「北野祐次さん お別れの会」
帝国ホテル大阪で、行われた。
オール日本スーパーマーケット協会名誉会長、
関西スーパーマーケット創業者・名誉会長。
2月12日午前3時46分。
肺炎のためご逝去。
享年90。
私は2月16日のこのブログで、
訃報を書いた。
「関西スーパー北野祐次、逝く」
私は北野さんを、
「日本スーパーマーケット・システムの父」と、
表現した。
来場者数2100名。
オール日本スーパーマーケット協会会員企業からは、
社長、会長など多数の参加があった。
日本チェーンストア協会・清水信次会長、
日本スーパーマーケット協会・川野幸夫会長をはじめ、
業界関係者多数。
それから伊丹商工会議所・北嶋一郎会頭はじめ、
地元の人々も数多く参集。
遺影に対して、
謹んで献花した。
会場には「ありし日の北野祐次名誉会長を偲んで」と題して、
写真などが展示された。
さらに来場者には、
AJSネットワーク追悼特集号が配られた。
私は今、ダラスのヒルトンダラス・リンカーンセンター。
だからまことに残念ながら参列できなかったが、
この追悼特集号に追悼文を載せた。
心よりご冥福を祈りたい。
ダラスにて、一人、
黙祷して合掌。
『ほぼ日刊イトイ新聞』。
その巻頭言「今日のダーリン」に、
糸井重里が「理想のもの」について書いている。
「『理想の』って、
実はものすごくむつかしいんです。
みんな、わりと簡単に、あれこれと、
うるさいことを言うものですが、
『じゃ、どういうのがいいんだ』と訊かれたら、
あんがい答えられないものなんですよね」
「たとえば、理想のクルマ、どんなのですか?
クルマの好きな人だったら、いくらでも言えそうです。
だけど、たぶん、実際に本気で考えたら、
あんまりたいしたことないものを語りだしそうですよ」
「理想のホテルって、どんなのですか?
理想のレストランって、どんなのですか?
理想の結婚って、理想の学校って、どんなのですか?
理想の会社、理想の家、理想の休日、理想の歯ブラシ、
理想のりんご、理想の机、理想の椅子、理想のパンツ、
理想の寿司、理想の靴、理想の枕、理想の温泉‥‥」
「このひとつひとつについての『理想の』が、
リアルに言えたら、そして周囲に感心されられたら、
そりゃぁもう、勝ったも同然なんじゃないでしょうか」
関西スーパーは1970年代後半に、まさに、
「理想のスーパーマーケット」をつくった。
北野さんはそれはもう、
自信をもって「理想の」と言い切ったし、
それを否定する人は誰もいなかった。
北野さんが「理想の」をリアルに見せつけ、
周囲に感心されたから、
日本のスーパーマーケット、
とりわけオール日本スーパーマーケット加盟企業は、
「勝ったも同然」になった。
「『理想は、こういうものなんだけど、
ただ‥‥まだ無理なんです』と言えたら、
あとは、できさえすればいいんだもの」
糸井の言う通りの現象が起こった。
「どういうものが理想なのかを誤ったままに、
技術やら環境が整って、それが実現したとしても、
あんまり意味ないと思うんです」
「『いままでなかったけれど、こんなのがあったらなぁ』
という理想が見えること、それこそが大事なんです」
これを関西スーパー方式と称した。
「いま、あちこちにいろんな問題があるのですが、
『理想の』が見えないところで
堂々めぐりしてる感じ」
北野イノベーションから30数年、
堂々めぐりが起こっている。
糸井は言う。
「ほんとうの『理想論』って、
現実を動かすと思うんです」
北野さん、ありがとうございました。
安らかにお眠り下さい。
残った私たちは、
必ずや堂々めぐりから、
脱して見せます。
さて私は、ダラス2日目。
宿泊しているヒルトンダラスの会議室を使用し、
朝8時から第1回目の講義。
50名が一堂に会すると、
会議室も熱気にあふれる。
初めの講義だから、
米国小売業の最新潮流の解説から入り、
経営数値、産業動向、
そして商業近代化の歴史を紐解いてから、
「経営戦略論」を展開。
アメリカの小売業は、
新たなポジショニング競争に入っている。
それを見て、感じて、学んで、
自分たちの課題にしてほしい。
2時間を一気に語ったが、
まだまだ、ぜんぜん話し足りない。
バスに乗り込んでも、
マイクを手放せない。
ドライバーはシェリル女史。
アメリカでは大型バスでも女性ドライバーが多い。
見た目は男性並みを超えたプロレスラー並みだけど。
ここから昨日の視察店舗を一挙に紹介しよう。
まず、ダラー・ツリー。
バラエティストア全米第3位。
売上高73億9500万ドル(100円換算で7395億)、
伸び率11.5%、店舗数4671。
どちらかと言えば販売価格1ドルにこだわるダラーストアだが、
それでも2ドル、3ドル、7ドルの商品もある。。
家電専門店チェーンのレディオ・シャック。
ベストバイに次いで全米2位。
しかし、全米チェーンストア2011年度版には、
ベスト・バイとこのレディオ・シャックしか、
ランキングされていない。
日本の小売業順位とは大きく、異なる。
なぜか。
ウォルマートやコストコといった総合店が、
家電を便利に、重点的に、
販売しているからだ。
