緒方知行さんが逝った。
1939年3月29日、福岡県生まれ。
76歳。
私の人生で最初の直属の上司。
1977年4月、私のボスは、
㈱商業界『販売革新』編集長だった。
38歳の、眩しいほどのジャーナリストだった。
その後、1981年に、
取締役編集局長に就任し、
翌1982年、退任、独立。
㈱オフィス2020設立。
この会社のネーミングには、
「2020年まで現役で頑張る」
という趣旨が込められていたが、
残念ながらそれは果たせなかった。
1983年、月刊誌『2020AIM』 創刊。
この頃から「生涯編集者」を標榜していた。
会社は㈱オフィス2020新社へ、
そして㈱VALUE CREATOR社へと名称を変え、
最後は『Value Creator』誌編集主幹、
豊の国商人塾塾頭。
同塾は、大分県商店街振興組合連合会の主催で、
緒方さんは生まれ故郷の商人育成を、
ライフワークにしていた。
生まれた地も同じ、
大学も後輩ということで、
私は、随分と目をかけていただいた。
薫陶も受けた。
最初の単行本は、
「イトーヨーカ堂の経営」(日本実業出版)で、
この書は故西村哲さんとの共著。
2冊目が「ジャスコの経営」で、
私はこの取材に、何度か同道した。
印象に残る単行本は、
「イトーヨーカ堂の業革」
「セブン‐イレブン流通情報戦略」
「鈴木敏文 商売の原点・商売の創造」などなど。
2006年には、
私が社長を務めていた商業界から刊行。
「セブン-イレブンのビジネスイノベーション」
この書のタイトルは、私がつけた。
2010年6月18日には、
月刊『2020 Value Creator』
創刊25周年&300号記念パーティ開催。
岡田卓也さん、清水信次さん、
鈴木敏文さん、廣田正さん、
川野幸夫さん、平富郎さん、
そして荒井伸也さんなど、
そうそうたる人々がスピーチした。
当時、㈱菱食相談役だった廣田さんは、
儒学者の佐藤一斎を引用して、
実に印象的な言葉を、
緒方さんに贈った。
少にして学べば、
すなわち壮にして為すあり。
壮にして学べば、
すなわち老いて衰えず。
老にして学べば、
すなわち死して朽ちず。
緒方さんも、死して朽ちず。
心からご冥福を祈りたい。
さて「AJS Network」6月号が届いた。
毎月連載を書き連ねて第90回。
「スーパーマーケット応援団長の辛口時評」。
今回は「勝ったチームは強くなる」
ご愛読、感謝。
この機関誌の巻頭には、
会長の荒井伸也さんが連載を書いている。
「スーパーマーケット・ビジネス考」
こちらも第165回の大長編。
巻頭言だけれど、
一定のテーマごとに連載になっている。
今回は「《現場》を求めて その3」
ユニークで良い指摘がある。
「通常、店舗巡回では、
私は主通路沿いに店内を回る。
買物客よりかなり速足で歩く」
「何度も何度も店を見て
慣れた結果であろう、
かなりのスピードで通路を回っていても、
何か、いつもと違うことがあると、
目に飛び込んでくる」
どんなことか。
「変なパッケージがある!
見慣れない商品がある!
POPの文字数が、
読む気を失わせるほど多い!
・・・・・・・などなど」
こうした《現場》が、
会社中の人に見えてくる。
それがすなわち、
「スーパーマーケットとしての我が社が
《よくなる》ということであった」
トップ一人が見えていてもダメ。
コンサルタントが一人、
月に1回やって来て見えていると言ってもダメ。
会社中の全店長、
そして全バイヤー、全チーフに、
見えてこなければいけない。
店長が《現場を見る目》を身に付ける方法。
荒井さんは「極めて簡単」と言い切る。
「店舗のすべてを、
店長が一つひとつ、
実際に見る。
まさに、文字通り、
店舗のすべてを一つひとつ、
実際に見る」
今回、アメリカで手に入れた本が、
「Conscious Capitalism」と、
「Uncontainable」。
前者はホールフーズCEOジョン・マッケイ、
後者はコンテナストアCEOキップ・ティンデル。
二人は親しい間柄で、ともに、
「コンシャス・リテイリング」を、
実現させている。
意識の高い小売業。
マッケイは、意識の高い企業風土を、
ことさらに重視する。
全店長、全バイヤー、全チーフに、
《現場》が見えてくることと同じ考え方だ。
一方、ティンデルの経営には、
「7つの基本原理」がある。
その第1原理が、
「1 Great Person=3 Good People」。
1人の偉大な人物は、
3人の良い人々に等しい。
ティンデルは「1=3」の理論が、
いたく気に入っているようで、
続けて、言い切る。
「1人の良い人は、
3人の平均的な人に等しい。
1人の平均的な人は、
3人の怠け者に等しい。
だから1人の偉大な人は、
27人の怠け者に等しい」
そんなGreat Personと、
一緒に仕事しよう。
そうすればあなたも、
Great Personになれる。
ハイ・コンシャスな組織をつくり上げる。
そのために、Great Personは必須。
ティンデルはそう考える。
そしていつも、Great Personは、
《現場》を見ている。
ティンデルの「7つの基本原理」のうち、
第6原理は「直感」。
「直感は、
心構えがなければ起こらない。
直感がやってくるように
鍛錬しなければならない」
だからコンテナストアでは、
直感を養うためのトレーニングが、
全従業員を対象に、
「確固たる研修プログラム」として、
実施される。
1年目の従業員には、300時間の研修。
その後も、キャリアを通して、
追加の研修が続けられる。
ティンデルは、確信している。
直感を可能にするには、
間違いなく知識と経験が必須であり、
その直感が役立つようにするためには、
自分で磨き続けねばならない。
少にして学べば、
すなわち壮にして為すあり。
壮にして学べば、
すなわち老いて衰えず。
老にして学べば、
すなわち死して朽ちず。
緒方さんのご冥福、
心より祈りたい。
合掌。
〈結城義晴〉