猫の目で見る博物誌――。
猫の目は夜にも見える。
光のないところでも見える。
日陰者さえ見える。
そんな猫の目で見る博物誌――。
彼岸の明けには彼岸花。
秋の彼岸の頃に咲くから、
彼岸花。
学名Lycoris radiata。
ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年生。
真ん中がツボミ。
両サイドが開花。
花弁は6枚で、
放射状につく。
そこで学名のradiataは、
「放射状」という意味。
Lycorisは、
ラテン語のヒガンバナ属。
鱗茎はデンプンに富むが、
有毒な球根性植物。
鱗茎の毒の主成分は、
アルカロイド。
食べると吐き気や下痢を起こす。
死に至る場合もある。
原因は中枢神経の麻痺。
群生する。
夏の終わりから秋の初め、
高さ30~50cmの花茎が、
地上に出てきて、
その先端に苞(ほう)に包まれて、
花序がひとつ付く。
枝も葉も節もない。
苞はつぼみを包んだ葉。
その苞が破れると、
数個の赤い花が顔を出す。
9月中旬のこと。
花には短い柄があって、
写真のように横を向いて開く。
すべての花は、
輪生状に外向きに並ぶ。
しかも花弁は細長く、
大きく反り返っている。
開花すると、
晩秋には線形の細い葉が、
バラの花のように、
ロゼット状に出てくる。
葉は冬の間、姿を見せるが、
翌春になると枯れる。
そして再び、
晩夏から初秋に、
地上に花茎を出す。
日本では水田の畦などに多く咲く。
〈photo by Huminori Kanaya〉
畦に植える目的は、
ネズミ、モグラ、虫など、
田を荒らす動物を、
鱗茎の毒で忌避させるため。
稲と彼岸花。
救荒作物として、
田畑の草取りのついでに、
植えられ、栽培される。
別名が多い。
曼珠沙華は「マンジュシャゲ」
サンスクリット語のmanjusaka。
死人花は「しびとばな」
地獄花「じごくばな」
幽霊花「ゆうれいばな」
剃刀花「かみそりばな」
狐花「きつねばな」
捨子花「すてごばな」
「はっかけばばあ」
日本での別名・方言は、
1000以上だという。
花と葉が同時に出ない。
だから「葉見ず花見ず」ともいう。
ひどい命名ばかり。
それでも、
日本の秋の彼岸には、
必須の花で、
それがこの花の
「ポジショニング」なのだと、
猫は思う。
彼岸から、
猫はこの花を、
見ている。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)