猫の目で見る博物誌――。
猫の目は美しいものを見分ける。
そんな目で見る博物誌――。
真綿色したシクラメンほど
清しいものはない
出逢いの時の君のようです
ためらいがちにかけた言葉に
驚いたようにふりむく君に
季節が頬を染めて過ぎてゆきました
小椋佳作詞・作曲、
布施明・歌。
「シクラメンのかほり」
一番の歌詞は真綿色、
二番は薄紅色、
三番は薄紫。
シクラメンはそんな花です。
被子植物門双子葉植物綱サクラソウ目、
サクラソウ科シクラメン属。
多年草。
学名はCyclamen persicum Mill。
英名はCyclamen、
和名はシクラメン。
「篝火(かがりび)花、豚の饅頭」
などとも、いわれる。
双子葉植物の分類だが、
実際に芽が出てくるときには、
葉は一枚。
葉はハート形をして、
白い筋や白い斑がある種類もある。
柄は長い。
球根からそのハート形の葉が群生する。
7~8枚目の葉が出ると、
花芽の形成が始まる。
花芽(はなめ)が成長して、花になる。
このとき、葉芽と花芽は、
1対1でふえていく。
だからシクラメンの花と葉の数は、
N:N+7、またはN:N+8である。
冬から早春に、一重や八重の花をつける。
もともとは地中海沿岸の原産。
ヨーロッパのギリシャから、
北アフリカのチュニジアにかけて、
自生していた。
クレオパトラも見ただろう。
ヨーロッパでは花よりも、
球根の澱粉が食用にされた。
「アルプスの菫」などと呼ばれた。
しかしこの澱粉には、
有毒物質が含まれる。
サポニン配糖体シクラミン。
それもあってか、
南米からジャガイモが入ると、
その食習慣はなくなって、
観賞用となった。
日本には明治時代に入り、
戦後、観賞用として普及。
ギフト需要をつかんで、
現在、急速に普及。
昨2015年の日本国内の作付面積、
189ヘクタール、
1ヘクタールは1万㎡、
だから189ヘクタールは、
189万㎡。
出荷量は約1760万鉢。
長野県が全体の16%でトップ、
二番目が愛知県の10%、
三番目は茨城県と栃木県の6%。
鉢植えの花人気ランキングは、
シクラメンが1位。
2位は胡蝶蘭。
シクラメンと蘭の種類が、
15位までの上位を占める。
人気です。
シクラメン花のうれひを葉にわかち
〈久保田万太郎〉
万太郎はやはり、
花にうれいを見出し、
葉にも注目した。
優れた観察だ。
一方、「シクラメンのかほり」
一番は「出逢いの時」、
二番は「恋する時」、
三番は「別れ道」。
出逢いは「真綿色」
恋するのは「薄紅色」
別れは「薄紫」
ん~、ありきたり。
ありきたりなもののほうが、
売れる、ヒットする。
猫の目には、それがよく見える。
面白くないけれど。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)