結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2016年05月01日(日曜日)

【日曜版・猫の目博物誌 その2】タンポポの綿毛

猫の目は、
斜め後ろも見える。
距離感を正確につかむ。
暗いなかでも見える。

そんな目で見る博物誌――。
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「博物誌」といえば、
ローマ帝国時代のプリニウスの『博物誌』。

プリニウスは、
ストア派のいわば禁欲主義者。

自然法則にしたがって、
徳の高い生き方を目指した。

プリニウスは、
夜明け前から仕事をはじめて、
勉強している時間以外は
すべて無駄な時間と考えた。

読書をやめるのは
風呂につかっている時だけだった。

紀元79年、ヴェスヴィオ山が大噴火。
ポンペイの町が壊滅した。

プリニウスは、
ローマ西部艦隊の司令長官だったが、
ポンペイの友人らを救出し、
同時に火山現象を調査しようと、
ナポリ湾をわたって上陸。

そこで死亡した。

そのプリニウスの大作が、
37巻の『博物誌』
自然と芸術についての百科全書。

プリニウスとまではいかないが、
猫の目博物誌――。
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春の川辺。
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新緑の季節。
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黄色いタンポポの花が、
一度閉じて、蕾になる。
それがふたたび開くと、
綿毛が現れる。

〈http://www.rightplants4me.co.ukより〉

右端は綿毛が開く直前の蕾。
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そしてタンポポの綿毛が開いた。
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タンポポは、
キク科タンポポ属(Taraxacum)の多年草。
生命力が強い。
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英語では、dandelion。
プリニウスが使っていたラテン語では、
Taraxacum

そう、学名はラテン語を使う。

春の花の代表だが、
猫はそれほど、
この花が好きではない。

むしろ、綿毛がいい。
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もともとは、
「フヂナ」あるいは「タナ」と呼ばれた。

江戸時代には、
鼓草と言われた。
「つづみぐさ」

鼓をたたく音が、
「タン」と「ポポ」

この擬音語が語源で、
鼓草は「タンポポ」となった。

これは通説。
正しいかどうかわからない。

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英語の「dandelion」は、
フランス語の「dent-de-lion」からきた。
lionはライオン、dentは歯。
つまりライオンの歯。

ギザギザした葉が、
ライオンの牙を連想させた。

現代フランス語では、
pissenlitという。

piss-en-lit。
ピサンリ。
tは発音しない。

pissはおしっこ、litはベッド。
「ベッドのおしっこ」
つまり「おねしょ」

タンポポには利尿作用があるから。

フランス人の観察は、
かわいい。

綿毛は英語でblowball。
「吹かれる球」か。
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しかしこの綿毛は、
タンポポの果実である。
つまり種子。

綿毛の飛行距離。
なんと約10kmとか。

秒速0.5mの風でも、
それに吹かれて、
宙に浮いている。

風によって種子を飛散させ、
種の存続を図る。
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綿毛は生命の源だ。
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「タンポポと南風の物語」

南風は怠け者だ。
いつも寝そべって野原を眺めていた。

ある春の日、南風は、
野原のなかに、
黄色い髪の美しい少女を見つけて、
恋に落ちた。

実はその少女はタンポポだった。

それに気づかない南風は、
毎日夢中になって、
少女を見つめ続けた。

しかし、いつのまにか少女は
白髪の老婆になってしまう。

南風は、悲しみのあまり、
大きなため息をついた。

すると、ため息に飛ばされて、
白髪の老婆も 、
いなくなってしまった。
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しかしタンポポの綿毛は、
白髪の老婆ではない。

未来をつくる生命の源だ。

タンポポは、
花を開かせるために
生まれてきたのではない。

宙に浮き上がって、
世界を見下ろす。
そして、生命の種を、
植えつける場所を探す。

そのために、
タンポポは生まれてきた。IMG_4523-6

それに猫は、
黄色い髪の少女に、
恋をしたりしない。

怠け者の南風よりも、
勉強家のプリニウスでいたい。
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〈『猫の目博物誌』(未刊)より by yuuki〉

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