今上天皇の戦没者追悼式のスピーチ。
「ここに過去を顧み、
さきの大戦に対する深い反省と共に、
今後、戦争の惨禍が
再び繰り返されぬことを切に願い、
全国民と共に、
戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、
心からなる追悼の意を表し、
世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」
「深い反省」は初の表現、
「戦争の惨禍」「繰り返されぬこと」なども、
初めてのこと。
日経新聞巻頭コラム『春秋』
歌人・宮柊二の歌を紹介。
ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば
声も立てなくくづをれて伏す
日中戦争の中国大陸の最前線で、
敵を銃剣で突き刺した瞬間を詠んだ歌。
凄い。
磧より夜をまぎれ来る敵兵の
三人迄を迎へて刺せり
これも敵兵を刺した者こそが、痛ましい。
距離二歩をへだつる戦友がをりをりに
かしらを垂れて吾をあやぶます
二歩離れて行軍する戦友、
あまりの眠さに、
歩きながらときどき頭が垂れる。
その瞬間、戦友が撃たれたのかと、
私を心配させる。
今上天皇の「深い反省」は、
ここに表現されている。
「戦争の惨禍を繰り返さぬこと」も、
宮の歌に詠みこまれている。
安倍晋三首相は昨夕、
戦後70年談話を発表。
全文3373文字。
20年前の1995年8月15日には、
当時の村山富市首相が、
「戦後50年談話」を発表している。
全文1306文字。
さらに2005年8月15日には、
小泉純一郎首相が、
「60年談話」を閣議決定。
こちらは全文1133文字。
あらためて三つの「談話」を読んでみた。
村山談話も小泉談話も、
極めて自然体である。
村山さん、小泉さんの、
それぞれの人柄も出ている。
読みやすくて、短い。
今回の安倍談話は、
キーワードをてんこ盛りしたために、
長くて、修辞が多い。
つまり、わかりにくいし、
伝わりにくい。
ただし、マスコミでいわれるほど、
悪い内容ではない。
文体は、私の趣味ではないけれど。
村山談話、小泉談話は大人だ。
安倍談話は、首相が、
目いっぱい背伸びをしつつ、
あっちこっちに配慮した跡が見える。
村山談話はこう始まる。
「先の大戦が終わりを告げてから、
50年の歳月が流れました。
今、あらためて、
あの戦争によって犠牲となられた
内外の多くの人々に思いを馳(は)せるとき、
万感胸に迫るものがあります」
そしてここが焦点。
「私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、
疑うべくもないこの歴史の事実を
謙虚に受け止め、
ここにあらためて痛切な反省の意を表し、
心からのおわびの気持ちを表明いたします」
「痛切な反省」と「心からのおわび」
小泉談話のイントロはこうだ。
「私は、終戦六十年を迎えるに当たり、
改めて今私たちが享受している平和と繁栄は、
戦争によって心ならずも
命を落とされた多くの方々の
尊い犠牲の上にあることに思いを致し、
二度と我が国が戦争への道を歩んではならない
との決意を新たにするものであります」
小泉談話自体は、
首相の支持率の高さもあって、
それほど問題にされなかったが、
「痛切な反省」と「心からのおわび」は、
村山談話と同じ表現を使った。
なぜなら、日本政府は、
村山談話を公式見解として、
歴代内閣がそれを踏襲してきたからだ。
そして安倍談話の最初。
「終戦70年を迎えるにあたり、
先の大戦への道のり、
戦後の歩み、20世紀という時代を、
私たちは、心静かに振り返り、
その歴史の教訓の中から、
未来への知恵を
学ばなければならないと考えます」
焦点として指摘されている部分はここ。
「あの戦争には何ら関わりのない、
私たちの子や孫、
そしてその先の世代の子どもたちに、
謝罪を続ける宿命を
背負わせてはなりません」
そして、
「痛切な反省」と「心からのおわび」は、
消えた。
朝日新聞の社説は、
「いったい何のための、
誰のための談話なのか」と、
感情をあらわにする。
日経新聞は芹川洋一論説委員長が、
イギリスの歴史家E・H・カーを引用。
「歴史は過去と現在の対話である」
安倍談話への評価。
「キーワードをすべて盛り込み、
今後の道筋も示すものとなった」
しかし、過去は、
「どこまでも背負っていくしかない」
つまり子や孫も、その先の世代も、
過去を背負わないわけにはいかない。
私もそう思う。
だから、歴史を学ぶ。
「現在との対話であらわれてくる過去には
3つの変数がある」
第1は安全保障、
第2は経済、
第3は人。
第1の安全保障は、
かつての米ソ冷戦時代には、
大きな機能を果たしたが、
ベルリンの壁が崩壊してから、
それは「望み薄」と芹川さん。
ならば、第2の経済。
「アベノミクスで日本経済を立て直し、
国力を高めていくのが結局、
一番の近道だろう」
「共通の利益、価値を
いかにつくるかである」
第3の人に関しては、
「政治指導者の役割が重要だ」
そして安倍さんへの注文。
「政権維持のため世論をひきつけようと、
偏狭なナショナリズムをあおるのは、
お互い慎まなければならない」
商売や文化、スポーツを通じた、
民間人の交流も重要だと私は思う。
シンガポールのゴー・チョクトン前首相。
「運転中はバックミラーを
常に確認しなければならないが、
より注意を注ぐべきは目の前の道だ」
「過去は未来によって変わる」
最後に再び朝日『天声人語』
「歴史認識を首相任せにせず、
自分でも考えてみたい」
仕事をし、商売をし、
そして歴史を振り返り、
未来を考える。
それが終戦の日の知識商人のあり方だ。
〈結城義晴〉
[追伸]
Daily商人舎に掲載しました。
「村山談話」「小泉談話」「安倍談話」全文