猫の目で見る博物誌――。
猫の目はいつも季節をとらえる。
そんな季節の目で見る博物誌――。
春の七草。
古来、日本には、
「若菜摘み」の風習があった。
年の初めに、
雪の間から芽を出した草を摘む。
これが七草の原点。
君がため
春の野に出でて若菜摘む
我が衣手に雪は降りつつ
(光孝天皇『古今集』)
現代語訳では。
「あなたのために春の野に出て、
若菜を摘んでいました。
春だというのにちらちらと雪が降って、
私の着物の袖にも、
雪が降りかかっています」
「それでも、あなたのことを思いながら、
こうして若菜を摘んでいます」
光孝天皇は830年~887年の人。
仁明天皇の第三皇子で、
幼少のころから学問好きで聡明だった。
その春の七草。
せりなずな
ごぎょうはこべら
ほとけのざ
すずなすずしろ
これぞななくさ
せり(芹)は、セリ科の多年草。
学名Oenanthe javanica、
英語でWater dropwort。
別名シロネグサ(白根草)。
湿地やあぜ道、休耕田など、
水分の多いところで生育する湿地性植物。
まるで競い合うように群生している。
だから「セリ」
次に、なずな(薺)は、
アブラナ科ナズナ属の越年草。
学名Capsella bursa-pastoris、
英名Shepherd’s Purse。
これは「羊飼いの財布」の意味。
別名ぺんぺん草、三味線草。
田畑や荒れ地、道端など、
至るところに生える。
ごぎょう(御形)は、
キク科ハハコグサ属の越年草。
ハハコグサ(母子草)。
学名Gnaphalium affine、
英語でCudweed。
小型の草本で、草体は約10-20cm。
茎葉の若いものを食用にする。
北アメリカやヨーロッパでは、
庭草として一般的な植物。
はこべら(繁縷)は、
ナデシコ科ハコベ属の越年草。
学名Stellaria media、英名 Chickweed。
現在の名称はコハコベ(小繁縷)。
小型の草本で、草体は約10-20cm。
葉野菜として食用にされるし、
ニワトリの餌などにも使われる。
ほとけのざ(仏の座)は、
キク科に属する越年草。
現在の名称はコオニタビラコ(小鬼田平子)。
学名はLapsana apogonoides Maxim。
英名はNipplewort。
田畑やその周囲のあぜ道など、
湿地に多く生える。
シソ科の「ホトケノザ」とは別のもの。
この後の二つは、
野菜として売場では必須のアイテム。
すずな(菘)はカブ(蕪)。
アブラナ科アブラナ属の越年草。
学名Brassica rapa L. var. rapa、
英名Turnip。
代表的な根菜類。
別名はカブラ、カブナ、カブラナ、
それからホウサイ(豊菜)、
ダイトウナ(大頭菜)。
カブは頭を意味する「かぶり」、
根を意味する「株」など、
諸説あるが、それだけ重要な野菜。
主要産地は、圧倒的に千葉県。
全国生産の3割を占める。
ついで埼玉県、青森県。
この3件で日本生産の約半分。
ほぼ全てが小カブ。
最後に、すずしろ(蘿蔔)はダイコン(大根)。
アブラナ科ダイコン属の越年草英名。
学名Raphanus sativus var. longipinnatus、
英語でRadish。
主に肥大した根を食用とする。
種子から油を採ることもある。
緑黄色野菜でもあり、淡色野菜でもある。
「大きな根」を意味する大根(おおね)から、
ダイコンと呼ばれるようになった。
根の長さ・太さなどの形状は多様。
皮の色も白が中心だが、
赤・緑・紫・黄・黒など。
原産地は地中海地方・中東。
ユーラシアの各地へ伝わり、
日本には弥生時代に入った。
平安時代中期『和名類聚抄』にある。
江戸時代に江戸近郊で盛んに栽培。
その中でとくに有名なのが練馬大根。
世界一大きくて重いのが桜島大根、
世界一長いのが守口ダイコン。
おでんには欠かせないアイテム。
葉はビタミンAを多く含み、
汁はビタミンCやジアスターゼを含有。
薬草であり、
消化酵素を持つ。
血栓防止作用や解毒作用もある。
なるほど、必須の野菜である。
流れゆく大根の葉の早さかな
〈高濱虚子〉
これら七草のセット商品が、
各地に出回っている。
神奈川県産の代表的な商品。
七草がゆのアイテムもある。
平安時代の光孝天皇には、
想像もつかなかったに違いない。
春の七草。
七草がゆ。
「粥有十利」(しゅうゆうじり)。
第1、色。第2、力。
第3、寿。第4、楽。
第5、詞清辯。
第6、宿食除。
第7、風除。
第8、飢消。第9、渇消。
第10、大小便調適。
人間は知恵がありますね。
その知恵、生かしましょう。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)