2013年2月最後の日。
朝6時ごろに羽田空港到着。
タイはバンコクから6時間で帰国。
現地時間夜の10時半の搭乗で、
6時間弱のフライト、
そして時差2時間。
日本について、まるまる1日が活用できる。
しかしフライト中にずっと熟睡できるわけではない。
だから活用できるけれど、辛い。
帰国し、帰宅して、朝風呂につかり、
すぐに東京・芝へ。
東京タワーをみると、
日本に帰ってきたんだなあ、
という感慨がわいてくる。
これ以外に、この感慨を味わわせてくれるのは、
富士の山だろうか。
芝・大門、カスタマー・コミュニケーションズ㈱。
定例の取締役会。
米倉裕之社長以下、
社員・従業員、みな頑張って、
会社がどんどんよくなっている。
役員会が終ると、
すぐに上野駅から常磐線スーパーひたち23号に乗って、
福島県の湯本駅へ。
㈱マルト創業50周年記念式典に参加。
その模様は明日のこのブログで。
さて、糸井重里の『ほぼ日刊イトイ新聞』。
巻頭言は「今日のダーリン」。
糸井重里が、「業界」について書いている。
「なんとなくなじめない話というのがあります。
それは、じぶんのいる『業界』を憂えることです」
「仮にね、お笑いの業界の人である芸人さんが、
『この業界は、いまこんなふうに苦しい』
というようなことを熱心に話し合ってるようなこと」
「映画業界であろうが、農業の世界であろうが、
家電業界であろうが、出版業界であろうが、
広告業界であろうが、レストラン業界であろうが、
どこも、『業界としての行き詰まりや欠点』があります」
糸井さんはズバリ言う。
「『業界全体』について憂えたり考え込んだりするのは、
まず最初にやることじゃないだろう、という気がします」
賛成。
「業界全体に逆風が吹いているときでも、
じぶんは、どういう仕事をして前に進むか、
つまり稼いでいくかを考えることが
第一だと思うのです」
業界のことよりも、
自分の店、自分の企業、
自分の仕事を語りたい。
「『最近はレストラン業界は、どうなんだろう』
と真剣に語り合ってるレストランよりも、
『なんとかおいしい料理を出して、よろこんでもらおう』
と、一所懸命に腕をふるっている店のほうが、
お客さんたちも通いますよね」
「なんか、ほんとはするべきことから逃げて、
みんなが『業界話』ばかりしてる気がするんだよなぁ」
糸井さんは『ほぼ日』というインターネット業界にいて、
日夜、そのイノベーションを考えている。
だから「業界話」のつまらなさを理解することができる。
私もそう思う。
さて、タイの小売業レポート。
近代化された主な小売業企業は、
セブン-イレブンを展開するCPオール、
テスコロータスを営むエカチェイ・ディストリビューション・システム、
ハイパーマーケットを展開するビッグCスーパーセンター、
百貨店を主体にしたセントラル・バッタナー、
そして同じく百貨店のザ・モール・グループ。
以上がベスト5。
2009年の数値でちょっと古いが、
CPが1370億バーツ、
テスコロータスが1123億バーツ、
ビッグCが703億バーツ、
セントラルが574億バーツ、
ザ・モールが401億バーツ。
1バーツは現在、約3.1円だから、
それぞれ3倍してもらえば、日本円での規模がわかる。
コンビニのセブン-イレブンはガリバー状態だが、
他の業態はそれぞれに、ほぼ2社ずつが、
マーケットを分け合っている。
つまり「複占」の状態。
私たちが最初に訪れたのは、
バンコク中心部のサイアム・スクエア。
まず、
商売の神様の前で、
合掌。
この地区の中核は、
セントラル・ワールドプラザ。
セントラル・バッタナー・グループが、
2006年にオープンさせた巨大複合商業施設の核店舗。
セントラル・ワールドプラザを真ん中に、
ZENと伊勢丹の3つの百貨店で構成される。
さらにホテル、ワールドトレードセンターが隣接する。
総敷地面積は100万㎡と東南アジア最大級。
セントラルワールドには、
海外の人気ブランドショップから、
専門店チェーン、飲食チェーンなどが入っていて、
