猫の目で見る博物誌――。
猫の目は色を見分けることが苦手だ。
それでも猫の感覚は季節をとらえる。
今回は鮮やかな色の虫です。
猫の目博物誌。
身近な動植物など、
毎週日曜日に取り上げるが、
植物が圧倒的に多い。
私たちの生活の中から、
動物が減っていき、
植物が残る。
だから植物が多くなる。
春の「啓蟄」
今年は3月5日だった。
「啓」の意味は「開く」、
「蟄」の意味は、
「虫などが土中に隠れ閉じこもる」
「啓蟄」は「冬籠りの虫が這い出る」(広辞苑)
だからいま、冬ごもりの虫が、
一斉に這い出てきている。
その啓蟄を代表する虫の一つ。
テントウムシ。
赤、青、黄色の
衣装を着けた
てんとう虫が
しゃしゃりでて
サンバにあわせて
踊りだす♪
(チェリッシュ『てんとう虫のサンバ』)
テントウムシの体は、
黒・赤・橙・黄・褐色など、
鮮やかな色で彩られている。
だからこんな歌詞が生まれた。
日本語では、
「天道虫」「紅娘」「瓢虫」
英語では、ladybirdやladybug,、
あるいはlady beetle。
beetleは甲冑類で、
カブトムシを意味するが、
それにladyがつくと、テントウムシとなる。
学名はCoccinellidae。
コウチュウ目テントウムシ科で、
この科に属する昆虫の総称。
テントウムシは、
太陽に向かって飛んで行く。
だから、日本の太陽神「天道」から、
名前をいただいた。
つまり、ありがたがられた。
成虫の体長は、
数mm~1cm程度。
つまり小型の昆虫。
成虫の体形は半球形。
脚や触角は短い。
日本では赤や黄の地色に、
黒い水玉模様が多い。
それらの斑点の数で、
細かく命名されている。
代表はナナホシテントウ。
七星瓢虫、七星天道。
こちらの学名は、
Coccinella septempunctata Linnaeus。
赤色の鞘翅に7つの黒い紋がある。
ナミテントウも多い。
学名Harmonia axyridis。
黒地に2つの赤い紋、
黒地に4つの赤い紋、
赤や黄色に多くの紋、
赤や黄色の無地。
などなど体の色はさまざま。
ほかにダンダラテントウ、
カメノコテントウ、
ヒメカメノコテントウ、
ジュウサンホシテントウ、
ウンモンテントウなど、
種類は多い。
beetleの仲間なので、
完全変態を行う。
卵から幼虫へ、
そして蛹(さなぎ)から成虫へ。
成虫は交尾する。
そのあとで産卵。
食物の近くに数十個、
かためて卵を産みつける。
卵が幼虫に孵化(うか)する。
その幼虫には羽がない。
幼虫の腹部は後方へ、
細長く伸びていく。
体には突起やとげがある。
成虫とは似ていない。
幼虫が成長して終齢幼虫となる。
その終齢幼虫が、
植物の葉の裏などで蛹になる。
蛹は楕円形。
短いけれど翅が生える。
ここで成虫に近い形になる。
この蛹が羽化する。
羽化したばかりの成虫は、
黄色い翅をしている。
しかし翅が固まってくると、
それぞれに特徴的な模様となる。
成虫は春から秋まで活躍する。
啓蟄という観点から見ると、
幼虫のまま越冬するものが、
トホシテントウなど。
成虫で越冬するものが多数。
面白いのが偽死(いし)、
あるいは擬死(ぎし)。
つまり死んだふり。
幼虫、成虫ともに強い刺激を受けると、
死んだふりをして、
関節部から黄色の体液を分泌する。
この液体には、
強い臭いがあるし、
苦味もある。
つまり防衛手段。
体色の鮮やかさも警戒色の意味。
だから鳥類などは、
テントウムシを捕食しない。
テントウムシの食性は3つに分類できる。
第1は肉食性。
アブラムシやカイガラムシなどを食べる。
ナナホシテントウやナミテントウなど、
日本でよくみられるもの。
第2は菌食性。
うどんこ病菌などを食べる。
キイロテントウ、シロホシテントウなど。
第3は草食性。
ナス科の植物などを食べる。
ニジュウヤホシテントウなど。
これは28の星がある。
肉食性は益虫。
だからオーガニック栽培で、
農薬代わりに使用される。
これを「生物農薬」という。
草食性は害虫。
天道虫登り詰めれば空がある
(野田ゆたか)
色が見えにくい猫も、
色鮮やかなテントウムシは好きです。
天道神の虫だなんて、
ちょっと幸せそう。
擬死や警戒色なども、
いじらしい。
それに結婚式の歌の定番。
でも本物のテントウムシを、
見たこともない人たちが、
てんとう虫のサンバ、
歌うんでしょうね。
これもテントウムシなりの、
ポジショニングなのでしょう。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)