「弱さ」は「強さ」の欠如ではない。
「弱さ」というそれ自体の特徴をもった
劇的でピアニッシモな現象なのである。
〈松岡正剛〉
朝日新聞『折々のことば』は、
鷲田清一さんが、毎日、
いろいろな人の言葉を選んで、
コメントを加える。
『フラジャイル 弱さからの出発』からの引用。
「fragile」は「弱々しい、脆い、はかない」の意。
この後に続く一文。
「部分でしかなく、
引きちぎられた断片でしかないようなのに、
ときに全体をおびやかし、
総体に抵抗する
透明な微細力をもっているのである」
商売の立場からこれを読むと、
「顧客」のことを表現しているように思える。
さらに無理やり、
フィリップ・コトラーに結びつけると、
マーケット・ニッチャーの存在を教えてくれる。
一方、糸井重里の「今日のダーリン」
「なにひとつ、簡単なことなんてない」
このごろ、何度も口に出しているらしい。
「ある意味では
『励まし』のことばとして、
別の局面では、
じぶんたちへの『戒め』のことばとして、
こういうことを言っているように思う」
「簡単そうに見えることは、
あんがい難しいものだし、
難しそうに見えていることは、
やはり難しいものだ。
いやになるほど、
難しいことばかりなのだ」
同感。
糸井は、そして自戒もする。
「もしかしたら、
老人臭いことなのかもしれない。
若い人なら、もっと無鉄砲に
『簡単です』と走り出してもいいようにも思う」
「ある確率で大失敗することがあったとしても、
なにかのミスがあってあわてることがあっても、
そういうことがあっても、
ほんとうはいいのではないか
‥‥こんな気持ちも、実はある」
商業や商売は、
大いに失敗が許される。
そんな仕事だ。
糸井はコピーライターらしく結論を書く。
「なにひとつ、簡単なことなんかないね」
のぼくと、
「簡単簡単っと言って走り抜いてしまえよ」
のぼくは、
実は、まったく同じ人物である。
「フラジャイル」と「簡単なことなどない」
外濠校舎6階の薩埵(さった)ホールで、
「倉本長治・初夫文庫」開設
記念公開セミナー。
タイトルは「店は客のためにある」
2009年の5月、法政大学に、
「流通産業ライブラリー」が設立された。
主管はイノベーション・マネジメント研究センター。
内容は流通に関する専門デポジット図書館。
すでに「ペガサス文庫」が開設されているが、
それは故渥美俊一先生主宰の、
チェーンストア図書館から贈られたものだ。
今回は、商業界倉本長治初代主幹と、
初夫二代主幹の個人蔵書約3100冊が、
このライブラリーに寄贈され、
「倉本文庫」が開設された。
それを記念した公開セミナー。
多くの関係者、受講者が集まった。
大高善興さんもそのお一人。
ヨークベニマル会長。
開会の辞を兼ね、
はじめは法政大学教授の矢作敏行さん。
テーマは、
「解題 商業界精神と戦後日本の流通産業」
この3月で退任する矢作先生。
学者の立場から、
商業界精神と倉本長治主幹の、
商業に果たした役割を整理してくれた。
その中核となる思想は、
倉本長治の「商いの三位一体論」
「愛」と「真実」と「儲け」とが、
三位一体となって、
商業の近代化を推進した。
私にとっては、実にありがたい講義だった。
そして記念講演は柳井正さん。
ファーストリテイリング会長兼社長。
柳井さんのテーマは、
「店は客のためにあり、
店員とともに栄える」
柳井さんのオフィスには今でも、
この言葉が書かれた額が飾られている。
2000年度毎日経済人賞を受賞した時に、
贈られた書だ。
講演の初めに柳井さんは、述懐した。
「このタイトルの言葉には、続きがある」
「店主とともに滅びる」
「結城さんに教えていただいた」
2005年に商業界商人大賞が設立された。
私が㈱商業界社長のときに、
推進し、新設したイベントだ。
その第1回商人大賞に柳井さんが選ばれた。
私は直接、柳井さんにお会いして、
この賞の意義と授賞の理由を伝えた。
その折に、倉本長治の言葉を贈った。
「店は客のためにあり、
店員とともに栄える。
店主とともに滅びる」
柳井さんの講演は40分だったが、
実にエキサイティングだった。
柳井正とファーストリテイリングの、
決意表明のような講演だった。
「世界のトレンドは、
デジタル化とグローバル化です。
それによって世界は、
すべてつながっている」
「だから商売人は、個性を出しつつ、
世界につながっていかねばならない」
「私たちは、世界の人々と、
つながっていることを実感できる、
商品とサービスをつくって、
売っていきたい」
「それが商業者の使命です。
その決意と覚悟をもちたい」
久しぶりに柳井さんの講演を聞いて、
私は感動した。
柳井さんとは近く、
会って話をすることになった。
質疑応答の20分も、
あっという間に過ぎて、休憩。
そのあと、古舘邦彦さんが講演。
古館さんは新潟の浅川園社長。
そして商業界全国連合同友会会長。
ただし、私は、取材のため、
失礼した。残念。
急ぎ向かったのは、秋葉原。
㈱ライフコーポレーション東京本社。
岩崎高治社長へのインタビュー。
1時間ほどの取材だったが
なんだか不思議なインタビューだった。
第五次中期経営計画のもと、
ライフの改革は順調に見える。
しかし「なにひとつ、簡単なことなんてない」
それを「ロジカル」に、丁寧に、
岩崎ライフは仕上げていく。
その間に、店と、
そこで働く人たちが、
変わっていく。
詳細は月刊『商人舎』4月号。
ロングロングインタビューとなります。
ご期待ください。
取材後、森下留寿さんが顔を出してくれて、
意見交換をした。
取締役経営企画本部長。
岩崎さん、森下さん、
それから広報の皆さん、
ありがとうございました。
最後に、先月の商人舎標語。
店はいつも客のためにある。
店は客のためにあり、
店員とともに栄え、
店主とともに滅びる。〈倉本長治〉
この三行の言葉には、
すべてに「店」の文字が使われる。
それだけ「店」は抜きがたい存在である。
商人はずっと店をつくってきた。
店をつくるのが商人の仕事だった。
店をより良くするのが商人の役目だった。
そして商人は店を変えてきた。
店を変えるのが仕事だったし、
店をより良く変えるのが役目だった。
21世紀に入ってから15年。
その店のつくり方がさらに変わってきた。
レイアウトの引き方も変化を遂げた。
しかし良い店はいつもカスタマーを向いている。
良い店はずっとアソシエーツをいたわっている。
良い店はこれからもリーダーの能力を最大化させる。
アウトスタンディングなポジショニング。
とんがりとこだわり。
店づくりはフォーマット戦略の基盤である。
しかしだからこそ、そこに、
アウトスタンディングな成果が要求される。
こだわり店舗にはとんがり収益性が必須となる。
店はカスタマーを歓喜させ、
アソシエーツを成長させ、
リーダーたちを躍動させる。
店はいつも客のためにあり、
店員とともに栄える。
そして店主とともに滅びる。
〈結城義晴〉