レディオ・シャックは、
ダラス・フォートワースのこの地に本社がある。
売上高39億5900万ドル(3959億円)、
前年比はほぼ横ばいのマイナス0.4%だが、
店舗数はなんと5480。
コンビニ型小物家電チェーンとみることができる。
スプラウツ・ファーマーズ・マーケット。
店舗数154と着実に店数を増やしてきた。
直近で10店舗の出店を計画している。
青果部門が店の奥ど真ん中にあり、
約3割の売場を占める。
独特な店づくりのスーパーマーケット。
しかし154店舗のチェーンストア。
独特だけれど、理屈があるから、
チェーン展開が可能となっている。
その理屈をバスの中で解説。
店長がインタビューに応えてくれた。
「ウォルマートのアシスタントマネジャーをやっていたが、
スプラウツに転職した。
私にはハッピーな仕事だ」
感謝の握手。
そしてダラー・ジェネラル。
バラエティストア全米第1位。
売上高148億0700万ドル(1兆4807億円)。
伸び率は13.6%と、毎年二ケタ増。
店舗数は昨年1万店を超えた。
1ドル以外の商品が、どんどん増えて、
それがウォルマートから、
「最大の脅威」とマークされる理由でもある。
ドラッグストア全米2位のCVSファーマシー。
企業名はCVSケアマーク。
売上高1231億3300万ドル(12兆3133億円)、
伸び率15.0%。
店舗数はこれまた7525。
ドラッグストア業界では、
ウォルグリーンとCVSの二強の争い。
私はこれを「複占」と呼んでいる。
2日目ともなると、皆元気。
今日は視察先が多い。
車中、私は、
「昨日より1.5倍速く歩こう」と声をかけた。
全員が、きびきびして、
歩幅も大きくなってきた。
HEBセントラル・マーケット。
到着してすぐに、
ポール店長からレクチャーを受ける。
ホールフーズから転職し、
2年目にして店長を任された優秀な男。
彼の話はいつも論理的でよどみない。
ほんとうにいい話が聞けた。
このインタビューとレポート、
売場の「ほぼ完璧写真再現集」は、
Web版『商人舎magazine』で掲載の予定。
日本に、ぜひ行ってみたいというポール。
私も彼を招いて、セミナーを開催したいほど。
ナイスガイのポール店長とシェイク・ハンズ。
次にコンテナストア。
収納用品のチェーンストアで、
店内には生活アイデアが満載されている。
FORTUNE誌『働きがいのある企業』の常連企業。
今年のランキングは16位。
5位のウェグマンズに次いで、
小売業では2番目に選ばれている。
スタッフのジュディさんが、
商品説明のデモをしながら、
コンテナストアの良さを話してくれた。
「何よりも信頼され、
責任を持たせてもらって、
仕事をするのが楽しい」
ベッド・バス&ビヨンド。
売上高94億9900万ドル(9499億円)。
伸び率8.5%。
店舗数1173。
天井まで届く商品のプレゼンテーションが特徴。
ホーム・ファッションストアは、
リネン&シングスが倒産したので、
ベッド・バス&ビヨンドの孤軍奮闘状態。
これもウォルマート、ターゲットの総合ストアの成長余波。
そのベッド・バス&ビヨンドが買収した
バイバイベイビー。
その名の通り、
ベビーザらスをターゲットにした商売。
そしてクリスマスツリーショップ。
総合ストアが強い分、
ニッチを狙うコンセプト・ショップは、
バラエティ豊かにライフスタイルを提案し、
その展開が可能となる。
最後の視察はアルディ。
売上高92億1800万ドル(9218億円)、
伸び率は10.2%。
店舗数1195店と1000店を超え、
全米チェーンストアランキングでも40位にランクイン。
売り場のクレンリネスが徹底され、
プレゼンテーション、サインボードなど、
明るく洗練されてきた。
われわれが買い物したため、
レジに長い列ができた。
いつもは1人で対応するレジも、
素早く2人態勢に。
アメリカのディスカウンターは、大きく変わってきた。
価格はさらに安くなっている。
プライベートブランドのコーラは、
2リットル69セント。
昨年は79セントだった。
さらに、
安いから悪い、
安いから汚い、
安いからノーサービス、ではなくなっている。
安くて良い、
安くてきれい、
安くてサービス。
店数が1000店を超え、
商品回転率が高まり、
単品量販が実現されると、
「安くて良い」が可能になる。
そうすると、店舗投資、店舗メンテナンス、
そして人員配置も、
少しだけ改善される。
これが「大きなイノベーション」と、
顧客には映る。
実際にこれこそ、
大きなイノベーションなのだ。
すべての視察を終え、
ホテルに戻ると、
すぐに朝の会議室に直行。
グループに分かれて、今日の視察のまとめを、
ディスカッションする。
みな真剣そのもの。
床に座って議論するグループも。
それを事務局が見守り、サポートする。
私の朝の講義、
視察後のグループ・ディスカッション。
これが毎日繰り返されていく。
そしてグループごとに中間発表が行なわれ、
最後に最終発表が行われる。
いまから、私も、楽しみにしている。
「理想の」を追い求めつつ、
私たちは励む。
〈結城義晴〉