「それらしいものほど、
無責任なものはない」
今日の朝日新聞『折々のことば』。
4月1日から哲学者の鷲田清一が一面に書く。
松浦弥太郎「暮しの手帖日記」から引用。
松浦は『暮しの手帖』前編集長。
このメディアは花森安治が1948年に創刊。
〈暮しの手帖社会社案内より〉
一貫して生活者の側に立って、
中立性を守りつつ、
提案し、ライフテストを行う。
「それらしく作られたものが
それらしく流通し、
それをみなが『良い』と思う。
そこでは視線がモノから逸(そ)れ、
世間の空気へと向かう」
鷲田は言う。
「批評とは見分けること」
見分ける眼力がなければ、
経営者も店長もバイヤーも務まらない。
コンサルタントもジャーナリストも、
批評力は必須だ。
実務の世界では、
「評論家的だ!」と批判されることが多い。
しかし、本物の評論家は、
見分ける力を持つ。
それらしい発言ほど、
無責任なものはない。
断言の過ぎる発言ほど、
危険なものはない。
以って自戒とすべし。
日経新聞スポーツ欄『フットボールの熱源』
サッカー担当記者の吉田誠一が書く。
「クラブを育てる楽しみ」
スポーツネタだが、
いつも経済視点が入っていて面白い。
コンサドーレ札幌が、
「考える会」を開いた。
約600人のサポーターが参集。
〈コンサドーレ札幌オフィシャルサイトより〉
野々村芳和社長が経営内容を開示。
昨季の営業収益13億円、
チーム強化費4億3000万円。
ちょっと驚く。
J2のクラブチームとはいえ、
あの有名なコンサドーレ札幌の売上げが、
年間13億円。
標準的なスーパーマーケットより低い。
チーム強化費とは、
選手の人件費のことで、
その比率約33%。
この金額はJ2クラブの平均値。
野々村の目標。
5年をめどに営業収益を20億円、
強化費を9億円。
人件費比率は45%に引き上げられる。
商売でいえば、仕入れ金額にもあたる。
「そのきっかけとして、来季、
プロモーションに1億円を投じる」
野々村は語る。
「観戦初心者に
『また見に来たい』と思わせるのは、
試合の内容より会場の雰囲気」
商品よりも店舗のにぎわい?
「選手とサポーターがつくり出す雰囲気が
リピーターを生むための商品なのだ」
面白い。
ニューカスタマーを、
リピートカスタマーにするには、
ロイヤルカスタマーと
アソシエーツがつくり出す
店の雰囲気が必要だ。
野々村はそう訴える。
「地域のスポーツ文化を
みんなでつくっていく楽しみを味わう。
それもスポーツの楽しみの一つ。
そういう楽しみ方を根付かせたい」
これは、地域の消費文化、商品文化を、
顧客と共につくっていく楽しみを意味する。
私はかつて1998年、
ヤオコー狭山店リニューアルオープンの際、
「この店のある喜び」を指摘した。
その時、顧客たちは、
店で消費文化をつくっていく楽しみを味わった。
野々村。
「クラブの営業収益を地域の人々の力で
20億円、25億円と膨らませていき、
『ついに30億円を超えちゃったね』
という喜びを味わう」
まことに虫のいい話だが、
13億円が20億円、25億円、
そしてついに30億円を超える。
まるでスーパーマーケットやドラッグストアの、
予算目標のようだ。
Jリーグを見ていても、
プロ野球を見ていても、
いつも思う。
店にもサポーターが必須だ。
マーケティングでは、
「オピニオンリーダー」と呼ぶが、
野々村はそんなコアな顧客たちに、
店員とともに雰囲気をつくってくれと訴える。
ちなみにサッポロドラッグストアーは、
コンサドーレ札幌を支援している。
社長の富山浩樹さんが、
リージョナルマーケティング社長を兼ねていて、
コンサドーレEZOCA名のポイントカードを発行。
サツドラで買い物したポイントが、
サッカーチームの強化費となる。
このサツドラとコンサドーレ札幌の事例は、
地域振興とJリーグ支援、そして商売とが、
三方良しで整った好例だ。
吉田記者は最後にまとめる。
売上げが上がっていくことに伴って、
「チームの戦力も地域の活力も増していく。
地域振興、町づくりにも
こういう感覚が必要なのかもしれない」
小売業やサービス業の店舗は、
地域振興や町づくりの一環である。
野々村のように、
サポーターに向けて、
胸を張って協力を要請できるような、
そんな店になりたいものだ。
「それらしいもの」や、
「無責任なもの」を、
他人任せで並べていては、
サポーターに胸を張ることはできない。
〈結城義晴〉