後世に残したい童謡ランキング1位は、
「赤とんぼ」だそうだ。
毎日新聞の一面コラム『余禄』が取り上げた。
三木露風作詞、山田耕筰作曲。
詞は1921年(大正10年)、
曲は1927年(昭和2年)につくられた。
夕焼小焼の赤とんぼ
負われて見たのはいつの日か
山の畑の桑の実を
小籠に摘んだはまぼろしか
十五で姐やは嫁に行き
お里のたよりも絶えはてた
夕焼小焼の赤とんぼ
とまっているよ竿の先
一番の歌詞の「負われて」を、
「追われて」と勘違いしている人が意外に多いとか。
二番の「桑の実」も今や、
それを知る若い人は少ない。
三番の歌詞の「姐や」という仕事はもう見当たらないし、
十五で嫁に行く少女もほとんどいない。
とすると、四番の歌詞だけが、
今でも通用するのか。
「夕焼け小焼けの赤とんぼ
とまっているよ竿の先」
しかし「竿」も日常的には身の回りにないし、
そして何よりも「赤とんぼ」が、都会からは消えた。
ノスルジー nostalgie。郷愁。
私たちのこの感情が、
赤とんぼの歌を残したいと訴える。
さて、流通に関して、
いろいろなメディアが取り上げたが、
日経新聞の一面記事が一番目立った。
「ヨーカ堂、正社員半減 パートを9割に」
総合スーパーを主力に展開するイトーヨーカ堂。
㈱セブン&アイ・ホールディングスは、
日本の小売業第2位。
2011年度年商4兆7863億円、前年対比でマイナス6.5%。
経常利益は2932億円で、こちらは前年比20.7%増。
そのなかでイトーヨーカ堂は、
1兆3611億円、 前年比マイナス0.9%。
経常利益は135億円。
こちらは前年がひどく悪かったので、
162.9%増。
このグループの稼ぎ頭は、
セブン‐イレブン・ジャパン。
チェーン全体の売上高は3兆2805億円で、
伸び率11.3%。
経常利益は1898億円 で、
伸び率7.7%。
単体企業として堂々の日本一。
もう経常利益はコンビニが、
総合スーパーの14倍。
一方、イオンリテールの年商は、
2兆1999億円 で、前年比プラス28.5%。
こちらの経常利益は432億円、
前年比40.3%プラス。
イオンリテールの利益は、
イトーヨーカ堂の3.2倍。
ちなみに同グループのスーパーマーケットは、
ヨークベニマルの年商3486億円 (プラス1.5%)
ヨークマート1184億円(7.2%)で、
両者を合わせると4670億円。
経常利益は、ヨークベニマル163億円(58.7%増)、
ヨークマート40億円(27.8%増)で、
ヨークベニマルだけでもイトーヨーカ堂の経常利益を上回る。
スーパーマーケット2社合計の203億円は、
ライフコーポレーションやアークスをしのいで日本一。
イトーヨーカ堂は、
かつて経常利益1000億円を超えていて、
それは2位から6位までの5社合計を上回っていた。
ダイエー、西友、ジャスコ、マイカル、ユニーの経常利益を、
総合スーパーのイトーヨーカ堂1社がしのいで、
利益では「1強5弱」といわれた。
それが、現在は、
セブン-イレブンはもとより、
同業態のイオンリテールにも、
同グループのヨークベニマルにも及ばない。
そこで、根本的な収益構造転換対策を講じる。
現在でもパートタイマー中心のオペレーションだが、
そのパート比率を90%に引き上げる。
現時点より13ポイント高める。
パート社員は6800人増やされ、
正社員8600人は半減される。
その結果、2015年度段階の総従業員数は、
現在より約2500人増えて、
4万0500人となる。
肝心の人件費は100億円削減され、
現在から7%減の1330億円になる。
目途は2015年度だから、
3年半の猶予。
イオンをはじめ主要小売企業のパート比率はほぼ80%前後。
イトーヨーカ堂の90%はディスカウンターの水準と同等となる。
もちろん優秀なパートタイマーが採用されねばならないし、
その技術レベルも上がっていかねばならない。
従って、パートタイマーの給与制度は改められる。
例えば生鮮加工技能を持つ人には、
現在の2倍、3倍の給与水準が用意される。
さらにトップマネジメントやミドルマネジメントへの、
登用の仕組みも導入される。
こう見ると、イトーヨーカ堂のパートタイマー比率引き上げは、
アメリカ流の体系への転換と受け止めることもできよう。
アメリカでは基本的に、
マネジャーが月給制 (サラリー)である。
あとは時給制のフルタイマーとパートタイマーに分けられる。
ウォルマートの精肉部門長は、
時給制のフルタイマーで、
時給22ドル。
そんな方向を、イトーヨーカ堂は、
志向せざるを得ないと思う。
ただ単に衰退業態における人件費の削減であったら、
これは失敗するに違いない 。
新しいマネジメント体系づくりを志向するならば、
イトーヨーカ堂は他のモデルとなるシステムをつくるかもしれない。
同社正社員はグループ内の他社へ転籍される。
採用も抑制される。
希望退職は実施しない。
最も多い転籍先は、セブンーイレブン。
仕事はスーパーバイザーまたはフランチャイズ加盟店の店長。
これも厳しい仕事だが、
希望退職制度は採用しないという。
最後に、私見。
総合スーパーは国際的にはハイパーマーケットと呼ばれる。
アメリカではウォルマートのスーパーセンター、
ターゲットのスーパーターゲット、
フランスではカルフールのハイーパーマーケット、
イギリスではテスコ・エクストラやマークス&スペンサー。
イトーヨーカ堂ほどの企業が、
この業態の日本市場における社会的機能を、
再生させられないはずはない。
その一つの側面が、
パートタイマーの改革なのだと思う。
イトーヨーカ堂を、
「赤とんぼ」のノスタルジーには、
してはならない。
<結城義晴>