは昭和26年4月23日、横浜生まれ。
私よりも一つ上。
名門・翠嵐高校から青山学院大学へ。
私は横浜の私立聖光学院中学・高校に行ったが、
その道を歩まなければ、おそらく、
松本中学から翠嵐高校を選んだはず。
両校のそばの三ツ沢に家があったからだ。
だからもしかしたら、木下さんを、
「先輩」と呼んでいたかもしれない。
そんな縁がある。
木下さんは大学卒業と同時に東急電鉄入社。
そして東急一筋。
極めて順調に階段を登り、
2009年3月、東急ストア社長、
昨2011年、東急電鉄専務に就任。
今年の1月20日、ホテルニューオータニで、
パネルディスカッションが開催された。
日本チェーンストア協会総会後の企画。
私はコーディネーター兼パネラーを務めたが、
この場で、木下さんとご一緒する予定だった。
ライフコーポレーション会長でチェーン協会長の清水信次さん、
カスミ会長の小濵裕正さんがパネラーだったが、
木下さんの突然の欠席に、
ちょっと驚きつつ、まことに残念に思った。
木下さんはこの時、体調を崩して入院し、
そのまま退院することなく、3月17日、永眠。
東急電鉄にとっても、
日本の小売産業にとっても、
本当に惜しい木下さんの早世だった。
こころよりご冥福を祈りつつ、
ふたたび合掌。
さて、昨日は大きなニュース。
記者会見が開かれ、新聞各紙が取り上げた。
「アークスとジョイスの統合」
日経新聞の記事には、
「北海道・東北地盤の食品スーパー2位、アークスは16日、
岩手県地盤のジョイスを9月1日付で買収し
完全子会社化すると発表」
アークスが株式交換の方式で、
ジョイスを完全子会社化する。
ジョイス株1株に対し、
アークス株0.293株を割り当てる。
2012年2月期のアークスの連結売上高は3481億円。
北海道・東北で253店舗の食品スーパーマーケットを展開。
ジョイスは年商373億円で、
岩手県を中心に北東北3県で36店舗を運営。
この統合で、年間売上高3855億円。
2013年2月期の見通しは4600億円。
スーパーマーケット業界第1位のライフコーポレーションは、
今年度5250億円だから、
業界第2位の規模となる。
アークスは八ヶ岳連峰経営を標榜するホールディングカンパニーで、
従ってジョイスが、そのグループに参加するという捉え方が正しいところ。
10年前、㈱ラルズと㈱福原の道内の2社が統合して、アークスが発足。
店舗運営、仕入れ、物流、情報システムなどの面で、
統合のメリットを活かして、ローコスト経営を追求してきた。
参画企業の自主性を重んじる。
アークス社長・横山清さんの基本的な考え方。
その趣旨に賛同して、
北海道内のスーパーマーケット、ドラッグストアが、
アークス傘下に入ってきた。
昨年10月には、青森に本部を置くユニバースが、
アークスに参加。
そして今回、ジョイスが参画。
いずれもシジシー・ジャパンの有力加盟企業。
CGCグループの北海道・東北のグループが統合して、
イオンに対抗するというのが今回の構図。
アークスの発表数値だが、
岩手県内の食品スーパーマーケットの市場シェアは、
ジョイスが15.6%で1位、ユニバースが11.9%で3位、
両社を合わせた新アークスグループは、27.5%のシェアを占め、
完全なる「クリティカル・マス」達成となる。
クリティカル・マスは、
横山さんの持論。
私の持論でもある。
イオンやセブン&アイ・ホールディングスは5兆円を超えるが、
アークスの総年商は今のところ両社の10分の1以下。
しかしそれぞれの地域でのシェアは、
17%のクリティカル・マスを超える。
「これで十分に闘える」。
それが横山戦略。
当然ながら、今後も、
東日本の食品スーパーマーケットと統合を進めながら、
「縮小拡大」を図る。
「縮小拡大」とはこれも横山造語で、
日本の消費市場が少子高齢化で「縮小」する中、
グループ年商規模が「拡大」すれば、
実際の数値以上の力を有することができる、というもの。
昨日、アークス横山清、ジョイス小苅米秀樹両社長が、
揃って東京・大手町で記者会見。
新体制では横山さんがアークス社長、
小苅米さんはアークス取締役執行役員に就任予定。
横山さんの弁。
「地域のシェアを握ることで収益を確保し、
地域に貢献でき、競争にも勝てる」
小苅米さんのコメント。
「統合後も、ジョイスらしいサービスを維持できる」
店のブランドのことを「バナー」というが、
そのバナーは、これまで通り。
「合併や買収、吸収」といったニュアンスよりも、
「統合、合従連衡、大同団結」と呼ぶのがふさわしい。
昨年11月、イオンは、
中四国のマルナカ・山陽マルナカを子会社化した。
平和堂は滋賀県の丸善(8店舗)を傘下に入れた。
バローも昨年、岐阜県の年商50億円ファミリースーパーマルキを買収。
昨年末から、
私が予測している「2012 5つのトレンド」の第2が、
このM&A。
ちなみにジョイスの小苅米さんは、
コーネル・ジャパン「伝説の第1期生」。
第1期生には、ラルズの猫宮一久さん(常務取締役)
福原の福原郁治さん(常務取締役)がいて、
三人は同期生。
コーネルの授業でも私は、
「クリティカル・マス」と「範囲の経済」を講義した。
日本の小売流通業は、
私の考えるように動いてはいるが、
地方のスーパーマーケットが減っていくことには、
いくばくかの寂しさを感じる。
今朝の朝日新聞のコラム『経済気象台』。
タイトルは「雨が降れば傘をさせ」
大阪・船場の古くからの格言。
「言わんとするところは、
『うろうろせずにやるべきところをやれ』」と、
コラムニストは書くが、
それよりも今回のジョイス小苅米さんの決断は、
まさに船場の格言通りだったと思う。
「雨が降れば傘をさせ」
それがアークスの傘だったということ。
最後に一言。
ジョイスの社員・従業員の人たちへ。
あなたたちには「商人の本籍地と現住所」がある。
ジョイスという本籍地があり、
現住所はアークス内ジョイスになった。
本籍地の良さ、ありがたさを忘れずに、
現住所の生活に、早く慣れることだ。
健闘を祈る。
Good Luck! Jois People!
<結城義晴>