ロンドンに着いて、2日目の朝。
テレビをつけたらBBCに、
この顔が映し出された。
テスコのCEOデーブ・ルイス。
昨年10月にユニ・リーバから転籍。
正式名称はUnilever N.V./Unilever PLC。
N.V.はNaamloze Vennootschapの略、
PLCはPublic Limited Companyの頭文字。
前者はオランダ語の株式会社で、
後者は英語のそれ。
ユニ・リーバは2本社制を採用している。
日本の西友CEO上垣内猛さんも、
ユニリーバ・ジャパン社長からの転身だから、
多国籍企業のユニリーバは、
人材の宝庫ということになる。
とは言っても、近年、
ユニリーバ全体の経営状態は悪化し、
再建中。
だから人材が外に流れている。
テスコの業績も、この2年、
よろしくない。
今年2月期の決算は、
過去最大の最終損失57億6600万ポンド。
これは約1兆320億円の赤字。
売上高は696億5400万ポンド、
これは前期比1.7%減。
ルイスは語っている。
「 当社の競争力がここ数年で色あせた。
それを反映した決算だ」
しかし昨年の秋、
不正会計の疑いが発覚。
2011年に中興の祖テリー・リーヒーが退任し、
その跡を継いだフィリップ・クラークは、
3年足らずで辞任した。
イギリスでは、ディスカウント旋風が吹き荒れる。
ドイツのハードディスカウンター・アルディ、
そして同じくドイツのリドルが絶好調。
テスコにはイノベーションがなくなっていた。
ルイスは財務再建を大胆に行うとともに、
1000品目の大幅値下げをし、
在庫を25%削減して、
さらに欠品を徹底的に減らす策に出た。
その結果、
顧客満足度は向上し、
シェアが回復しつつある。
ルイスはBBC放送では、
売り場でトマトを手に取って、
その生産から流通、販売までの、
テスコが実現させたイノベーションを、
真摯に語った。
好感が持てる。
その後、朝からセミナー。
今回は、ゲスト講師を招いた。
ニック・マイルズさん。
IGDアジア・パシフィック地区マネジャー。
見た通りのナイスガイで、
通訳を交えて2時間近く、
丁寧にレポートしてくれた。
テーマは、
英国オンライン食品市場の動向と、
テスコのダークストア戦略。
月刊『商人舎』4月号は売り切れたが、
特集は「ネットスーパー! 移動スーパー!!」
その中でセブン&アイのダークストアを紹介した。
オンラインビジネスのための、
プロセスセンターとディストリビューションを、
併せ持った機能だが、
ここにはテスコの工夫がある。
すごい内容で、これは、
ルイス新CEOの新戦略の一つ。
日本で再会することを誓って握手。
実に今興味深いレクチャーは、
月刊『商人舎』かmagazineで、
私の分析を含めて、紹介する。
その後、1時間ほど、
結城義晴のセミナー。
ニックさんのレクチャーの解説をして、
それからイギリスの競争の現状を語った。
テスコ、アズダ、セインズベリー、
マークス&スペンサー、ウェイトローズなど、
有力企業の趨勢とアメリカ以上の寡占状態。
その中で我々は何を学ばなければいけないか。
アメリカも学ぶ。
イギリスも学ぶ。
ヨーロッパも学ぶ。
そうして、自分で考える。
デーブ・ルイスや上垣内猛が、
ユニリーバから転職して、
すぐに活躍できるのは、
そういった姿勢を持ち続けたからだ。
多くの事象を見て、聞いて、
自分の頭で考える。
ピーター・ドラッカー先生が言う、
「ポスト・モダンの七つの作法」。
その第一の作法が、
「自分の目で見て、耳で聞くこと」
さて、視察。
ホテルからロンドンの中心部を抜ける。
ウェストミンスター寺院。
王室の結婚式、葬式、
ほとんどここで行われる。
チャールズ皇太子とダイアナ妃は、
例外的にセントポール大正堂だったけれど。
ビッグベンの前の人ごみ。
ロンドンには観光客が、
溢れかえっている。
そしてテムズ川河畔の大観覧車ロンドン・アイ。
そして到着しました。
ウェストフィールドショッピングセンター。
ロンドンオリンピック跡地にできた最新型。
まずは腹ごなし。
Wagamama。
1992年、香港出身のアラン・ヤウが創業。
