元世界銀行副総裁の西水美恵子さん。
ある人にメールで書いたひと言。
「動きなはれ」
『ほぼ日刊イトイ新聞』の巻頭言で、
糸井重里さんがつぶやく。
標準語で言う命令形の「動け」では強すぎる。
だから、関西弁になる。
「このひと言の、
なんとも軽快で深みのあることよ」
糸井さんは言う。
「状況とか、誰に宛ててとか問わずに、
『動きなはれ』だけ、
耳や目から受けとめてみてください」
糸井さん自身、
「じぶんに『動きなはれ』だけ
言ってあげます」
「大きな意味にとらえて
世界に向けて羽ばたいたっていい。
からだがなまってるな、
と散歩に出かけてもいい。
とにもかくにも、世も、人も、
動いているものだ‥‥。
じっとして考えこんでいても、
見えてくるものは少ない」
その通り。
「動きなはれ」
さて昨日、帰国の途中、
シカゴ・オヘア空港で、
4時間ほどウェイティング・タイムがあった。
いつものことだが、
書籍と雑誌のコーナーに寄った。
ちょうど『フォーブス400』が発行されていた。
『The Forbes 400』
サブタイトルは、
The Richest People In America
いわば「アメリカの長者番付」
それから『Harvard Business Review』の
「Big Data」
これはレジ脇にも陳列されていた。
そして『Rolling Stone』誌の「ジョン・レノン」特集号。
4時間もあったので、
アメリカン航空のアドミラルズ・クラブへ。
コーヒーをもって、ソファを確保。
そして『フォーブス400』と「ジョン・レノン」の、
ページを開く。
ジョン・レノンは、懐かしい写真のオンパレード。
一方、『フォーブス』のアメリカ・リッチェストは、今年も、
マイクロソフトのビル・ゲイツ(56歳)。
自己資産660億ドル。
第2位は、投資家のウォーレン・バフェット(82歳)。
460億ドル。
第3位は、オラクルのラリー・エリソン(68歳)。
マイクロソフト、IBMに次ぐ第3位のIT企業の創設者でCEO。
自己資産410億ドル。
第4位と第5位はコーク・インダストリ-の兄弟二人。
そして第6位から第9位までに、
ウォルトン・ファミリーが並ぶ。
6位はクリスティ・ウォルトン&ファミリー、
7位、ジム・ウォルトン、
8位、アリス・ウォルトン、
そして第9位に、ロブソン・ウォルトン。
全員がサム・ウォルトンの相続人。
息子の嫁、息子、娘。
ウォルマートの凄さが、
ここに出ている。
そしてこの4人の自己資産を足し算すると、
1071億ドルとなって、
ビル・ゲイツを抜いてしまう。
小売業では、この後の50位に、
チャールズ・バットが出てくる。
テキサスのスーパーマーケットHEBのCEO。
自己資産69億ドル。
インディペンデント・スーパーマーケットのトップが、
小売業ではウォルトン・ファミリーに次ぐ。
ちなみに42位にピエール・オミダイア(45歳)が入る。
オンライン・リテールeBayの創業者で会長。
フランス生まれのイラン人。
82億ドル。
私はこういったアメリカンドリームを、
おおいに讃えたい。
サム・ウォルトンは、
亡くなる直前の1992年に、
大統領自由勲章を授けられた。
ジョージ・ブッシュ大統領から、
「まさにアメリカン・ドリーム」と賛辞を贈られたが、
それを目指す若い経営者が、
次々に登場してくるのが、
アメリカ社会だ。
小売業、サービス業に従事する若い人たちが、
例えばサム・ウォルトンを目指すのは、
社会に貢献することとイコールだと考えている。
そんな人たちがもっともっと、出てきていい。
さて、世知辛い話だが、
日経新聞の「小売り上期決算」の記事。
タイトルは、「快走コンビニに陰り」
それから「消費の変調にじむ」と続く。
「スーパー、値下げも効果薄く」
長いけれどこれがタイトル。
タイトルで全部、言い切る。
しかし、個別の数値こそ、
真実を表わしている。
まず3~8月期のコンビニ。
セブン-イレブン・ジャパンは1000億円で、
プラス3%の営業利益過去最高。
しかし、第2四半期の6~8月は、
「既存店売上高が前年同期比ほぼ横ばい」。
ローソンもプラス5%の342億円で、
経常利益過去最高。
ただ6月以降の既存店売上高は、
前年同月比マイナス。
新浪剛史社長のコメント。
「消費増税などが消費者心理に影響を与えており、
足元の売り上げは厳しい」。
今期末決算までの既存店売上高の予想を、
「前期比1.0%増から0.5%増に下方修正」。
百貨店の連結経常利益は、
Jフロントリテイリングが43%増の110億円。
髙島屋は9%アップの117億円。
ただし直近の営業トレンドに関して、
高島屋鈴木弘治社長のコメント。
「客単価は横ばいだが購入頻度が減っている」
セブン&アイ・ホールディングスは、
1471億円のマイナス2%。
この中にセブン-イレブンの1000億円が包含されているから、
他の業態で471億円。
特にイトーヨーカ堂の営業利益は9割減。
セブン&アイ村田紀敏社長のコメントが注目される。
「期初は販促イベントを打つと、
反応が良かったのだが……」
記事は「消費が弱含んできた」と総括する。
このセブン&アイの営業トレンドがおそらく、
日本全体の小売サービス業の潮流とみてよいだろう。
あなたの会社は、これに比べていかが?
ユニーは経常利益201億円の、
マイナス11%。
ダイエーは、経常赤字20億円。
ダイエー桑原道夫社長、
「価格競争が激しくなっている」
マルエツは、マイナス62%の14億円。
既存店売上高は5%減。
客単価下落幅は第1四半期0.9%減、
第2四半期2.1%減。
マルエツは6月から、
売れ筋商品1400品目を値下げ。
しかし効果は薄く、
利益を食っただけだった。
一方、しまむらと良品計画は好調。
しまむらは経常利益225億円で、
プラス13%。
良品計画は97億円で33%増。
前者は「吸水速乾の機能性肌着など夏物衣料の販売が好調」。
後者は「素材にこだわった衣料品が人気」。
総括すると、
単なる特売や値引き、普通の販促は、
むしろ利益に対して、
明らかなマイナス効果しかない。
消費はシビアになっていて、
だからストレートな反応が見られる。
仕組みで創り出す商品や、
仕組みで生み出すアソートメント、
仕組みで継続する低価格。
それは取引先と一体となった活動からしか生まれない。
いかにメーカー、問屋と、
Win-Winの関係を、
構築できるかにかかっている。
その意味で、
西水さんの「動きなはれ」は、
ベーシックな取引関係づくりへと、
「動け」ということになる。
<結城義晴>