2015年11月も残すところ3日。
久しぶりに商人舎オフィスに来ると、
蘭の花が送られてきた。
マルトの安島祐司会長、浩司社長から。
ありがたい。
それでも不思議に、
気分は落ち着いている。
何かをやり遂げたという心持ち。
それにしても忙しかった。
11月1日に渡米。
テキサス州ダラス市から、
ニューヨーク州ニューヨーク市へ。
さらにテキサス州サンアントニオ市、
オースティン市から、
またニューヨーク市。
そしてカリフォルニア州サンフランシスコ市へ。
そのあとまたダラス市・フォートワース市から、
サンフランシスコ市。
慌ただしかった。
しかし、りっしん偏に亡くすと書いて、「忙」。
それで、私は心を亡くしたか。
外山滋比古さんが、
日経新聞夕刊で、
「独創老人をめざす」と語る。
92歳の英文学者・エッセイスト、
お茶の水女子大学名誉教授。
膨大な著作を生み出し、
いまも現役で旺盛な執筆活動を続ける。
私も外山さんのファンの一人。
「脱グライダー商人」
「セレンディピティ」などなど、
ずいぶん外山さんの考え方に影響を受けた。
「若い頃から体が弱く、
とても長生きはできないと思っていた」
しかし92歳までお元気。
「30代でしたか、頭が働かない、
考えがまとまらないときに、
外を歩くと、すらすら
原稿が書けることもあるのに気がついた。
それで、早朝、地下鉄で通って
皇居一周の散歩を続けた」
「そのうち体の調子も良くなった。
80歳ぐらいまで続けましたか。
最近は、やや体力が衰えたので
1日5000歩ぐらいに減らしています」
「体の動く部分は全部動かそうと考えた。
足に加えて手を動かし口も動かす。
80代で必要に迫られて始めた炊事も
手と頭の運動になりました。
そういう“五体の散歩”を続けると、
体にも心にも健康面で
非常にプラスになることが分かった」
五体の散歩の極意。
「基本的に忙しくしなきゃだめです。
暇なのがいちばんいけない」
私の11月もそうだった。
いや、私の人生、ずっとそうだった。
「とにかく、することをたくさんこしらえる」
同感。
「一日には、とても収まりきらないので、
優先順位を決める。
いわば編集作業です。
その日の目玉、大事なことを3つ書きだして、
まず難しい課題から取り組む。
それができると、楽になるので次に進む。
できなかったことは先送りしますが、
充実した一日になると思います」
反対の考え方もあろう。
それもいい。
しかし、私は外山派。
「忙しくしていれば、
新しい関心事が次々に出てくる。
ストレスもたまらない」
「若い人にはあまりいいことではないが、
年を取ったら、忙しいのは、
すばらしいことなんです。
努力しなくても、我を忘れて、
年も忘れますからね。
そうなれば、年は取れども、
年は取らない」
「人間は日々新しいことを考え、
新しいことに挑戦すれば、
日々新しくなっていく。
そういう生き方ができると思っています」
私も、できる限り、
忙しくしよう。
92歳まで、100歳まで。
11月中、そんなことを考えていた。
一方、日経新聞最終面『私の履歴書』
今月は洋画家の絹谷幸二さん。
その第23回の先週火曜日。
タイトルは「子供への授業」
絹谷さんも若いころから、
一心に画家を目指して、
忙しく創作に打ち込む。
そして画家として一定の評価を得たある日、
ニューヨークの下町の小学校を訪問。
約30人の高学年の子供を相手に授業。
「絵画は人間の根源的な表現だと思う。
ところが『うまい絵』あるいは『正解』を
描こうとするから挫折して、
絵が嫌いになる」
子供たちにそれを教えつつ、
そのことに確信を持つ。
「正解」は一つではない。
仕事でも商売でも、
事業でも経営でも。、
商品づくりでも店づくりでも、
フォーマット開発でも販促でも。
その後、絹谷さんは2005年には、
日本で「子供 夢・アート・アカデミー」創設。
このアカデミーの授業で、子供に伝える。
「絵の具はそのまま使ってはダメだよ」
「チューブから出したままの『赤』では、
全員が同じ色になる。
『緑やほかの色をほんの少し、混ぜてごらん。
料理の時に甘いお汁粉に塩、
辛いカレーに蜂蜜を入れるように、
かくし味を入れてみよう」
すると100人100色の「赤」ができる。
自分だけにしか作れない絵であることが、
重要なのだ。
正解は一つ。
それはレース型競争の時代。
いま、正解は一つではない。
自分だけしか作れない作品であること。
これがコンテスト型競争の時代。
「ヨーロッパに行くと、ネクタイでも車でも
シックで落ちついた色彩に驚かされるが、
それは補色に近い色をほんの少し、
スパイスとして混ぜているから」
やはり専門家の目は鋭い。
「反対の色や意見を取り入れながら
個性をはぐくみ、調和を尊重する。
それは人間の文明の力であり、
知恵である」
仕事や商売が、
事業や経営が。
そして商品づくりや店づくり、
フォーマット開発や販促が、
反対意見を取り込みつつ、
個性をはぐくみ、調和を生み出す。
それが組織文化となるし、
知識商人の知恵となる。
2015年11月も、
残すところ3日である。
〈結城義晴〉