猫の目で見る博物誌――。
猫の目は夜にも見える。
光のないところでも見える。
しかし色は見えにくい。
そんな猫の目で見る博物誌――。
2016年の夏も、
終わりに向かう。
夏の花といえば、
ヒマワリ、朝顔、そして、ダリア。
あつき名や天竺牡丹日でり草
〈正岡子規 〉
和名は天竺牡丹。
花の形がボタンに似ているから。
英語でdahlia、
フランス語でもdahlia、
学名もDahlia。
その意味では世界共通。
dahliaの名は、
ダール(Dahl)という人の名からとられた。
スウェーデンの植物学者。
アンデシュ・ダール(Anders Dahl)。
その名をつけたのが、
カール・フォン・リンネといわれる。
スウェーデンの博物学者。
生物学者でもあり、植物学者でもあるし、
なにより「分類学の父」と称される。
ダールはその弟子。
リンネ著『自然の体系』(Systema Naturae)は、
1735年に刊行され、
ここから近代的分類学が始まった。
リンネは生物分類を体系化した。
生物の学名は、二名法。
つまり「属」と「種」の2語のラテン語で表す。
これはリンネの考え方に従っている。
分類の基本単位は、
「種」(しゅ、ラテン語も英語もspecies)。
その上の分類が、
「属」(ぞく、これもラテン語、英語ともにgenus)。
その上が「科」(か、familia、family)、
「目」(もく、ordo、order)、
「綱」(こう、classis、class)と、
上位の分類単位を設けられ、
それらは階層的にポジショニングされている。
リンネが生物の分類階級と分類構造をつくり、
それが発展して現代の精緻な階層構造となった。
日本語より、英語やラテン語のほうが、
はるかにわかりやすい。
夏の花「ダリア」は、
キク科ダリア属の多年生草本植物。
リンネの分類では以下のようになる。
植物界Plantae
被子植物Angiosperms
真正双子葉類Eudicots
キク類Asterids
キク目Asterales
キク科Asteraceae
キク亜科Asteroideae
ハルシャギク連Coreopsideae
ダリア属Dahlia
タイプ種Dahlia pinnata Cav.
夏から秋にかけて開花し、
大きな花輪と鮮やかな花の色。
赤・橙・黄・白・桃色・紫色・藤色・ボタン色などなど。
ヨーロッパには、
1789年にメキシコから持ち込まれた。
まずスペインのマドリード王立植物園に、
種が導入され、
1790年に開花した。
その後、品種改良が重ねられて、
多種多様な品種が生み出された。
日本には1842年に、
オランダから長崎に持ち込まれた。
原産はメキシコで、
メキシコの国花。
「国花」は、
その国民に最も愛好され、
その国の象徴とされる花。
日本の国花は、もちろん桜。
アメリカはバラ。
ロシアはヒマワリ。
リオデジャネイロ五輪のブラジルは、
これがよくわからない。
イぺー(ipe)だとか、カトレアだとか。
まあ、いろいろあってもいいし、
それがブラジル人の特徴でもある。
色鮮やかで、
大ぶりのダリアの花。
なぜか夏の終わりを感じさせてくれる。
後れ咲の天竺牡丹活けて秋
〈正岡子規〉
ちなみにダリアに似たボタンは、
ボタン科ボタン属の落葉小低木。
二名法の学名はPaeonia suffruticosa。
猫の目は季節を読み取り、
分類も重視する。
もうすぐ秋です。
〈『猫の目博物誌』(未刊)より by yuuki〉