これは国際級。
つまり上海や香港、シンガポール、
さらに東京やニューヨーク、ロンドンにも劣らない商業集積。
国際級のショッピングセンターは、
国際空港と同じで、すぐに世界水準となる。
入口をはいると、コンコースには、
大きなシャンデリア。
中間層の上の層から、アッパーな客層を狙う。
イギリスの「マークス&スペンサー」が入っている。
アメリカのファストファッション「フォーエバー21」。
そしてジャパン・テクノロジー「ユニクロ」。
この店がバンコク1号店。
ショッピングセンター中央には、
大きな吹き抜けが設けられ、
回廊式のエスカレーターで上階まで運ぶ。
その吹き抜けにプロモーションの垂れ幕。
セントラル・グループは、
主に3つのバナー名で百貨店を運営する。
第1がセントラル、第2がロビンソン、
そして第3が高級百貨店のZEN。
そしてセントラルグループは、
スーパーマーケットもチェーン展開している。
Central Food HallとTopsの2バナー。
このセントラル百貨店の7階に、
「セントラル・フード・ホール」がある。
まぎれもない高質スーパーマーケット。
日本でいえば、
伊勢丹百貨店の中のクイーンズ伊勢丹、
そごう西武のシェルガーデン、
大丸のピーコックストア、
そして阪急百貨店の阪食、
そんな位置づけ。
入口のプロモーションスペースには、
ドライフルーツや果物味のチョコなどがカラフルに並ぶ。
その奥がフルーツ&ベジタブルコーナー。
季節の果物プレゼンテーションが見事。
オーガニック野菜も扱う。
バルク販売のナッツ類。
対面式のハム・ソーセージ売場。
そして、これも対面方式の精肉売場。
インストア・ベーカリー売場。
ショーケース販売のチーズ売場。
食品を宝石のように販売する。
右サイドには、冷凍食品、
グロサリー・HBCが配置されている。
清潔感が漂うデリカテッセン売場。
対面販売を強調する高質スーパーマーケットではあるが、
しかしこれはよくできたスーパーマーケットそのもの。
しかしこの店の特徴は、
フードサービスコーナーが売場に併設されていること。
お客は、その場で食べてもいいし、
持ち帰ってもいい。
ニューヨークのイータリーとまではいかないが、
かなり斬新な試みを展開。
パンやデザート・飲料を販売する「health brown」ショップ。
サンドイッチやパスタを注文するグリルコーナー。
ここには、カウンター席が設けられている。
こちらはタイ料理のショップ。
小売りの売場とイートインコーナーの混在と融合。
レジは2カ所で、ひとつは、
青果部門入口横にある3台のコンビニエンス・レジ。
こちらはグロサリー・HBC売場の横にある10台のメイン・レジ。
そして通路をはさんだワインセラー。
その横のカスタマー・サービスのコーナー。
店長のChertsak Kanpakdeeさん(中)に話を聞いた。
右は、エスコートしてくれたチャチャイ・トングラタナハンさん。
タイ小売業協会専務理事。
「2006年にオープンし、現在、1日客数は約5000人。
フードサービスと物販は1対9の比率。
さらに物販は、フードが7割、ゼネラル(その他)が3割。
130人体制で運営している」
店長として心掛けていることは、
「クレンリネスの徹底です」。
店長は数値を日本のように、くわしくは知らない。
しかし、答えてくれた数値は、
現場をあずかる店長としての実感だろう。
さて、セントラル・ワールドプラザに隣接する伊勢丹。
セントラル百貨店とは通路で結ばれている。
伊勢丹の5階に、
伊勢丹スーパーマーケット。
その入口では北海道スィーツフェア。
セントラル・フード・ホールに比べると、
全体にせまくて、天井高も低い。
日本人向けの、旧来のスーパーマーケットが、
百貨店の上階にあるという感じ。
品揃えは、日本製品が多い。
そしてこの精肉売場。
スカスカの売り場に、愕然としつつがっかり。
それでも、日本人の固定客が、
しっかりとついている。
惣菜売場は通路を挟んで別途展開。
日本人客をターゲットにした店。
