猫の目で見る博物誌――。
ローマの大プリニウスの『博物誌』
中国の張華の『博物誌』
ビュフォンの『博物誌』
古典的な博物誌はみな、百科事典のようだ。
しかし、1896年、
博物誌のカテゴリーに全く新しい世界が生まれた。
ジュール・ルナール。Jules Renard。
『にんじん』で名高いフランスの作家。
新境地『ルナールの博物誌』〈翻訳は岸田国士〉
「蝶」
二つ折りの恋文が、花の番地を捜している。
素晴らしい。
ルナールの『博物誌』
猫の目は夜でも見える。
猫の目はわずかな光だけで、
白黒を見分けることができる。
しかし猫の目には、色がない。
『博物誌』の挿絵のように。
今日は、青空文庫の、
そのルナールの『博物誌』から。
挿絵はピエール・ボナール。Pierre Bonnard。
フランスの後期印象派画家。
「蜻蛉」
彼女は眼病の養生をしている。
川べりを、あっちの岸へ行ったり、
こっちの岸へ来たり、
そして腫れ上がった眼を
水で冷やしてばかりいる。
じいじい音を立てて、
まるで電気仕掛けで飛んでいるようだ。
「蟻」
1
一匹一匹が、3という数字に似ている。
それも、いること、いること!
どれくらいかというと、
333333333333……ああ、きりがない。
そして、ルナールは猫も描いてくれる。
「猫」
私のは鼠を食わない。
そんなことをするのがいやなのだ。
つかまえても、それを玩具にするだけである。
遊び飽きると、命だけは助けてやる。
それからどこかへ行って、
尻尾で輪を作ってその中に坐り、
拳固のように恰好よく引き締まった頭で、
余念なく夢想に耽る。
しかし、爪傷がもとで、
鼠は死んでしまう。
辛辣なお言葉、ありがとう。
〈『猫の目博物誌』(未刊)より by yuuki〉