猫の目で見る博物誌――。
猫の目は夜にも見える。
光のないところでも見える。
月明かりに映える花も見える。
そんな猫の目で見る博物誌――。
秋の七草は、
桔梗、ススキときて、
つぎは萩。
マメ科ハギ属の落葉低木、
あるいは多年草。
学名はLespedeza。
萩の葉は「三出複葉」
葉は単葉と複葉に分けられる。
一枚の葉を「単葉」
複数の葉を「複葉」
三出複葉は、三枚の葉があるもの。
萩は秋に、
枝の先端から
多数の花枝を出し、
その先に、
花の房をつける。
花は豆のような蝶形花。
山野の日当たりの良いところに、
自生する。
一般に「ハギ」と称されるのは、
ヤマハギ(山萩)。
東京近辺で見られるのは、
ミヤギノハギ(宮城の萩)。
このほかに、
シラハギ(白萩)、
キハギ(黄萩)などの種類がある。
秋の十五夜には、
ススキ、団子とともに、
供えられた。
萩は古い枝には、
花をつけない。
春に新しく伸びた枝にだけ、
花をつける。
だから冬の間に、
枝を剪定しておくと、
翌春に古株から盛んに芽が出る。
このことから、万葉集では、
「萩」に「芽子」の字をあてた。
秋風は涼しくなりぬ
馬並(な)めて
いざ野に行かな
萩の花見に
『万葉集』作者不詳。
春の花見は桜。
秋の花見は萩。
万葉集で詠まれた花の歌。
桜は40首あまり、
梅が119首。
一番多いのが、
萩で142首。
古くから日本人が楽しんだ萩。
しかしそれは萩が、
象徴性豊かな花だったからだ。
萩の開花のころ、
稲・粟・稗などが収穫される。
咲きこぼれる萩の花は、
豊穣の秋のシンボルだった。
をとめらに
行き逢ひの
早稲を刈る時に
なりにけらしも
萩の花咲く
ちなみに萩の花は、
性的なものを象徴した。
もちろん万葉の時代のその象徴は、
豊かな生産力や生命力をイメージさせて、
生きるうえでも好ましいものだった。
俳句のほうでもっとも有名なのは、
やはり松尾芭蕉。
一家に遊女も寝たり萩と月
一家は「ひとつや」
はからずも一つ屋根の下に、
遊女と同宿した。
月明かりが庭の萩の花に、
降り注いでいる。
そんな意味。
遊女と萩が、いい。
月を、芭蕉自身と解釈するなど、
昔から多くの説がある。
寝ている遊女と、
月が光を注ぐ庭の萩との対比の、
シンプルな世界のほうが、
芭蕉らしい。
ここでも芭蕉は、
萩を遊女とからめて、
万葉以来のニュアンスを出している。
もう一句、芭蕉。
白露をこぼさぬ萩のうねりかな
萩の花が、
小さくあやうい露の玉を、
こぼすことなく、
うねり、揺らめいている。
ん~、なかなかのものだ。
猫は思う。
萩の花は生命力を宿している。
命あるものこそ、
猫のあこがれだ。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)