猫の目で見る博物誌――。
猫の目は色を見分けることが苦手だ。
それでも猫の感覚は季節をとらえる。
だから白い花は好きだ。
季節を知らせる白い花が。
白樺 青空 南風
こぶし咲くあの丘
北国のああ北国の春
千昌夫の『北国の春』
1977年の春にリリースされ、
2年もかけて1979年の春に、
ミリオンセラーを達成。
累計売上げ300万枚。
コブシの花が咲く。
漢字で「辛夷」
しかし中国では、
「辛夷」はモクレンのこと。
別名は「田打ち桜」
ヒキザクラ、ヤチザクラ、シキザクラなど、
北海道や東北で多彩な名称をもつ。
だから桜に似ていなくもないが、
木蓮の仲間。
そして実際に、桜の前座の役を果たす。
コブシの開花の前に梅、
コブシの後に、桜が咲く。
学名はMagnolia kobus。
モクレン科モクレン属、
落葉広葉樹、高木。
学名が示す通り、
日本名がそのまま使われる。
つまり日本産の植物だ。
九州、本州、北海道、
および韓国の済州島に分布する。
3月から5月の早春に白い花を、
梢いっぱいに咲かせる。
花は純白。
基部はちょっと桃色。
花弁は6枚。
〈多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」より〉
果実は袋菓が結合してできた集合果。
ところどころコブが隆起した長楕円形。
つまり、にぎりこぶし状で、
デコボコしている。
大きさは5~10cm。
これが名前の由来。
高さは18mにも伸びる。
幹の直径は概ね60cmに達する。
桜の前に咲く日本産の花。
色が見えにくい猫は、
この花、好きです。
桜の前座、
それもまたいい。
何か、強烈な存在の前に位置する。
これも一つのポジショニングのあり方でしょう。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)