タイでは日本製品にあこがれる顧客が多い。
だからこの層をターゲットにした商売は大いに成り立つだろう。
ユニクロはジャパンテクノロジーを前面に出して、
現地の消費者をしっかりつかんでいる。
しかし伊勢丹はいつの間にか、
日本人をターゲットしてしまっている。
途端にマーケットは縮んでいく。
ターゲティングは、
確かなポジショニングによって、
客層を広げることができる。
これがポジショニング戦略の要の考え方。
そして、このサウヤム地区で、
セントラルワールドプラザと道を挟んで真向かいに位置するのが、
ビッグCスーパーセンター。
ハイパーマーケット業態を中核に展開する企業。
ビッグCは、もともとセントラルグループの事業部門だったが、
フランスのスーパーマーケット企業カジノに売却された。
さらにこの企業が2010年にタイのカルフールを買収。
ハイパーマーケットの数は国内最大。
2階、3階がスロープで結ばれた総合スーパー。
1階にはテナントが入る。
2階は食品と日用品。
そしてドラッグストア。
主通路は広い。
カルフールが創造し、完成させたハイパマーケットの店づくりを、
忠実に再現している。
食品部門はベーカリーが導入部。
ベーカリー売場から続く惣菜コーナー。
この惣菜コーナーは、持ちかえり用。
フライやミニ寿司など、
すぐに食べられる商品を対面でお勧めしている。
鮮魚売場は、
氷を敷き詰めた平台で丸モノを販売。
精肉売場では、多段セルフケースでのパック販売と、
平台ケースでのバラ販売を併用。
ひき肉も平台のバラ販売。
お客は必要な分だけすくって、袋に入れる。
奥壁面には惣菜売場。
サラダやチキンローストなどが並ぶ。
青果売場は売場全体のほぼ真ん中を占める。
ウォルマートのようなサイン。
葉物コーナー。タイは野菜の種類が豊富だ。
奥主通路沿いに冷凍食品コーナー。
ビッグCのプライベートブランドのアイスクリーム。
酒売場は時間帯によって販売できない。
だからこの時間は閑散としている。
飲料売場では、ペプシの量販。
単品量販がハイパーマーケットの手法。
2階のエスカレーターを登ると、
3階にはフェイスケア売場が登場する。
2階のレジはごらんのとおり。
人がよく入っている。
2階から3階へはエスカレーターで大型カートごと移動。
これはハイパーマーケットの常識。
3階は、衣料品、家電、スポーツ用品、
それに家庭用品など非食品を展開。
主通路ではプロモーションアイテムを訴求。
家電売場はまさにウォルマートのようだ。
そして衣料品も比較的ハイセンス。
タイでは、ほとんどの店が、
セキュリティシステムを入口に設けている。
1階のテナントのひとつは、
イギリスのドラッグストア「ブーツ」。
現在はアメリカのウォルグリーンの傘下に入った。
そして香港資本のドラッグストア「ワトソン」。
ドラッグ・チェーンをほぼ、
隣同士で競い合わせている。
ビッグCスーパーセンターには、
実にお客がよく入っている。
高度成長時代を迎え、
中間層がボリュームゾーンとなってきたタイ。
日本の高度成長時代に、
ダイエーを中心とした総合スーパーが、
圧倒的な強さを発揮したように、
いまのバンコクでは総合業態が、
お客のニーズをジャストミートでとらえ、
ウォンツを満たす。
一方、コンビニが「後進の先進性」で、
異常に発達している。
ハイパーマーケットとコンビニに挟撃され、
食品スーパーマーケットは、
高所得層をターゲットとするしかない。
低所得層の食品ニーズは、
伝統的な市場が支えている。
この構造が、サイヤム地区を訪れるだけで見えてくる。
しかし、タイの小売業の人々は、
「業界話」で「内向きの論理」をもってはいない。
協会専務理事のチャチャイさんが、
そしてChertsak店長が、
それをよく示していた。
自分の仕事、自分の店、
そして自分の会社を、
より良くしようと考えていれば、
業界全体の衰退や低迷の話を、
語る暇はないのだ。
その意味でも、私たちは謙虚に、
タイ小売業に学ぶことができる。
〈結城義晴〉