「ぼくの楽屋は劇場の廊下なんです」
〈蜷川幸雄〉
朝日新聞『折々の言葉』
鷲田清一さんの編著。
5月12日に亡くなった舞台演出家。
80歳だった。
「異なった感受性をもつ俳優たちと
劇に取り組む演出家は、
彼らの様子を見、
気になればすぐに声をかけられるよう
廊下に陣取った」
この蜷川さんの姿勢を、
鷲田さんはたとえる。
「他の野手と逆方向を見つつも、
チームの一員として
ともにプレーするキャッチャーのように」
「そういえば私が知るある大手企業でも、
社長室は設けず、社員たちが働いている
そのどまん中で社長が執務している」
仲間とは逆方向を見つつ、
ともにプレーする。
どんな組織にも一人は、
こんな人がいなければならないし、
できうればリーダーがいつも、
逆方向を見ていなければならない。
さて、アメリカ小売業の4月の実績。
商務省の季節調整済み小売業売上高は、
4534億3800万ドル、前年同月比3%増。
ウォルマートの2016年第1四半期決算は、
米国内既存店売上高が前年同期比1%増。
アソシエーツの時給を2年連続で1ドルずつ上げた。
アップスキリング・プログラムを導入し、
サービス教育や売場改革に取り組んだ。
結果が出て、客数が1.5%増。
実際、ラスベガスでもシカゴでも、
そしてアトランタでも、
ウォルマートの店頭には、
確かに活気があった。
ホーム・デポの第1四半期既存店売上高は、
前年同期比7.4%増。
クレイグ・メニアCEO、
「米国全域で販売が伸びた」と強気。
しかし百貨店メイシーズは、
既存店売上高5.6%減。
テリー・ラングレンCEOは、
「衣料品とその関連商品で
弱い消費が続いている」
こちらは弱気。
ラングレンは2012年に、
「オムニチャネル宣言」を発して、
コンセプトでは世界をリードしたが、
現下の実績はその効果が出ていない。
そんなアメリカで、
私はシカゴからアトランタへ。
シカゴ・オヘア空港の恐竜化石模型。
ブラキオサウルス。
そして長い長い滑走路。
飛び上がるとChicago市街。
南東へ向かうと、
雲が現れる。
そして綿雲。
2時間ほどで、雲の下に緑の大地。
そしてジョージア州アトランタ。
「風と共に去りぬ」の舞台。
小説はマーガレット・ミッチェル、
映画はビビアン・リー。
着いたらすぐに、レストラン。
メアリー・マクズ・ティールーム。
なんてことのない入口。
店内に入ると、写真のオンパレード。
伝統的な南部の部屋。
名物の骨付きショートリブと、
甘い紅茶・甘いレモネード。
それが似合う店。
ママさんがやってきて、
お客たちの背中を丸くなでながら、
「料理はいかが?」
私はもちろん、
「Very Good, ma’am!」
すぐにホールフーズへ。
パイナップルが出迎えてくれた。
その青果部門は店の顔。
改装中だが営業中。
ぐるりと回りこんで、
サービスデリとセルフデリ。
デリは充実する一方、
青果がちょっと弱含み。
それが心配だが、
この店はいい。
そしてクローガー。
全米ナンバー1スーパーマーケットは、
ジョージア州でも崩れない。
エブリデー・ロープライス。
面白い写真。
ウォルマートのアソシエーツが、
制服姿でやってきて買物。
クローガーの店員と親しげに話している。
アトランタはそんな街。
それからリージョナルチェーン、
フレッシュ・マーケット。
アメリカ南東部の27州に183店の展開。
創業者のレイ・ベリーが、
ユニークなアップグレード店舗をつくった。
私もダラス近郊でこの店を訪れたが、
彼の地では激しい競争で今一歩。
それもあって、3月に買収された。
投資会社アポロ・グローバル・マネジメント。
このアポロGMは、
スプラウツ・ファーマーズマーケットを買収して、
上場させ、躍進させている。
真四角な店内、スケルトンの天井、
店内真ん中に島型のサービスデリ。
ワインも特徴的。
アトランタ市内の高級住宅地では、
顧客の支持を得ている。
それから変わり種。
ファーマーズ・マーケット。
スプラウツのフォーマットとは全く違う。
まさに産地直送店舗。
ただし、、メキシコ人&アジア人向け店舗。
アメリカのどの州にもあるタイプ。
鮮魚は広大な売り場で、
その売り場の前で魚をさばいている。
グロサリーも広い売り場に、
アジアンフードがズラリ。
レジもご覧のとおり。
アトランタ中のメキシコ人、アジア人が、
この店にやってくる感じ。
広域商圏型スーパーマーケット。
これも、あり。
最後に、無理を言って、訪れた。
ピグリー・ウィグリー。
1916年にクラレンス・サンダースが、
世界で初めてセルフサービスを実験した。
それがピグリー・ウィグリー。
サンダースはその発明を、
フランチャイズチェーンにした。
つまり、金儲けを企んだ。
しかし1930年代に入ると、
クローガーやセーフウェイ、ナショナルティに、
リージョン単位別に売却されてしまった。
金儲けは長続きしない。
現在は、Piggly Wiggly, LLC。
LLCはLimited Liability Companyで、
有限責任会社のこと。
それでも、南部中心の17州に、
600店以上の店を展開する、
フランチャイズチェーンだ。
しかし、訪れてみて、
がっかり。
店がまず、汚い。
品切ればかりで、
鮮度感は全くない。
この有り様。
しかしアトランタの名士コカ・コーラは、
こんなエンドを独占。
「歴史のお勉強」ということで、
まあ満足。
イノベーションは、
金儲けに使われてはならない。
人々の幸せをつくることこそ、
イノベーションの本質なのだ。
ピーター・ドラッカーの言葉。
〈イノベーションとは、
人的、物的、社会的資源に対して、
新しい、より大きな富を生む仕事である〉
ここでいう「富」とは、
「利益」ではない。
英語でwealth。
私は言っている。
いわば「幸せ」のようなもの。
どんな仕事も、
人々の幸せを
つくり出すことなのだ。
金儲けは長続きしない。
(ブログはつづきます)
〈結城義晴〉