猫の目で見る博物誌――。
猫の目は季節をとらえる。
立春から雨水へ、そして啓蟄へ。
冬から春に向かう早春のとき。
猫の目が見る博物誌――。
ホテルニューオータニ。
日本庭園には池と滝。
早春の滝。
この流れの先に、
サイネリア。
あるいはシネラリア。
園芸用の植物。
キク科ペリカルリス属の常緑多年草。
しかし、園芸の際には、
秋播き1年草として扱われる。
学名はPericallis x hybrida。
英名はFlorist’s Cineraria。
和名は「フキザクラ」、
漢字では蕗桜。
日本名は、
1896年に松村松年博士によって、
命名された。
松村教授は明治5年生まれの昆虫学者。
北海道大学名誉教授。
昆虫の命名法を創案し、
ときに花にも命名した。
サイネリアの葉はフキに似た形で、
桜のように株を覆い尽くすように咲く。
だから「蕗桜」。
なかなかいい。
花の色は、桃色、赤、青、紫、白。
園芸品種なので、様々な交配で、
様々な色が出来上がった。
原産地は北アフリカのカナリア諸島。
12月から5月が見どころ。
園芸品種として、
様々な育て方指南がある。
水はけの良い土に植える。
日当たりの良い場所で管理する。
過湿も乾燥もよくない。
底面吸水で育てるのがベスト。
難易度は、春だけ育てるなら楽。
暑さに弱く、暖地での夏越しは無理。
最低気温5℃を上回る気候ならば、
屋外で育てることもできる。
管理面では「花がら摘み」をすること。
肥料は長く効く元肥と液肥を併用。
寒い時期は、
病害虫もあまり発生しない。
しかし暖かくなると、
ハダニやウドンコ病が発症する。
ホテルニューオータニの庭園のように、
群生させると美しい。
花つきがよいし、
株はこんもりまとまる。
だから家庭園芸としては、
冬の鉢花としてポピュラーになった。
ただしこの英名のFlorist’s Cineraria。
「シネラリア」と発音するが、
それが「死ねラリア」と聞こえるので、
「サイネリア」という流通名となった。
それがこの花の、
唯一といってよい問題点。
だからこんな俳句が読まれる。
サイネリヤ抱き命日と知らで来し
〈宮田登喜子〉
シネラリア窓口ヘ出す処方箋
〈福永法弘〉
さらにこんな句も。
サイネリア気の狂ふまで咲き続く
〈仙田洋子〉
それでも、園芸用品種だから、
こんな素晴らしい句が生まれた。
サイネリア咲くかしら咲くかしら水をやる
〈正木ゆう子〉
俳人は私と同年の熊本生まれ。
お茶の水女子大出身。
最後に、一句。
圓卓にサイネリヤ置き客を待つ
〈小島小汀〉
春です。
不吉に聞こえるシネラリア。
別にサイネリアと呼べば、何ら障害はない。
猫は、なにがしかの問題を抱えたものに、
共感を覚える。
シネラリアよ、名前に負けず、
早春に咲け。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)