夏のさかりのあの数日の、
汗まみれ泥まみれの、
不思議なさわやかさ。
……力いっぱい戦うことが、
誰ひとり傷つけない、
誰ひとり不幸にしない。
〈谷川俊太郎〉
朝日新聞『天声人語』が引用した。
もちろん夏の甲子園大会のこと。
「誰ひとり傷つけない、
誰ひとり不幸にしない」
ここが特にいい。
第97回全国高校野球選手権大会。
今日、2回戦が終り、ベスト16が揃う。
明日、明後日の土日が3回戦で、
そこでベスト8が決まる。
それから準々決勝、準決勝、
そして決勝。
誰ひとり傷つけない、
誰ひとり不幸にしない、
そんな戦いの中で、
夏が過ぎていく。
さて例の「盗用の疑い」の話。
デザイナーの佐野研二郎氏。
多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業、
博報堂入社。
2008年MR_DESIGNを設立して独立。
2014年、多摩美術大学教授就任。
日米欧のデザイン賞を受賞し、
数多の作品を創作してきて、
実績は申し分ない。
しかしここへきて「盗作の疑い」。
まずは2020年東京五輪の公式エンブレム。
ベルギー・リエージュ劇場のロゴに「酷似」、
と、作者のオリビエ・ドビ氏が指摘。
むこうで法的手段に訴えている。
佐野氏は8月5日に日本で記者会見して、
「事実無根」と否定。
しかしテレビでの映像では、
目が泳いでいた。
一方、「他の作品にも盗用の疑いがある」と、
インターネットなどで指摘されていた。
それを受けて、サントリービール。
「オールフリー」のトートバッグも、
佐野氏のデザインだが、
30品のうち8品を取り下げ、
発送を中止する。
〈SUNTORYホームページより〉
これも様々な他のデザインに似ていた。
しかしここまで出て来ると、
こういったアーティスティックな仕事は、
酷なようだが、もうおしまいだと思う。
日本の著作権法は、
知的財産権の一つである著作権の、
範囲と内容について定める。
著作物の創作者である著作者に、
著作財産権や著作者人格権という権利を付与し、
その利益を保護している。
その著作物とは、
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、
文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」
流通やチェーンストアの理論や情報も、
この「著作物」に該当する。
私の考え方をこのブログに掲載するが、
もちろんそれも「著作物」に該当する。
著作権が侵害された場合には、
救済手段として差止請求権が認められている。
損害賠償請求は「民法」の規定によるが、
損害額の算定に関しては、
特別の規定が設けられている。
さらに権利侵害に対しては、
刑事罰も規定されている。
ただし著作権侵害は、
「親告罪」とされている。
親告罪(しんこくざい)とは、
告訴がなければ公訴できない犯罪。
しかし著作者は常に、
この著作権侵害をチェックしている。
私も㈱商業界社長時代に、
あるライターの商業界刊の単行本が、
著作権侵害に当たるとされて、
問題解決したことがある。
商業界の顧問弁護士・男澤才樹さんが、
著作権を専門としていて、
ずいぶんと助けてもらった。
私たちは問題の本の文面と、
訴えを起こした原著者の本の文章を、
一字一句、丁寧に、引き比べて、
結果として、著作権侵害を認めた。
そして全国の書店から、
当該書籍を回収した。
佐野デザイナーの一連の作品が、
著作権法違反に該当するかどうかは別にして、
仕事は手を抜いたり、楽をしたり、
他人に任せきりにしたりしてはならない。
その教訓はいつの時代にも変わらない。
「盗人猛々しい」
それだけは、やってはならない。
力いっぱい戦って、なおかつ、
誰ひとり傷つけてはいけない。
誰ひとり不幸にしてはいけない。
〈結城義晴〉