朝日新聞一面の『天声人語』
「エンゲル係数」を取り上げてくれた。
「生活費に占める食費の割合のこと」
1857年、エルンスト・エンゲルが、
その論文で発表した。
ドイツの社会統計学者。
エンゲル係数の数値が高いほど、
生活水準は低い。
「エンゲルの法則」
しかし「この数年で日本のエンゲル係数は
かなり高くなって25%を超えた」
「最も低かったのは11年前。
23%弱でした」
大藪千穂・岐阜大教授。
家計経済学を専門とする。
理由の第1は、
「円安や消費増税での食品の値上がり」
しかも収入は増えていない。
だからエンゲル係数の比率が上がった。
第2は、「食の営みの変化」
ズバリ「中食」の急増が、
エンゲル係数を押し上げた。
大藪教授の観察。
「いまや買い物カゴの中身は、
女性客がお総菜、
若い男性が即席麺、
高齢男性はお弁当」
つまり調理済み食品を買って、
家で食べる人が増えた。
記事には出てこないが、
「料理済み食品」のほうが、
購入して自宅で調理する「素材」より、
高額になる。
だからエンゲル係数を押し上げる。
日本のエンゲル係数の推移。
明治時代60~70%、
昭和初期は50%前後に下がった。
敗戦による窮乏で、
再び60%前後。
そして高度成長を経て、
20%台へ下がった。
ところが現在の日本。
「低い食料自給率、
円安による輸入食材の高騰、
年金頼みで収入の少ない高齢者世帯――」
エンゲル係数を引き上げる要因がそろう。
「実質賃金が上がらない限り、
この傾向は続くだろう」
バブル経済の時代には、
エンゲル係数自体が下がっていたし、
関心も低かった。
近年は経済格差、所得格差のせいで、
「再び脚光を浴びつつある」
食品小売業は必然的に、
「中食」や「惣菜」に力を入れ、
マーチャンダイジングの軸を、
加工度を上げる方向にシフトする。
160年前は困窮の尺度。
現在は便利性の尺度。
そしてスーパーマーケットやコンビニの、
収益性の尺度。
総合スーパーが苦しむはずだ。
そして総合スーパーも惣菜に力を入れる。
もうこうなったら、
エンゲルの法則は、
変更されなければならないだろう。
人々の幸せのためならば、
総収入は高まりつつ、
便利でおいしい惣菜の消費も増える。
経営数字には三つの政策がなければならない。
故渥美俊一先生のご慧眼。
上げる数値。
下げる数値。
一定に保つ数値。
バブル経済のころまでは、
エンゲル係数は下げる指標だった。
それが豊かさを意味した。
しかし今、エンゲル係数は、
一定に保つべき指標となった。
25%くらいだろうか。
30%だろうか。
惣菜や半加工品はますます、
開発行為が高度化する。
一方で、人々の賃金が上がる。
これはアベノミクスの最大課題として、
政府にも頑張ってもらわねば困る。
そしてエンゲル係数は、
一定に保たれる数値となる。
新しい時代である。
さて昨日は大阪に宿泊して、
今日は朝から東大阪市の㈱万代へ。
第4回講座のテーマは、
フィナンシャルマネジメント。
午前の3講座は、不破栄副社長が担当。
コーポレーション部門を管掌する不破さんは、
三井住友銀行出身の、
財務のプロフェショナルだ。
BSとPLの経営を、
ホワイトボードに記しながら、
実にわかりやすく解説してくれた。
会社経営の指標を示し、
万代の経営の健全さを語る。
その語り口は柔らかく、的確。
私、不破さんの説明のし方に、
心底、感心した。
「店長のための店舗損益」をテーマに、
実務的な計数管理を指導。
後部席には、今度は、
阿部秀行社長、下岡太市副社長が、
加わって聴講。
最後は結城義晴の講義。
私のテキストのタイトルは、
「あなたは数字が好きですか?」
数値データの活用の考え方、
実地棚卸しの重要性などを1時間。
ここで、
上げる数値、下げる数値、
一定に保つ数値を教えた。
その後、知識商人として、
必ず身につけておかねばならない経営数値、
基準となる必須の指標などを解説。
質疑を繰り返して教授。
最後は、日本の主要上場小売企業、
アメリカの上場小売企業の財務数値を使って解説。
合計3時間の講義となった。
その後、レポートの書き方を改めて伝授し、
質問への回答などをしていると、
あっという間に17時半。
朝9時から7時間以上に及ぶ講義。
丸一日、数値と格闘した第一期生たち。
その受講生たちには、
人事部マネジャーの東尾里江さんから
新たな課題レポートのテーマが投げられた。
受講生たちは、最後に、
今日の感想レポートを仕上げて、
講義を終了。
阿部さんと下岡さんが、
見送りに来てくれた。
阿部さんも下岡さんも
月刊商人舎7月号「万代スタディ」に、
満足してくれたようで、
最後は三人でグー。
エンゲル係数の指標は、
その意味を変える。
時代の変化に、
知識商人大学一期生たちが、
的確に答えてくれるだろう。
それを祈念したいものだ。
〈結城義晴〉