ロンドンを中心にアイルランド、オランダ、
トルコ、オーストラリア、
そしてアメリカに出店するチェーン。
メニューは「日本風料理」。
カジュアルな店内で、
麺や丼、カレーなどを提供する。
しかし日本人の手は入っていない。
このショッピングセンターは、
2つの核店舗を持つ。
一方が、百貨店のジョンルイス。
高級百貨店だが、
大衆化路線を走っている。
その1階フロアには
高級スーパーのウェイトローズ。
ジョンルイスの傘下にある企業。
H2Oにおける阪急オアシス、
三越伊勢丹におけるクイーンズ伊勢丹。
百貨店が43店、
スーパーマーケットが336店。
全体の売上高は109億ポンド、
ウェイトローズはその中で65億ポンド。
入口の花売り場。
そしてベーカリー。
キッチンサービスコーナーと惣菜。
その奥に生鮮食品売り場。
青果部門も奥にある。
クレート陳列。
私はこれには疑問を抱いている。
この方式はテスコが開発して、
テレビでルイスCEOが語るように、
目覚しい成果を上げた。
そしてみんな真似をした。
しかしウェイトローズは、
アメリカのホールフーズやウェグマンズのように、
美しい立体陳列をすべきだ。
そうしなければ、
ウェイトローズのポジショニング、
アウトスタンディングにならない。
精肉・シーフードの対面コーナー。
ワインは25%offを強調している。
つまりこの店、売れていない。
一方の核店はM&S。
マークス&スペンサー。
こちらが断然、いい。
マークス&スペンサーは、
ほぼプライベートブランド100%の、
ディスカウントデパートメントストア。
かつて一世を風靡して英国第一の小売業だった。
しかし、その後、低迷。
どんな企業にも成長と低迷がある。
今でも世界50カ国に出店しているが、
国内の建て直しが最大の課題。
そして建て直ってきた。
食品売り場は素晴らしい。
地下鉄出入り口の近くに、
店舗の導入口を設けて、
客数はジョンルイスを圧倒している。
入口の右手に長いレジがあり、
それの前の通路は、
斜めに切り込まれている。
ポストモダンな店づくりは、
新しいポジションを予感させる。
天井も床もアメリカ流。
それがイギリス人にとっては、
斬新なイメージを作り出す。
イギリス国内の売上げは、
食品が今や55%、衣料品・住関連が45%。
精肉・シーフード・デリは、
対面販売方式とセルフの併用。
コンビニエンスフードも、
全てプライベートブランド。
花売り場がポストモダンな店づくりに、
見事にフィットしていて、
その向こうはイートインコーナー。
アメリカではウェグマンズ、ホールフーズ、
これが当然のごとしだが、
イギリスではM&Sだけ。
ウェイトローズにもこの観点はないし、
テスコやセインズベリーにも薄い。
アズダにはそれがあるけれど。
昔から定評のある衣料品売り場。
既存のブランドを刷新して、
2013年からBest of Britishを開発。
ポストモダンの店づくりと相まって、好調。
イギリスでも、
イノベーションとポジショニング、
極めて重要な競争与件となっている。
そのあと、テスコ・メトロと、
セインズベリー・ローカルへ。
テスコもセインズベリーも、
マルチフォーマット戦略。
その都市型小型店。
いい勉強は続く。
夕食はチャイナタウンの中華。
大満足。
その中で一番は、カニのヌードル。
青島ビールと紹興酒で、
10時まで明るいロンドンの夜を、
存分に堪能した。
(つづきます)
〈結城義晴〉
追伸で日本のイベントを紹介。
3日、全国セルコグループトップ会、
2015年懇親会が開かれた。
全国セルコチェーンの経営トップと、
卸・メーカーの幹部が参集。
地域密着型のスーパーマーケットが終結し、
グッドカンパニーを目指す。
それがセルコグループ。
それを長年率いてきたのが、
エコス会長兼CEOの平富郎さん。
今年、理事職を離れ、相談役となった。
現理事長の佐伯行彦さんと、
副理事長の伊原實さんが、
次代のセルコを率いることになる。
平さん、まだまだ砥石ならぬ、
セルコの重石として
活躍ください。
ロンドンの空から、
応援しています。