日本プロ野球が開幕し、
春の選抜高校野球はベスト8が決まる。
さて大塚家具の親娘争い。
毎日新聞と日経新聞が、
巻頭コラムで取り上げた。
毎日の『余録』は、
人々が暮らす空間と「家具」の話。
「家具」は昭和の新語。
それまでは「道具」と呼ばれた。
その前の日本には、
大きな家財はなかった。
大塚勝久は、たんす職人の家に生まれ、
高級家具の会員制販売で一時代を築く。
道具から家具へ。
日本人の生活空間が一 変した時代の
ファミリーヒストリー。
だから結論は、
「経営がにらむべきは
人々が暮らす空間の明日だろう」
かっこいい終わり方で、
コラムニストは自己満足しているだろう。
私は「家具の大衆化」の、
次の段階を見つめなければならないと思う。
一言で言えばそれは、
明日のホームファニシングの世界だ。
日経新聞の『春秋』は、
ネブラスカ州オマハのミセスBの話。
ネブラスカ・ファニチャー・マート(NFM)の創業者が、
ロシア移民のローズ・ブラムキン。
ウォーレン・バフェットの伝記『スノーボール』に、
出てくる話。
そのミセスBの経営のモットーは二つ。
「安売り」と「正直商売」。
利掛け率を10%にして、値引きはしない。
1893年生まれのロシア系ユダヤ人。
ウォルマートのサム・ウォルトンが、
1918年生まれだから、
サムもミセスBには影響を受けているはず。
エブリデー・ロープライスの戦略は、
ミセスBの商売哲学そのものだからだ。
ミセスBは週7日間、52週、
毎朝5時に起床し、休まず働き続けた。
71万平方フィートの店内を、
ゴルフカートで動き回り、
従業員に檄を飛ばし続けた。
ユーモアのセンスと抜群の記憶力を持つ、
ベジタリアン。
しかし学校に行ったことがなく、
話すことは達者でも、
英語の読み書きはできなかった。
ネブラスカ・ファニチャー・マートは、
オマハの家具市場の3分の1を占め、
年商1億ドルを超えた。
そのミセスBの会社を、
オマハの賢人バフェットは1983年の夏、
5500万ドル(55億円)で買収。
バフェットは買収後も、
経営には一切口を出さず、
ミセスBを褒め続けた。
ライバル店は消え、
遠くの街からも客が訪れた。
コラムは書く。
「人々をとらえたのは
安さや透明な値付けばかりではあるまい。
灰色混じりの髪を束ねて駆け回る、
身長150センチ弱の経営者の姿も
そうだったろう」
これは大塚久美子社長に、
「ミセスBを目指せ」とのメッセージだ。
その日経新聞が女性役員特集を組んでいる。
その一面記事は上場企業調査の報告。
2月現在の上場企業513社の回答。
この時点で、女性役員がいた企業は34%。
さらに「目標はないが誕生する見通し」の企業11%、
「5年以内に登用する目標を立てている」企業は6%。
合計すると2020年までに、
過半数の上場企業で
女性役員が誕生する。
ただし女性役員のいる企業のうち、
社外取締役のみ女性がいるケースが3割。
さらに役員に占める女性比率は、
2.9%だった。
女性の社内役員がいない理由の6割近くは、
「社内に実績の伴う候補者がいない」
記事の最後にある一文。
「女性役員比率の上位企業には、
流通・サービス業が多く見られた」
流通サービス業に多い女性役員。
その理由の一つは大塚家具のように、
創業家出身の女性経営者が多いからだろう。
ダイバーシティ論議は盛んだが、
ミセスBほどの女性経営者像は、
過去のものなのだろうか。
大塚久美子さんは、
ミセスBになれるのだろうか、
それとも新しい経営者像をつくり出すのだろうか。
日本マクドナルドホールディングスは、
大塚家具の2日前に株主総会を開いた。
カナダ人女性経営者サラ・カサノバは、
新しい経営者像なのだろうか。
「社内に実績の伴う候補者がいない」
6割の企業が挙げた理由こそ、
この問題の現状を示している。
それでも2020年に過半数の上場企業で、
女性役員が誕生する。
できれば社外役員でなく、
社内役員で誕生させて欲しいなぁ。
〈結城義晴〉