結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2013年11月28日(木曜日)

堤清二「変革の透視図」と杉山昭次郎「マス・カスタマイゼーション」

再びみたび、訃報です。

堤清二さん、逝去。
昭和2年生まれの86歳。

商人舎最高顧問の杉山昭次郎先生と、
同年生まれ、同年の没となった。

西武流通グループ改め
セゾングループ創始者。
「辻井喬」のペンネームで、
こちらも手練れの小説家・詩人だった。

極めて珍しい経営者。

見渡せばほかには、
荒井伸也さんだろうか。

東京都出身。

父は堤康次郎元衆院議長、
西武グループ創業者。

その康次郎氏の秘書を務めた後、
1954年、西武百貨店入社。

1966年、西武百貨店社長に就任。

西友をはじめ、ファミリーマート、
良品計画、ロフト、パルコなどを創業し、
さらに金融、ホテル、不動産開発など、
多角化拡大路線を進め、
傘下企業100社以上、
売上高4兆円超の巨大流通グループを構築。

「西のダイエー、東の西友」。

私がこの業界に入ったころは、
こう称えられていた。

バブル最盛期には、
インターコンチネンタル・ホテルズを買収。

しかし1989年、そのバブルが崩壊し、
まず百貨店事業が経営不振に陥った。

91年、セゾングループ代表辞任、
92年、西武百貨店の代表権も失い、
2000年には経営そのものから身を引いた。

ペンネームの辻井喬の活動は、
ここでは触れない。

しかしこの活動にも、
経営者であったことが活き、
企業人と文化人の二面性が、
独特の世界をつくり上げた。

私が初めて堤さんに会ったのは、
『販売革新』編集部の駆け出し時代。

故渥美俊一先生と、
堤清二さんとの対談が実現した時。

実は業界でも有名だったのだが、
お二人は「犬猿の仲」といわれた。

渥美先生が大正15年生まれで、
一つ上だった。

ともにチェーンストア理論に通じていて、
しかしその理論そのものには差異があった。

当時は渥美先生がひどくダイエー寄りで、
西友側にはアンチ渥美の観があった。

故上野光平先生が西友を実質的に経営し、
二人の間を上手に取り持っていた。

そんな時、
『販売革新』誌がB5判から
A4変形判に大リニューアルを果たし、
その第1号企画で「特別対談」が実現した。

赤坂の料亭で、
午後7時ごろからだったと思う。

もう、雑誌の締め切り最終日は過ぎ、
それでもこの大スクープを、
緊急掲載しようということになった。

高橋栄松、五十嵐宅雄、
高濱則行、そして結城義晴。

4人の編集部員が控えていて、
30分ずつだったか、
テープ戻しを分担し、
翌朝には原稿を仕上げて、
印刷所に放り込むという態勢を取った。

一番の若手の結城義晴が、
当然ながら一番後ろで、
起承転結の最後を担当した。

先輩たちは30分終ると、
そのままテープをもって、
帰宅して原稿化作業に入った。
だから私だけ、
緒方知行編集長といっしょに、
最後まで対談の場にいた。

渥美先生はいつになく、
緊張していた。

堤さんが遅れて部屋に入ってきて、
畳に正座し、
ビタッと両手をついて、
頭を擦り付けて拝礼した。

渥美先生も、
同じように礼をした。

それから着座して、
対談が始まった。

『販売革新』のバックナンバーには、
その対談が掲載されているはず。

読んでみたいとも思うが、
内容は当たらず障らずだったと記憶している。
得てして、そんなものだ。

その堤清二さんの著書の中では、
『変革の透視図』が名高い。
1979年発行。
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発行は、渥美対談の翌年だったか。

この本の第7章で堤さんは、
「マーケティング論の再検討」を提案する。

これはまさしく、
同年の杉山昭次郎の絶筆と同期する。
杉山が主張するのは、
『マス・カスタマイゼ―ション』。

1979年段階では、
この概念はなかったが、
堤清二と杉山昭次郎は、
同じ見解をもっている。

第8章は「経済現代化の課題」。
「市場体質の変化は、
小売形態における『専門化の時代』を
出現させる方向に強くはたらくことが予想される」

「専門化とは、
量販店は量販店らしく、
専門店は専門店らしく、
ということである」

これこそポジショニングであり、
商業のポスト・モダンである。

最後の章の最後の項は、
「流通産業の本質」。

この中で堤清二は語る。
「流通産業は、まだ
大きく変化する可能性を内蔵した産業である。
そしてその変化は、
『近代化』を内に含んだ『現代化』へと
すすめられなければならない」

これもまた、
結城義晴の「商業現代化」そのものだ。

ああ、あの対談の時、
私は堤清二に伝染していたのか。
そんなことも思う。

もちろん上野光平、杉山昭次郎、
二人の先生が私にそのことを教えてくれた。

あたらめて今日、
三人の先達のご冥福を祈りたいと思う。

合掌。

〈結城義晴〉

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